第11話 ラキ お婆さんに聞いちゃう
「はよ、はよあがって。娘さん」
「……おっ、おっ邪魔します」
「この子に、こんなもん貰っただよ。触ってみんかね。お婆さん」お爺さんがカイロを渡す。
「……なんだねこれ。おったまげた。ぬくといけど、どういう仕掛けやら」 お婆さんはカイロを手のひらでぐりぐりしている。
「それは、携帯用カイロっていって熱を発するもので、……それより、お爺さん、お婆さんに言わないんですか?」
本来の目的を忘れるところだった。呑気に白湯をすすってしまった。体もかなり暖まってきたら急に冷静になり、お爺さんに促した。
「面白い娘さんだね。あんたの名前もけったいやったが、男の子も面白い名前だっただよ」
「お爺さん、何言うてますの?それより笠は売れたんかえ?なんも持ってませんでしたよ」
「……あーそうじゃった。1つも売れんでの。帰りに寒そうにしてたお地蔵様にかぶせてきた。ちいこい地蔵さんには、わしの手拭い巻いてやったんじゃよ」
キター。私が待ちに待ったお爺さんの台詞だ。ポケットの手帳を出す。それにしても家の中が暗い。火鉢ひとつで暖をとり、灯りは土間にあるかまどの火だけだ。さぁお婆さんの台詞が来る。これが来たら私は聞きたいことがある。
「……お爺さん、それは善い事しましたね」
パチパチ、パチパチパチッ。私は思わず拍手してしまった。手帳のメモ書きが暗くて読めないので、諦めてポケットにしまう。
「……あっあのぉ。お婆さんに聞いていいですか?今お爺さんに言った言葉は本音ですか?」
「……かわや?寒いが、外にあるだよ」
どうしたら本音をかわやと聞き間違えるのだろう。お婆さんは耳が遠いらしい。
「ほんとに、お爺さんのしたことは良いことですか?」 今度はっきり強く聞いてみた。
「……そりゃああんた、寒そうにしてるお地蔵さまに笠かぶしてやるのはええことじゃよ。お爺さんは優しい人だでなぁ」
「けど、明日はお正月ですよねぇ。お餅も米もないんですよね?何でお爺さんを誉めてにこにこしてるんですか?私のお母さんは、お父さんの給料が上がらないだけでもぶつぶつ言ってますよ」
「……きゅうりょうってなんだいねぇ」
「……芋の種類かねぇ、お爺さん。そういえば、まださつまいものツルがあったで明日煮ましょうかねえ?」 お爺さんとお婆さんが、仲良く見つめあって話している。
私の質問に答えてくれてませんけど。
「それよりもう遅いで寝ましょうかね。娘さんもここで寝て、朝早く家に帰るといい」
「そしたらいい。わしは婆さんと寝るで、あんた婆さんの布団に寝たらいい」
えっ、このまま泊まったら明日学校遅刻する。でもまだ[こはいかに]というキーワードがない。
私は頭の中が混乱した。物語の中でも同じように時間が経過しているのだろうか?不安の中、湯タンポにお湯を入れてもらう。
夜中にお地蔵様達が、御馳走持って来るのだ。お爺さんとお婆さんの反応を見てもう1つ質問をすればいい。
ガタガタ震えながら布団に入った。先に寝付いたお爺さんが寝言を言うのが聞こえる。
「……ソラ」やはりソラ君だ。私の為に暖房セットを届けてくれたのは、ソラ君だと確信した。
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