第10話 笠地蔵 お婆さん

「はっ、はっくしよん」 寒い。寒すぎる。

 ここはまさしく冬だ。ほんとに笠地蔵の話の中に入っちゃったんだ。馬鹿な私。カイロ持ってこればよかったよ。

 

「……あんた、こんな所で何してなさる?」

「ひっ、誰、誰ですか?まさかの?主人公?」

 もう特殊撮影でもほんとのタイムトラベルでもどっちでもいい。寒すぎることに震えた。

「あんた、もしかしてラキさんかね?……さっきあんたみたいな紺色のかっこした若い男の子に声かけられてな、少し歩くと女の子に会うで、これ渡してくれと頼まれたさ」

 吹雪の中、少し目が慣れてきた。お爺さんだ。背は私の肩くらいだ。腰が曲がっている。


「お尋ねしてもいいですか?」

「それよか、これ巻きねぇ。あとこれっ」

 お爺さんはマフラーを首に巻いてくれた。そして白い布バックを渡してくる。中を開けるとカイロや湯タンポが入っている。


「……いいやぁ、婆さんに餅買ってくるって言っちまったが、1つも売れんでのぉ。気落ちしとったら、男の子に渡されだ。これさ、首巻くのはわかったけどよ、こらなんでぇ。食えんのかね?帰り道のお地蔵さまにも使えねぇ。透明のツルツルした袋に入ってだども、字も読めねぇ。」

 いきなりの展開にびっくりした。笠地蔵の主役のお爺さんに会うし、カイロ渡されるし。

「……ありがとうございます。きっと今日は大晦日ですよね?それでお爺さん、笠を売って正月のお餅や米を買う予定でしたよね?それで売れなくて、お地蔵さんに笠かぶせてきたんですよね」 早口でまくし立てる。


「よぉ知っとるねぇ。あんた」

「……これを、これを揉んで下さい」

  私は慌てカイロの袋を開け、自分の体に貼り付け、お爺さんの背中にも貼った。鼻水は出るし、まともに話せない。寒くて口が開かない。

「……ぬくといなぁ。ありがと。ありがと」


私はお爺さんじゃなくてお婆さんに用がある。

「なんも無いけど、うち来るかね?」

「いっ、いいんですか?……良かった」

 美月もいきなりリングサイドにいたけど、私もいきなりの雪の中。 こんな所から笠地蔵の主役の家を探すなんて無理な事だ。

 

 もっと詳しく教えてもらうんだった。バイトのマニュアルもらわなきゃ。


「あんたら、草履もけったいなもん履いとるね。さっきの子もそんなんだった。どこの子かね?ここいらへんじゃ見ん顔だね」

「お爺さんの家に着いたらお話します」

「そうかね。そうかね。雪も止んできた。今のうちに帰ろうか。……それにしてもぬくとい」


  カイロを気に入ってくれたのだろう。お爺さんはよく見ると、つぎはぎだらけの薄手の服だ。

 そこから20分くらい歩いただろうか?湯タンポの下にあったダウンのハーフコートを着てお爺さんの後を付いていく。


 布バックになにかしらの文字が読み取れる。

月明かりで[S.K]のイニシャルがはっきり読めた。

「ソラ君だ!お爺さん、さっき会った男の子って名前を言ってませんでした?」

「……いいや、覚えとらん。さぁ着いた。お婆さん、笠は売れんかったが、お客さん連れてきたで。白湯でも飲ませてやってくりょ」


 あまりに寒そうで、ソラ君が後から届け出くれたんだ。お礼を言わなきゃ。でも会ったらいけなかったんだ。3回でペナルティだ。

 

 お婆さんにやっと会える。ポケットの手帳をもう一度確認する。質問を覚えた。


「……お爺さん、お帰りなさい。客さまもお入んなさい。寒かったね。寒かったね」

 

「お邪魔します」 寒くてダウンは脱げないまま家に入る。どこが玄関か分からなかった。

 

 


 

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