第18話 月収300万のバイトって何するの?
「……もしかして、まさか、やっぱり?」
美月がおそるおそるソラ君に聞く。ねえ私も同じ事思ったよ。やるしかないの?無理だよ。
「……何がやっぱり?」 ソラ君がまた笑う。
「バイトで月に300万だよ!私はタイガーマスクとして、ラキは……、えっまさかお爺さんと?」
美月の顔が恐怖と笑いのひきつった顔になる。そうだよ。そんな事まで考えてタイムスリップしたわけじゃないよ。
「それなら光源氏に会いに行くんだったよ」
私は半泣きになりながらソラ君に言う。
「さっきから二人とも何言ってんの?」
「だって、でも……どうしよう?」 言葉がでない。もし、美月と私の考えてる事が当たりならバイトやめなきゃ。そこまでしてお金を欲しいわけじゃない。美月の手を無意識に握る。
「……ごめん、売春とか臓器売買とかさせないから。今から説明するよ。てか、タイムスリップした人はもっとそっちに驚いてよ。あり得ないこと体験したんだからさ。タイムトラベルが出来るって事は企業じゃなくて、もっととてつもない組織の力なんだから」
「そっ、そうだね。確かに。特殊撮影なんかじゃなかったよ。私達、本当にタイムスリップしたんだ。すごいことだね」
「でしょ?宇宙開発してる企業と政府と、おっと、詳しい事は言えないけどね。うぅん、簡単に言うと広告宣伝費だと思ってよ。イタリア、アメリカ、日本で、このバイトしてるの50人位だから、一人当りのバイト代がすごいってわけ。まあ、人によって違うけどね」
私は夢でも見てるのかと思った。美月の手を握ると、美月も握り返してくれる。現実だ。
「まあ、一ヶ月後に通帳見たら分かるよ。二人とも手続き済んでるからね。……それより、美月がバイト代貯めてけば、資金なんてあっという間に作れると思わない?」
一ヶ月で100万だとしたら、一年で1200万。高校生活の3年間バイトしたら、3000万だ。
「お父さんの給料の何倍なの?退職金でもこんなにもらえないかもよ」
美月が手を叩く。けい兄ちゃんの為にお金を簡単に貯められる。嬉しくて涙が出そうな美月。私はあまりに突然の展開に戸惑った。
「ラキさんは、何にお金を使うつもり?」ソラ君が真剣に聞いてくる。
「考えてないよ。だってお小遣い増やしたいだけだもの。強いて言えば大学行くための資金かな?親の負担を軽く出来るから」
「頑張り次第では、不動産も買えるし、外国暮らしも夢じゃないよ。親の収入が少なくて、行きたい道を諦める人生なんて嫌でしょ?高校時代のバイト代の固定概念を吹っ飛ばして、お互い頑張ろう。花音も少ししたら、バイトの仲間に加わるだろうし」
「じゃあ、みんなで頑張ろう。私、毎日でもバイトしたい。けい兄ちゃんの個展をひらく資金稼ぎをするんだ。けい兄ちゃんの夢が叶うし、叔母さんの将来の経済的不安も取り除いてあげられるもの。ほんとに、ソラ君、ありがとう」
「……ただ、家に帰ったら、もう一度、マニュアル確認してね。一番大切な事は、タイムトラベル中に現代人に会わないことだからね。3回でアウトだからね。稼ぎたくてもクビだからね。メモしてあるでしょ?」
「あっ、そうだった。ペナルティだね」
私は制服のポケットに手を入れる。花柄の手帳に書いたはずだ。何か固い物が当たる。
「あっ、どうしよう。小判だ!お婆さんが入れてくれたのかな?持ってきちゃった。どうしよう?ソラ君、これってペナルティになるの?」
焦った私は他のポケットにも入ってないか確認した。一枚だけのようだ。
「大丈夫だよ。ラキさんの意思じゃないよね。お爺さんとお婆さんがお土産にしてくれたんでしょ、もらっておけばいいよ」
笠地蔵の物語の記念だ。私は遠慮なくポケットにしまった。
「ラキ、早く帰ろう。明日もバイト入らなきゃ。ハートのキングもらえるように頑張ろうよ。いい質問考えるからね」
美月はやる気満々だ。私は早くお父さんとお母さんに、バイト代300万円って伝えなきゃ。
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