第27話 ソラ君 鬼畜へのコメント

「今回も見応えあったな。あの子はほんとにスゴい!ラキと同じ年だと思えないなあ」

「だから、私はソラ君のファンなの。あの子はずっとミステリアスだなって思ったけど、今のでなんとなく分かったわ。ラキはどう思う?」


 私はソラ君が遠い遠い存在になった気がした。自転車置場で挨拶するソラ君とは別人だった。頭を優しく撫でてくれた手はもう掴めない気がした。クラスメイトじゃなくて、有名な俳優さんに思えた。お母さんが言うようにミステリアスな片想いの男の子にかわる。


「住む世界が違う」一言で言ってしまえば簡単な言葉を私は呟く。日本の片田舎の、普通の家庭の普通の女子高生なんだもん、私。


「で、ソラ君はどうして日本に来れたの?」

「あっ、プロフィールがあるでしょ。そこを見ると詳しく書いてあるのよ。誕生日も血液型も、その後に、ほら」


 お母さんが指差す。誕生日は9月8日だ。O型。イタリア生まれのイタリア育ち。日本の<こはいかに>の社長との肩書きだ。


「えー社長なんて聞いてないよ」

「……けど、今のでイタリア生まれじゃないって分かったよね?あっ見て見て見て」

 お母さんが三回も見てを叫ぶ。画面にはソラ君へのコメントがひっきりなしに届いている。


「ソラ君、かっこいい!もっと好きになった」

「辛い過去に負けるな!」

「説得力最高」「今は幸せなのかな?」

「うちの親も鬼畜です。もう死んでまぁす」

「親に虐待された経験あります。あの日から時間が止まったままです。幸せになって復讐」

「ソラ君のおかげで、頑張れそうです」

「ソラ君大好き。日本にずっといてね」

 

 追い付かない。読みきれない。一言のコメントがあっという間に100、1000となっていく。


「いつもそうよ。それだけソラ君の影響って大きいの。有名人なんだから。私もコメントしようかな」お母さんがパソコンに向かう。


「それより、今日のソラ君への評価はどうする?……お父さんは、心にグッときたからハートの7かな。お母さんはどうかな」


 チャンネル登録してある人は1週間以内に評価すればいいらしい。何度も見て考えたい時もあるからだ。


「……ほんとにコメントがスゴい!私、とんでもないバイトしてるかもしれない」

 こんなに多くの人に見てもらって影響を与えるアルバイトってあるだろうか?ソラ君の足元にも及ばないんだよ。お金貰っていいんだろうか?怖くなって来た。


「お母さん、ずっとソラ君見てきたんだけど、最初はもっと楽しそうな感じだったよ。まあ選ぶ物語によるけどね。ちょうど、半年くらいになるのかしら?ラキも慣れてくるわよ」


「ラキにはラキの良さがあるし、美月ちゃんには美月ちゃんの良さがある。人と比べられない所がこの<こはいかに>の醍醐味だね。」


 なんか親に言われて安心した。コメントで文句言われたり、否定されることに臆病になっていた。私は私の<こはいかに>がある。


 次は何にしようかなと考えるとワクワクしてきた。私は私らしく頑張ろう!


 



 

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