第34話 ソラ君の孤独感

「……分かった、アイスクリーム食べるの忘れて……また買い直すためかな?何ヵ月も冷凍庫に入れておくと、臭いが移って不味く感じるよね?けどこれは美味しいよ」美月がバニラのアイスを一口食べる。ソラ君が爆笑した。

「……美月って面白いね。んなわけないよ。じゃあラキさんは?」

「……。」答えられない。アイスクリームが家にあったら弟と競争して食べるもの。


「……ブー、時間切れ。お金は自分の孤独を紛らわすために必要なんです!わかるかな?」

 ソラ君が寂しそうに笑う。

「お金があれば、何処でも行けるし、何でも手に入るよね?このマンションに美月や花音、ラキさんに住んでもらえるんだよ!会いたい時にいつでも会えるし、また一緒にご飯も食べられるんだよ!今度みんなで旅行しよう。夏休みにハワイに行かない?」

 そういうこと?お金があれば独りぼっちにならなくてすむんだね。


――夕日が沈んだ。本当に夜景がきれいだ。自分が住んでいる町をこんな高い所から見るのは初めてだった。

「あそこらへんかな、私の家?」美月がカーテンを開けて指を指す。私の家は美月の家とは反対方向だから見えない。

「こんな夜景が毎日見られるなんて羨ましい」星空が町全体を包み込む感じだ。ソラ君の話の途中で私と美月が騒ぐ。「窓を開けていい?」


「……まだ風が冷たいね。贅沢過ぎるよ、ソラ君は。美味しいもの食べて、夜景楽しんで、とびきりのお金持ちで……」美月は思っている事をすぐに口に出す。

「……孤独なんだけど……。この時間が一番孤独で淋しくて叫びたくなるんだ!」

 ソラ君が言葉を絞り出す。家に帰れば、私も美月も花音ちゃんも、ほとんどのクラスの子には家族がいる。当然の事だと思っていた。

「うちの学校って寮があるでしょ?何人かは家族と離れて暮らしてるんだよ。ソラ君だけじゃないんだよ。甘えん坊ね」美月がまた言う。


「……寂しいならたまに家に帰ればいいよ!」

 もしかして、美月はソラ君の生い立ち知らないのかな?ただのお金持ちのお坊っちゃまと思ってる?

「……美月、ソラ君の<こはいかに>鬼畜って見た?」「まだ見てないけど、何で?」

 ソラ君が産みの母親に捨てられて、継母にいじめられて、父親と共謀して殺されかけた話を見てない?――それならそんだけ言うね。


「……あっあの、ソラ君、実は、美月は……」


ソラ君の方を見ると、泣いている?月明かりでしか確認出来ないけど、顔をおおっている。……泣いてるよね?たぶん。えっどうする?

「……ラキ、そろそろ帰ろう。ソラ君、ご馳走さまでした。また明日学校でね」

 最悪の状況の中、最悪の言葉だ。私はもう一度、ソラ君の顔を見た。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る