第19話 小判もらったよ

「ただいま。……お母さん、どこ?」

夜の8時をまわっていた。いつもこの時間はキッチンにいるはずのお母さんがいない。


「ラキなの?夕飯はクリームシチュー作ったから温めて食べてね」2階から声がした。

 

「ただいま。おっラキ、お疲れ様。会社のパソコンで見たけど、お前頑張ってたな」

  手を洗っていると、お父さんの帰宅。


「えっ、仕事中に見てくれたの?」

「お前のデビュー戦だ。楽しみにしてたよ。美月ちゃんは同じ時間だから、リアルタイムでは見られなかったからね、後で見るよ。……お父さんの夕飯も用意してくれるか?」


「お母さん、何してるんだろう?お父さんが帰ってきたよ。ご飯の支度してよぉ!」

「いいよ、<こはいかに>見てるんだろうから。ラキの笠地蔵見てると思うよ」


お母さんのパートは午後6時までだ。私と美月の<こはいかに>を見られなかった。なんか親に見られるのって複雑だ。運動会や音楽会のビデオ観賞とはわけが違う。自分で考えた質問、自問自答してるところを全部聞かれる。


「……でもラキの言ったこと、当たってるだけに恥ずかしかったな。確かにお父さんの給料上がらなくて、お母さんがぶつぶつ言ってるもんな。……ラキは笠被せたお爺さんより、お婆さんと話したかったのか。面白かったよ」


お父さん、ほんとに見てくれたんだ。悪い事しちゃったな。謝らなきゃ。


「ラキ、まったくもう。あぁ恥ずかしい」

2階からお母さんが降りてきた。ぶつぶつ言う妻のイメージを持たれる事に怒っている。


「あとで、美月ちゃんのも見るよ。タイガーマスクに何言ったんだろう、楽しみ」


高校の合格発表の時以来だ。お父さんとお母さんと私と3人でこんなに笑うの。共通の会話ってありそうでなかったから。


「でも、小判が入った巾着貰えばよかったのに。現代で売ればかなりのお金になったのに。欲がなくてびっくりしちゃったな」


「物欲より、心の豊かさが大事って気付いたんだから、ラキは偉いぞ。感動したな」

お父さんがフォローしてくれる。お父さんは優しい。私の一番の理解者だ。


「でもね、見て。小判が一枚ポケットに入ってたの。お婆さんがこっそり入れてくれたみたいなの。ソラ君は記念にもらっていいよって言ってくれたの。本物だよ」


私はキラリと光る小判をお父さんとお母さんの目の前に差し出した。


「売ってしまおう」 二人とも同じ事を言う。

 

 さっき、物欲より心の豊かさが大事って同調してくれたのに。現代のお金に換えてしまう方が特だと言わんばかりの即答だった。ここでバイト代がいくらか伝えたら、お父さん、仕事やめちゃうかもしれない。言うのをためらった。


 

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