第43話 ソラ君 メロスの謝罪
「分かった。――もう陽は沈んだか。遅かったか。セリヌンティウスよ、許せ」
メロスが男泣きに泣いている。
「この裏切り者の為に……自らの命を、命を」
砂ぼこりと涙でぐちゃぐちゃのメロスの顔がアップになる。
「そういうとこだぞ、メロス。お前が嫌われるのは。芝居がかったその嘆きにうんざりする」
メロスの背後のソラ君が腕組しながら叫ぶ。
「走れメロス」じゃないよね。確かメロスは陽が沈む前にシラクスに着いたはずだよね。混乱する私の腕を美月が擦る。美月も同じこと考えてる。
――ソラ君らしくない。
「メロス、お前は自己中心的なんだよ!略して自己中、知ってる?」
「信じるものの為に走るのだ。走らねばならないのだ!今行くぞ、セリヌンティウス。いま」
メロスはソラ君の質問に答えず、うなされなように空を見ながら叫ぶ。
「もういい、メロス行けっ。謝ったら行けっ」
――ドン、ケッ、ブチ。鈍い音が聞こえた。その音の主を探す私と美月。
四つん這いになっているメロスをソラ君が蹴飛ばしている。
「はい、これは脇腹蹴られて死んだ犬の分、で、これがあの老人の痛みの分だっ」
ソラ君はもう一度足を振り上げた。
「キャー止めて下さい!もういい、もういいんです。あなたには本当に良くして頂きました。このシップというものを貼れば、治るのでしょう。あなたはこの男の人に関わってはいけないんです。早くこの男、メロスの願望を叶えさせてあげて下さい!」
老人のそばで泣いていた若い娘がメロスをかばって抱きついている。
「やってらんないな!じゃ、俺は先に王様とセリヌンティウスの所に行ってるから」
ソラ君は吐き捨てると画面から消える。
「……娘よ、すまない。本当にすまない事をした。そうだ、俺は勝手でどうしようもない奴だ。なにがなんでもセリヌンティウスの元に行きたかったのだ。娘よ、許してくれ」
メロスは額を地面に押し付けて謝っている。
「どうか行って下さい!走って下さい!」
娘に促されて、よろよろとメロスは立ち上がり、老人に一礼して走り始めた。
メロスが画面から消えた。
と、同時くらいのタイミングで馬の嘶きが聞こえてくる。
ソラ君だっ。ソラ君が馬に乗ってやって来た。
「いったい、ソラは何をしたいの?」
美月も私もこのあとの成り行きを見守る。
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