第31話 ソラ君のマンション
「……いっ今、何時?」――自分でもびっくりした。時間なんて気にならないけど、ソラ君の本音を聞かなかった事にするために咄嗟に質問する。
「5時だけど……何か予定でもあるの?」ほんの一瞬、寂しそうに笑った……気がした。
「べッ、別にないよ。バイトもやめておくし」
「……ふぅん、じゃあ遊んでけば。美月も花音も用事ないなら遊んでけば?」
「私は帰るね、ピアノコンクール近いから。ほんとはこんな所に寄ってる場合じゃないから」
花音ちゃんみたいにはっきり言える子が羨ましい。花音ちゃんは明日ねと言って玄関のドアを閉めてしまった。
「美月は?……寿司でもとろうか?」普段の明るいソラ君に戻っている。安心した。
「……お寿司?じゃあお言葉に甘えて」
美月もはっきり言う。お寿司につられて帰らないって16才の乙女のすることかな? ソラ君の顔がぱぁッと明るくなった。私もお言葉に甘えて肩に掛けた鞄を床に置く。今気がついたけど大理石だ。ソラ君が弾むようにカーテンを開ける。「……ここからの夜景は綺麗だよ」満面の笑み。このときの片エクボが……罪作りだ。
「……そうでしょうね。このマンション、たしか1年前に建てられたよね?でも田舎にこんな10階建てのマンション必要かな?」私はマンション建設に反対だった。畑や田んぼのど真ん中だ。太陽が当たらない所もあるんだけど……。
「……ごめん。なんかごめん」「何でソラ君が謝るの?……もう完成して住んでるんだから、夜景を楽しめばいいじゃない」リビングに戻って来た美月がソラ君に言う。
「……親父が建てたんだ。もちろん、この町の発展を願ってだけど、田畑があるなんて知らなかった」「そうよね、反対派の意見なんか耳を貸さないのが、不動産王のやることよね?」美月のお父さんは市役所に勤めている。今までの成り行きを聞かされてきたのだろう。
「花音もここに自分の部屋があるよ!」
「うっそー。初めて知った。……どおりで」
セキリュテイがしっかりしてそうなのに、簡単にエレベターに行けたのは、そういう事?
「……防音対策バッチリのピアノの練習部屋があるんだ。今日は自宅だろうけど」何でソラ君は知っていて、親友の私たちは知らないの?「このマンション、俺の名義」ソラ君は私たちの疑問に答える。学校には内緒って事らしい。
「花音ちゃんもお嬢様だからね。私たちとは住む世界が違うのよ!」「……そうだね」花音ちゃんは自分がお金持ちっていうことに気がついてない。自慢しないから、親友なのだ。
「ラキさんも、美月もここに住めばいいよ!確か、八階が空いてるよ。家賃安くするよ」
「ばっかじゃないの?自分のおこづかい稼ぐバイト学生にそんなこと言うなんて、ラキも言ってやりな」美月が喧嘩腰になる。
「……。」無理だ。ソラ君の生い立ちを聞いてから、恋心に母性愛まで芽生えちゃった。
「……この前の説明聞いてた?バイト代で十分家賃払えるから大丈夫だよ。1ヶ月20万でいいよ!1年分まとめて払ってくれたら100万にまけとくけど」本気で言ってるのかな?
「マジですか?」美月は口がさらに悪くなる。まだ私たち、バイト代貰ってないから現実的に考えられないのかな?いや、現実的なら16才の高校生がこんなマンションに一人暮らしするのおかしくない?
「いっそ、ラキさんと美月と一緒に住めば。シェアってやつ。なんならここに来る?俺のとこなら、家賃はなし。どうする?」
イタリア人の血なのか、セレブってるソラ君の考え方なのか分からなくなってきた。
「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、何でソラ君は私は呼び捨てで、ラキにはさんつけるの?花音も呼び捨てだよね?」
――美月の引っ掛かる所、そこですか?
「……そうだね、何でだろっ、無意識かな」
インターホンがなった。お寿司が届いた。息巻いてた美月の大好物だ。しかも、出前の特上のお寿司。お正月くらいしか食べられない。
「マンションの話はまたあとで話そう。おにぎりだけじゃ足りなかったよ。みんなで食べると美味しいよね?……お茶入れてくるね」
ソラ君のテンションが上がる。今は3人で楽しい時間を過ごす事が一番のお見舞いだと気がついた。
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