こはいかに
星都ハナス
第1話 ソラとの出会い
真新しい革靴で自転車をこぐ。
ピンクの花びらが舞っている。ヒラヒラと紺色の制服に蝶のように止まった。
「わぁ、ハート型だっ」
不安がいっぺんに吹き飛んだ。今日から高校生活が始まる。
「おはよう、ラキ]
中学も同じだった花音(かのん)ちゃんが校門で手を振ってくれている。
花音ちゃんはバス通学だ。
同じクラスになれたから、校門で待っていてくれるって言ってたな。
私は安心して自転車を降りた。
「おはよう、花音ちゃん。待っていてくれてありがとう。自転車置き場においてくるね」
ちょうど、反対方向から来た美月(みつき)も一緒になり、二人で自転車置き場に向かった。
私の所にすでに自転車がある。
「ねぇ、私の番号って32番だよね。12HRの32番で合ってるよね?」
「私は相曽だから1番」
美月は自分の自転車に鍵をかけて一緒に探してくれる。
「ラキはたかなし、小鳥が遊ぶ方のたかなし」
小学校も中学校も同じだった美月は、私を自分の友達に紹介する時、いつもこう言う。
「32番に誰か停めてるよ。あっ、面白い、自転車のステッカーが23になっている」
32と23と間違えちゃったんだろうか。
「小学生みたい。まあラキ、今は23番に置いておこうか。もう時間もないよ」
私は美月に言われた通りにして鍵をかけた。
教室に行くまでの間、美月は花音ちゃんにそのドジな子について話している。
23番って事は、か行の苗字かな。女の子だったらいいな。男の子だったらどうしよう。
「大丈夫だよ、ラキ。私がガツンって言ってあげるから」
「ありがとう、花音ちゃん」
花音ちゃんは中学2年生の時に転校してきた。
色白で、栗毛で可愛らしい。都会の空気は持病の喘息に悪いからと、田舎に越してきたのだ。
「担任、女の先生で良かったね。ソフトボール部の顧問でしょ。厳しいかも」
美月は花音ちゃんと正反対で、色黒のショートカット。中学時代はソフトボールのキャッチャーで全国大会まで行っている。
「ソフトボール部の先生がみんな厳しいとは限らないよ。あの中学の先生は特別だよ」
私は美月を安心させた。私たち、1年生のクラスは4階だ。美月はさすが息を切らせない。花音ちゃんもサラサラヘヤをなびかせて階段を昇る。
「ラキ、運動不足でしょ」
バレーボール部だった私は、夏の大会が終わってから5キロ太ってしまった。美月にはバレている。
高校でもバレー部に入ろうかな。
やっと12HRに着いた。
「お尋ねします。23番の人手を挙げて」
まだ自分の席に着いてないのに、花音ちゃんの声が教室に響いた。こういうところは大胆な都会生まれの帰国子女。
「俺だけど。なんかようかな?」
男の子だった。私は美月の後ろに隠れる。
「小早川くぅん、何したの?」
その子を知っている女の子の一人が、甘い声で
苗字を呼んだ。
こばやかわ。確かに23番くらい。それよりも
その小早川君がこっちに向かってくる。
「あなた、自転車おくとこ間違ってるよ。ラキの場所に置いて迷惑なんですけど」
花音ちゃんがストレートに言う。私は迷惑とまでは思ってなくて、どぎまぎした。
「ごめんなさい。今日はめんどーだからそのままでいいかな?ラキさん」
小早川君が私に謝る。
どうして私がラキって分かったんだろう。
「良かったね、ラキ」
花音ちゃんも美月もほっとして自分の席に向かう。私も昨日覚えた場所に行く。
そこで初めて小早川君が斜め後ろに座っていることに気がついた。昨日の入学式の後、教室に入ってこの場所に座ったけど、緊張していて
クラスのみんなの顔は覚えていない。
「ラキさん、ほんと悪かったね。明日から気をつけるから」
みんなが席に着いて静かになった頃、斜め後ろから小早川君の声がした。
私は振り向かずに、軽く頭を下げる。人見知りで、内気な私は怖かったからだ。しばらく心臓がどきどきして周りに聞こえるんじゃないかと思った。
先生が出欠をとった。
小早川君の名前はソラだった。私と同じカタカナの名前。
これがソラとの出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます