第2話 片思い

 翌日、小早川君より早く学校に着こうと、5分早めに家を出る。花音ちゃんには先に教室に行ってもらうことにした。


 学校までは自転車で30分かかる。

共働きの両親と、弟の飛鳥と4人暮らし。弟は私と違って勉強が出来るからと私立の中学校にバスで通っている。


「お金ないわけじゃないのよ。ラキが大学行きたかったら行っていいんだか」


そんな言葉に甘えて進学校を選んだ。せめて交通費をかけないようにしよう。


 私は独り言を言いながら自転車をこぐ。


「おはよう、ラキさん。待ってたよ」 あの声は、もしかして小早川君。だ。


 自転車置き場に小早川君がいる。


「また間違えないように、待ってたよ。今日はしっかり23番にとめました」


 小早川君は少しどや顔をして言う。


「あぁ、ありがとう。じゃ32番にとめるね」

 私は慌てて小早川君の前を通りすぎる。これ以上二人で話す事もないからだ。


「ラキさん、一緒に教室に行こう」


 自転車のカゴから鞄を取り出して、小早川君が追いかけてきた。私は聞かないふりをして足早に教室に向かう。


 クラスの女子に見られたらどんな噂を立てられるかわからない。


 「ソラに命令するなんて図々しい」

花音ちゃんがクラスの女子に昨日責められたばかりだ。その子は小早川君と同じ中学校で、小早川君を追ってこの高校にしたと聞いた。


「小早川君って、モテるんでしょ。私なんかと一緒に歩くと評判落ちると思います」


 早足なので、口調も速くなる。


「ラキさん、敬語やめてくれるかな。その小早川君も気持ち悪いから止めて。ソラでいいよ」


「分かりました。ソラ君、私友達待っているので、お先にどうぞ」


追いかけてくる小早川君を先に行かせるために、嘘を言ってしまった。花音ちゃんも美月も別々に教室に行くようにラインしてある。


「そんなに嫌わなくても。ねぇ、何でラキさんってラキって名前なの?」


 唐突な質問に驚いて足が止まる。ラキはおじいちゃんが付けてくれた名前だ。本当は羅生門の羅に生きる。羅生だと読めないし、書けないということで、カタカナ。父も母も泣くなくこのカタカナで承知したらしい。


「ソラ君は何でソラなの」 あまり興味なかったが聞いてみた。


「俺、実はクウォーターなんだ。おじいちゃんがイタリア人なの。でっ、ソラ、ウミ、リク」


 そういわれてみると、長身で顔が小さい。鼻が高くて、彫りが深い。昨日はじっくり見ることが出来なかったから、私は改めてソラ君の日本人離れした体型と容姿に納得した。


「ソラ君のカタカナ名前はソラ君に合ってるね。私はバリバリの日本人顔で、日本人体型だから、ラキって名前からかけ離れてるみたい」


「まあ、それで入学式の日、顔を覚えたからね」


どういう意味? ギャップがありすぎてインパクトが強かったの?


 私は顔から火が出そうになった。涙もこぼれそうになる。


「傷付いたらごめん」 ソラ君は泣き出しそうな私を見て慌てている。


 頭を突然、ポンポンと優しく撫でられた。

 私はその手を振り払って、教室まで走る。


 男の子に触られた。しかも昨日話したばかりの子だ。イタリア人の血が入っているから何をしても許される?


 心臓のどきどきがおさまらない。

 

 私は簡単にソラ君に恋してしまった。




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