第23話 鬼畜のダイジェスト版を見て

「……グスッン。もうほんとにもう、ダメ」

「そうだよなぁ。健気だ。この子は健気だ」

 ダイジェストを見ただけだ。お父さんもお母さんもまるで、全編見たように感動している。そりやぁ私だって、最後の場面は泣けたけど……正直よく分からなかった。

「えっ、お母さん、小さい頃に一度見たっきりで思い出せたの?……すごっ。私なんか子供がいじめられるシーンばかっで怖かったよ」

 最初の場面で、浴衣を着た女の人が赤ちゃんをおんぶして、両手に幼子連れて、町工場みたいな所を訪ねていた。その子供達が主役なのだろうか?

「そうなのよ、確かお妾さんが、自分の生んだ子供達を旦那の所に押し付けるのよね」お母さんが興奮している。

「そうだった。工場が火事で借金こしらえて、旦那から生活費貰えなくなって、子供をこの家に置いてったんだよ」お父さんも思い出したように話す。

「……それで本妻がヒステリーになってたんだねぇ。赤ちゃんの口にご飯詰め込んでたよね。怖かったぁ。今なら虐待で通報されるよ」

 私が一番印象に残った場面だ。思い出したら、腹が立ってきた。BGMが流れていて、はっきり台詞が聞き取れなかったけど、赤ちゃんの泣き声が耳にこびりついている。

「……悲しい事に、あの赤ちゃんは栄養失調で死んじゃうんだよ。かわいそうに」「えっ、たしか本妻が事故に見せかけて殺したんじゃなかったかしら?」お母さんも記憶を辿る。

「そうだったかな?そのあと、女の子も捨てられるよな。お父さんの名前も住所も何も言えないから東京タワーに置き去りにするんだよな」

「遊園地じゃなかったかしら?」

 どっちでもいいよ。親子3人がカップヌードルの残り香の中、コーラやビールを飲みながらの会話がホラー映画の感想?


「そうそう、妹の行方不明に疑問持ったとたん、今度はお兄ちゃんが青酸カリの入った食べ物を口に押し込まれるのよね?」

「何それ?そんなシーン、ダイジェストにはなかったよね?」「なかったなあ。殺し損ねて最後に父親が崖から落として殺そうとしたんだよ!」

 えー、どういうこと?何で?何で?何で?

「あの場面がそうだったの?……眠ってしまった息子を優しく抱いてたお父さんが、あのあと崖から落としたの?……だって、最後にあの男の子が刑事さんと話してたよね?生きてたよ」

「そうだよ。そこからクライマックスだね」

「えっ、記憶喪失になったってこと?〖父ちゃんじゃないよ〗って泣いてたよね?」

「それじゃあタイトルが記憶喪失になるでしょ。鬼畜って意味知ってる?鬼や畜生みたいに残酷で恥知らずな事をする人の事だよ」


 気分が悪くなってきた。私はお父さんやお母さんに、口うるさく言われた事はあるけど、十分愛されたと思っている。


「ラキは学校で習わなかったか?戦争時代に日本が鬼畜米英と戦ったって。まぁ最近の子は知らないよな」お父さんが笑う。笑うとこじゃないよ!お父さん。ほろ酔いだろうか。

「お母さん、ビールもう一本いいかな?……それにしてもソラ君はどの鬼畜に質問するんだろうな。子供を捨てた母親か?殺そうとした本妻か?一番罪重いのは父親だよな」

「全く分からないわ。どうする?質問する場面を先に見ておく?それともいきなり、ソラ君の<こはいかに>始めちゃう?ラキはどうしたい?」


 〖鬼畜〗がこんなに重くて怖くて深い物語だって知らなかった。ソラ君が生まれるずっと前の映画だろう。何故ソラ君がこの話を選んだのか興味があった。


「男の子は記憶喪失じゃないんでしょ?先に質問する場面をしっかり見ておきたいな」


 お母さんは分かったと言って、クエスチョンシーンの所にカーソルを合わせた。


 

 


 

 

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