第41話 美月の反撃

「美月、大丈夫?」「あったまくる!」


 ソラ君があんなこと言うなんて考えられない。


「……でも私も悪いね。けい兄ちゃんの事で金の亡者になってたから。ソラ君の言う通りだね」


 すぐに反省するところが、美月の長所だ。

「やっぱ、ソラ君に謝らないといけないかな?」


 いきなりビンタされて驚いたのか、ソラ君は軽く椅子を蹴飛ばして部屋を出ていった。放課後の図書室は、かなり静かだ。美月の性格を考えてケンカにならないよう部屋を出たのだろう。


「ソラ君、スマホ忘れてる……。どうする?」


 慌ていたのか、鞄と契約の封筒だけ掴んで行ってしまったソラ君。

「きっと、<こはいかに>に行ったでしょ、今から届けに行こう」私は美月に促した。

 その時、スマホの画面が明るくなる。



 ▣

 ソラ君は<こはいかに>のエグゼクティブルームにいた。

「……来ると思った」「ここにいると思った」

 美月とソラ君が合い言葉の様に会話を交わす。


「あんたね、さっきはよくも人を金の亡者のように言ってくれたわね」

「やめなよ、美月、謝るんでしょ!」


 ソラ君は黒い革のソファにどっかりと腰かけてコーヒーを飲んでいる。どこかの国の貴族のようだ。美月と私を見て、笑っている。


「前から言おうと思ってたんだけど、あんたのその人を小バカにした態度気に入らないんだけど」


 えっ、私は一度もソラ君がそんな態度とったの見たことない。美月は何を言ってるの?


「あんたね、寂しいなら寂しいって直接言いなよ。自分に素直になりなよ!」


 美月は興奮すると止まらない。何を言い出すか分からないから、私は美月の腕を引っ張る。


「――マンションで泣いてたよね?淋しいからでしょ?ラキの優しさにつけこんで、親を味方につけて、自分の寂しさを埋めるやり方って汚いよ」


「……えっ、別に私は……」

「ラキの同情を買ったんだよ!ソラ君は」

 美月はビンタしたことを謝るどころか、ソラ君に言葉の攻撃をする。おどおどする私。


「これ、あんたのお母さんとお父さんの写真でしょ?まん中の赤ちゃんがソラ君、あんたね?」

 美月はさっきのスマホの電源を勝手に入れて、ソラ君に差し出した。


「……私たちが側にいるから。もう泣くな」


 美月は姉御肌だ。ソラ君の弱さを全部お見通しのように命令した。

「……ありがとう。これからもよろしく」


 何がよろしくなのか分からないが、美月にソラ君が言った。――照れた顔。片えくぼの微笑み。


「じゃあ、久しぶりにタイムトラベルしてこようかな、俺。ラキさんも、美月もよかったらここで見ていてよ。ケーキと紅茶を用意するね」


 ソラ君はそうい言うとコーヒーを飲み干した。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る