第40話 学校での契約

 その日は早く目が覚めた。興奮して眠れなかったのもある。美月と一緒ならと許可してもらったマンション暮らし。

「ラキ、花音ちゃんもいるのよね?安心だわ。本当にソラ君に感謝だわ」

 

 お母さんの声がキッチンから聞こえる。でもどうして、ソラ君に感謝するんだろう。

「ラキが帰って来る少し前に、ソラ君から電話があったの。しかも私の携帯電話によ。びっくりしちゃってね、で、家賃聞いて驚いたわよ。1年で100万円でいいって凄いことよ」

 

 朝からお母さんはよくしゃべる。

「1年で100万円って?考えられないよ。高すぎるでしょ?」

「バカね、都心なら1か月100万円の所もあるのよ。マンションの間取もオプションも教えてもらったけど……そうそう、料理のアームロボットつきなんですってね。ラキは料理苦手だから本当に助かるね」


 お母さんがそこまで知っていたことに驚いた。


 ▣

「じゃ、契約内容を読んで二人ともここに印鑑押してくれるかな」


 放課後、ソラ君に図書室の静かな所に呼び出された。美月も私も印鑑を押す。美月のお母さんの所にも電話があったらしい。

「私のお母さん、ソラ君によろしくだってさ。あと、ラキにもね」

「そうでしょ、マンションに住むこと喜んでくれたでしょ?――さあこれで契約完了。やったね。805号室は家具付きだからね、ベッドもダブルだよ。欲しいものあったら買ってね。支度金としてそれぞれの口座に200万円ずつ振り込んであるからさ」

「にっ二百万円?嘘信じられない。高校生がそんな大金何を買うの?」

「俺が決めた金額じゃないよ!ラキさんのお母さんは、50万円って言ったけど、美月のお母さんは200万円用意してって言ったんだから。多い方がいいかなって思って……ちなみに俺のポケットマネーだから気にしないで。」


 美月は口をポカンと開けている。

「だから、朝私に10万円くれたんだ。帰りにシーツや洋服とか買っておいでって。家計の心配したのに、出世払いで返すねって言ったのに、笑ってた」

 美月は少し涙目だ。

「本当に、私のお母さんが言ったの?」声には怒りも混じっている。


「かわいい娘のためだから、ここぞとばかりに言っちゃったんじゃない?美月も美月のお母さんも、本音は一緒なんだね。お金が欲しくてたまらな」


 バチん。鈍い音がした。

 美月がソラ君の頬を叩いた。美月の目から涙がこぼれ落ちた。

「マンションなんか住まないから。すぐに200万円返すから」

「いてぇな!何するんだよ。――もう印鑑押したから契約成立です。残念だね。美月、けい兄ちゃんの個展開くんだろ!キレイ事言ってないで、<こはいかに>で稼ぎまくれよ!」

 

 こんなソラ君を見るのは初めてだ。

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