第32話 ソラ君って上級国民?

「ご馳走さまでした。美味しかった」

 美月が満足げにお腹をなでる。高校生がこんなリッチな夕飯ってダメでしょう?

「……それより、さっきの話なんだけど、このマンションの家賃ってバイト代で払えるの?」

 美月は乗り気だ。同じ年の同じクラスのソラ君の言葉を信用している様子だ。

「えっ、美月は本気なの?」私は美月の発言に驚いた。月に20万円だよ!下手したらお父さんの給料の半分かも。そんな大金払えるわけないし、滞納したら?考えただけで怖い。

「……なんのためにバイトしてるの?」

 びくつく私たちにソラ君が少し大きめの声を出す。

「ラキさんも美月もよぉく考えてごらん。君たち何のバイトしてるの?」

 何のために何のバイトをしているかソラ君の質問の意味が分からない。タイムトラベルしてそこで出会った人と会話して、それを観ている視聴者に評価されるってバイトだ。

 

「……考えたらすごいことよね。地球に宇宙人が住んでる位の衝撃だよね?」

「……変な例えだよ、ラキ。けどそのくらい不思議な事を体験してるね私たち!」美月はだんだんと興奮してくる。

 タイムスリップってもっと将来の話だと思って来たけど、自分が本当に体験するとは――

 

 イタリア、アメリカ、日本の3か国でしか体験出来ないって事だ。しかも、50人しかいないとは……。

「二人に話してなかったんだけど、俺の父親が日本で<こはいかに>できてるのって……やっぱやめとく。まだ話すのは危険かな」

 ソラ君が話の途中で黙る。危険?

「それより、俺のバイト代の、いわゆる、給料明細ってやつ見てみる?」ソラ君はリビングにある大画面のテレビのスイッチを入れる。パソコンと繋がっているらしく、パスワードを打ち込むと、数字が表れた。

「……何これ?いち、十、百、千、万……」

美月が大画面に向かって指で数字を追う。


「……254万円、363万円、412万円だって。これはもうお父さんの年収のレベルだよ」

 バイト代が毎月、300万円超えてるってどういうこと?目を凝らすと、税金まで引かれている。

「……嘘じゃないでしょ?なんなら通帳もあるけど……。エグゼクティブルームの奥の金庫に保管されてるけどね。いつでも見せるよ」

 

 圧倒された。16才のバイト代ではない。ちょっといい人の年収だ。カードを作ったらブラック間違いなしの年収だ。

 

「お金持ちになりたい。私、絶対お金持ちになる!誰が何といってもお金持ちになる!」

 美月の興奮がマックスになる。

「分かったから、落ち着いて。宝くじに当たった子供みたいだ。……ラキさんもお金持ちになりたいでしょ?」

 美月をたしなめ、私に質問するソラ君。なぜかすぐに返事が返せない。




 


 

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