第4話 こはいかに

 美月がお店の扉をゆっくり開ける。木の扉がギィとなった瞬間、中から声がした。


「こんにちは。君たち初めてだね。紹介者と一緒じゃないとこの店には入れないんですよ」


 どこかに監視カメラがあるのだろうか?声はするのに姿が見えない。


「お帰り下さい。お帰り下さい」 よく聞くと、コンピュター音だ。


「帰ろうよ。美月。なんか怖いよ」

 私は美月の袖を引っ張って外に出ようとした。


「紹介者ならいます。すでにここに来ている小早川ソラ君です」美月は天井に向かって話始めた。


 そんな勝手にソラ君の名前を出していいのだろうか? 私は混乱した。


「こはいかに。こはいかに。こはいかに」


  小早川ソラという名前に反応したのだろうか?コンピュターが同じ言葉を3度も繰り返した。


「奥の部屋にお入り下さい。12番の席にふたりでお座り下さい」 コンピュターの声が指示する。


「おっ、パスしたね。行こう、ラキ」


 私は美月と指示された12番の席を探す。


 部屋は手術室みたいな煌々とした明かりなのに、眩しくない。机とイスのセットが図書館のように秩序正しく並んでいる。


 12番はふたりがけのイスだ。スチールのようなシルバーのイスに腰掛けた。


 大きなパソコンが設置されている。

「ナマエト、ネンレイヲニュウリョクセヨ」


 今度はパソコンから声が聞こえた。美月は言われた通りに打ち込む。


「パスワードヲニュウリョクセヨ」

  咄嗟の指示に考えていなくて焦る美月と私。


「アッ、これにしようね」 美月はカタカタと数字を打ち込んでいく。 12012332の8桁だ。


「12HRの私の番号、ラキの番号、ソラ君の番号なら忘れないでしょ」


 どんな時も落ち着いている美月に感心した。


「ログイン。こはいかに、ニュウリョクセヨ」


 さっきから、<こはいかに>という単語を不思議に思っていると、説明が始まった。


 画面に美人なお姉さんが現れたのだ。


「ご説明します。その前に御登録ありがとうございます。本日よりお二人様はうちの会員様となりました。費用は一切かかりません。

 

 それどころか、報酬を期待出来ます。その詳しいシステムの説明を致します。

 ここはタイムスリップ出来る不思議な空間です。ただし、行けるのは過去や未来ではなく、物語の中だけです。

 フィクション、ノンフィクションどちらでもかまいません。<こはいかに>というチャンネルがあり、そこに登録している視聴者がいます。


あなた達のタイムトラベルの様子を視聴者が見て、良いか悪いかの判断をします。それはこのコンピュター室に直接届きます」


「物語の世界に入り込む事もタイムスリップっていうんですか?あと、こはいかにって意味も分かりません」 美月が質問する。


「実際に体験してみてください。<こはいかに>という状況も理解出来るでしょう。

 

 あとペナルティについても説明します。物語の中の登場人物に話しかけてもいいですが、この世界から過去に行った人に話しかけてはいけません。3度ペナルティが課されると戻る事ができなくなります」


 私も美月もソラ君を追いかけてこの店に入ったが、とんでもないところに来たことを後悔した。


「今、すでに小早川ソラ様はタイムトラベルしています。特別に覗いてみますか?」


  私も美月もゴクンと唾を飲み込んだ。

 










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