第37話 ラキ ソラ君のマンション引越し?

「お帰り、ラキ、ご飯は?」

「食べてきたから……お母さん、話があるの」ソラ君の家で食べてきたとは言えない。けどマンションの事を内緒に出来ない。

「どうだった?マンション?気に入った?」お母さんの質問に耳を疑う。

「えっ何でマンションに行ったこと知ってるの?」

「知ってるわよ。だってソラ君の<こはいかに>近況ニュースに書いてあったもの」

「なにそれ?なんて書いてあったの?」


 そんな話初耳だ。――私は自分の部屋に飛び込んで、パソコン画面を開く。


 「……えっと、<こはいかに>コバヤカワソラ、……何?うっそ、なにこれ」


 画面いっぱいに、私の顔、しかもお寿司を頬張っている私の顔が写っている。一枚だけじゃない!ガラス越しに私と美月の驚きの顔もある。


 まさか、あの時のだ。アームロボットがキッチンでオムレツを作っている時の写真だ。ケチャップを握って、ハートを書いているところだ。私なんか、口を開けて笑っている。恥ずかしい。


 画面右横が動いた。次から次に、コメントが入っている。

「ソラ君のマンション初公開」

「大口開けてる女の子、残念」

「……あれってタイガーマスクの子だ」


 ぱっと三行が目に入り、私は赤面した。

「ラキと美月もはや有名人気取り」

 心ないコメントが流れた。悪意を感じた。こんなとき、思考が停止する。

 美月に電話しなきゃ、いや、ソラ君にせめて写真だけでも消してもらわなきゃ。どっちに連絡するか迷っていると、携帯がなった。――美月からだ。ラインはがりの美月も慌てて電話してきたんだ。


「ラキ、見た?てか今見てる?」

「どういう事なの?ソラ君に言わなきゃ」


「ラキ、ソラ君のマンションに引っ越す事になってるよ!親の許可もらったんだ。良かったね。おめでとう」

 

 親の許可って何?まだ話してもない。

「……どうして、何でそんなこと言うの?私まだ何も言ってないのに」

 

 おめでとうって何がおめでたいのかよく分からないけど、美月に責めるように話す。

「フォトをキャンセルして、メッセージを見てごらん。そこにソラ君が書いてるよ」


 美月に言われた通りにする。

『やったぁ、俺のマンションに同級生引越しする。名前は小鳥遊ラキ』


 私のフルネームがさらされている。

「小鳥が遊ぶで、たかなしらきって書いてあるでしょ。ラキ引越しするって」

「……私まだ決めてない!どうしよう」

「……諦めな。ソラ君にはめられたね」


 はめられた――そんな言葉は使いたくない。期待を持たせ過ぎた私のせいだ。

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る