概要
水彩画家、矢賀崎亨は、妻の瀬那を失った。
彼女の記憶が薄れてしまったことに怯えつつ、彼は思い出を取り戻そうと奔走する。
現実とも幻覚ともつかない世界で、妻は告げる。「あなたは間違っている」と。
彼が思い出すべきことは何か。
一体、何を忘れてしまったのか。
亨を導いてくれるのは、妻が残したガラス細工の魚だ。
彼の長い一週間は、こうして始まった。
※ 2022年3月、改稿しました。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!夢想的な流れに身を委ねて――。
妻の死。それがもたらしたのは記憶の混濁か、呆然自失に徘徊する彼の前に現れる手がかりは妄想なのか、それとも―ー。
日常と妄想が入り交じり、あやふやな世界と記憶に振り回される様は読んでいて不思議な感覚と、どうなるのだろうというピリッとした緊張感があって独特の雰囲気を醸し出しています。
そしてそれだけではなく、冷たい水面でも主人公に差し伸べられる手は温かで。周囲の助けや想いに触れていくうちに、妄執にかられた男がどうなってしまうのか、いつしか読み手側が心配するようになっていく。
手がかりを追って、彼が辿り着く”現実”はどれなのか。
妻。記憶。魚たち。
おおよそ起こり得ないような、絵画のような…続きを読む - ★★★ Excellent!!!哀しく、色鮮やかで、温かい
最愛の妻の死をきっかけに自らの過去を振り返る、というどこか哀しい物語の本作。ただ、その過程で創り出される幻想的な雰囲気は素晴らしいの一言でした。
ストーリーの時間軸は激しく行き来しますし、色とりどりの魚達に導かれていくうちに一体何が本当の出来事なのかが段々とわからなくなってきます。ただ、絵画や工芸などの要素が散りばめられた洗練された雰囲気が、そんな風にストーリーに振り回されることさえ心地よいと感じさせてくれるようでした。
そして、最終的には過去を見つめ直し…………という流れは、なんていうか、本当、こういうの読みたかったんですよ、ずっと。喜怒哀楽ではまさに「哀」の物語で、個人的にツボ過ぎて…続きを読む - ★★★ Excellent!!!あなたは自分の記憶にどこまで自信が持てますか?
一本の電話が伝える妻の緊急入院から物語は始まる。
主人公が病院にたどり着いた時、すでに最愛の「妻」は帰らぬ人となっていた。
妻の顔と対面した瞬間「これは誰の顔だ」と困惑する主人公。
トントンと鼓動に合わせて疼くこめかみの痛みは、何を象徴しているのか?
あまりにも急すぎる「妻」の死の影には、いったい何が隠されているのか?
この物語はミステリーなのだろうかと思うやいなや世界は一変し、主人公は「妻」が制作したガラスの魚たちに、幻想的かつ非現実的な世界を連れ回される。
妻と暮らした日々の記憶を辿りたいはずなのに、行く先々で待っているのは知らない世界、覚えのない過去、欠落した記憶。
ここはどこ…続きを読む