かつて、人の知らない隠れた里に彼らが生きていたかもしれない――そして、今も。
春の七草を象徴するハヤリガミたちが収める不思議な里には、どこか懐かしい空気が流れています。
細やかに描写により草花の世界がぽんと頭に浮かび、作中の人物たちともに笑い、眠り、食べたり、飲んだり、同じ生活をしているように心を癒されます。
穏やかな主人公・ナズナがつくり出す温かな空気。そして、少女・樹与の太陽のようにカラッとした明るさとたくましさ。二人の出会いによって動き出していく物語はやさしく、時には厳しく、力強く、読むたびに心が励まされます。
草花の織りなすうつくしい不思議な世界、神と人が交わることで生み出される特別な絆、じんわりと心温まりたい方におすすめの作品です。
淡い色合いに心静まりつつも、その力強い生命力に時折はっとさせられるような、まさに草花そのもののような物語。
人間から、七草の一つナズナを司る『ハヤリガミ』となった主人公が、ハヤリガミの守る里の人々や、逞しく活発なとあるまれびとと関わりながら、お話が紡がれてゆきます。
作者様の植物やそこにまつわる文化についての造詣の深さが随所から感じられることもあいまって、読むうちに、自分が実際に里で暮らしているような、里の空気にゆっくりと馴染んでその一部となってゆくような、そんな感覚があります。
ひとならざる世界に染められていく、とも言えますし、受け入れられていく、とも表現できるかもしれません。
春なら芽吹の朝に、夏なら生命力溢れる昼に、秋なら実りと落日の夕べに、冬なら温もりを待ち静まり返る夜に。そっと、文字を追ってみてほしい作品です。
素敵な作品をありがとうございます!
内容については、他のレビュアー様が分かりやすく書かれているので、そちらを。
まだ読んでいる途中ですが、オススメしたい層は、夏目友人帳とか、あの辺りの作風が好きな人ですかね。もちろん、それ以外の人にこそ、一度読んでほしいですけど!
春の七草をなぞらえた神々と人々。かつての日本の里山の風景が描かれ、毎話毎話、良い意味でゆったりと時が進みます。イベントはもちろん起こるのですが、緩急踏まえた、ちゃんと心地いいテンポで進む辺りに、高度な構成テクニックを感じます!
七草に着目されるような、ユニークで繊細なセンスの持ち主の作者様。やはりそれは、作品の中で随所に見られます。
生き生きした、キャラクターたちの会話のみならず、一枚岩ではない里の住人たちの関係性。しかしそれは、真っ向からの対立というよりは、草花のような共生が感じられ、憎めず愛らしく描かれているように思えます。それらが、主人公ナズナの成長さえ支えているんですよね。
読み進めるというより、彼らを見守り、愛でていくような気持になれる。そんな素晴らしい作品です。ぜひ、読んでみてほしいです!
文ノ風 薺ノ想ヒ 筆ニ込メ
師弟ノ夢ニ 花契ル🐣
文ノ風:春の風に揺れるナズナをイメージ
薺ノ想ヒ:ナズナの願い
筆ニ込メ:作者様の願い
師弟ノ夢ニ:師と弟子の絆の物語
花契ル:作品の優しさ温もり、そして主人公たちの成長を花に例えて
以下、レビューです🐣
師弟関係や人と神の境界、季節の移ろいを丁寧に描いた和風ファンタジー。物語は、ナズナの長(おさ)である師匠と、その弟子である人間の少年が中心となり、日常の中にある小さな奇跡や心の交流を描いています。特に、自然や薬草に関する描写が豊富で、読者に穏やかな読後感を与えます。決して派手な物語ではないと思いますが、人物たちの心の動きや、周囲の変化といった、時間の流れが非常に丁寧に描写されていて静かでありながらも心に響きます。自然や人との繋がりを大切にしたい方におすすめです。