*目弱児(まよわこ)のはなし 四
十日あまり四日のちです。
その日、伝令の兵が東から走ってきました。あかときの
王はつつがなく
目弱児はこうした村びとたちの陰で、身をこわばらせました。
――あの男、帰ってくるのか。
無事の報せに安堵する気持ちと、追い立てられるような焦りとが入り混じります。目弱児はまだ、おのれの思いを決めかねていました。
――だが、もしかすればあの男は、もはや言うたことなど忘れているやもしれぬ……。
風にはためく
あの妻問いはほんの気まぐれで、もう目弱児のことなど、どうとでもよくなっているやもしれません。
そうでなくとも、都へ帰ればもっと
強いて目弱児のような
――そうだ。わたしはただ、なに食わぬ顔でいればよい。もしもあの男が通り過ぎれば、それだけだったということだ。
目弱児は胸のうちでそう頷き、つねどおりに暮らしました。
村おさに命じられた木の実集めや
その合間に糸をくり、あるいは機の前にも立ち、日がな座る暇もないほどのせわしさでした。
晩におのれの住まいへ戻ったときには、さしもの目弱児もくずおれてしまったほどです。
目弱児は寝床へ倒れ、うつろな頭で考えました。
――……明日は、あの男が帰ってくる。
あかときの王は、どのような姿であらわれることでしょう。
武具をまとい、弓を
――あの痴れ者ならば、傷すらもおれの男ぶりが上がるであろう、などと言い出しそうだ。
その
――さような姿を映せぬこの目は、少し、惜しい……。
疲れ果てていたためでしょうか。目弱児は、いつになくすなおにそう思いました。
そうしてかすかな痛みを抱き、まどろみの底へ沈み込んでゆくのでした。
――さりさり。
という音が聞こえたのは、それからいかほど経ったころでしょうか。
目弱児は、はっと目を覚ましました。
痛むこめかみを押さえつつ、耳を澄まします。するとその音は、幾人かの足音として近づいてくるようでした。
「……ほんとうに、あの女をやるつもりなのか?」
ひそめられた声は、どうやら
「かまわんだろ。
「そうとも。
「小稚。お前だって、あれによく絡んでいたじゃあないか。おれたちと同じだろ」
「いや、だけれども……、」
男たちが忍び笑うかたわら、小稚が苦々しく呻きます。目弱児は眉をひそめ、とっさに杖を掴みました。
――あ奴ら、村の
働かぬ男たちの中でも、とりわけ怠けぐせの強い者たちです。彼らの勤めといえば、酒と賭けごと、そして女を暴くこと――。
脇を冷や汗が流れたそのとき、荒々しく
「……なんだ、起きていやあがったのか」
男のひとりが、おやと眉を上げるように近づきます。目弱児は杖をふりかざしました。
「来るな下種ッ! わたしに触れたらその持ちもの引きちぎるぞ!」
「変わらず、勢いのいいことだな。――煩えよこの盲が」
その瞬間、男に足を引っかけられました。
目弱児はしたたかに腰を打ち、そのまま
「ッこの――!」
「黙れ。
先頭は、おいとほかの男たちを呼びつけます。
「少しばかり、もてなしてやれ。そのほうが吾たちも楽しかろう」
応といういらえとともに、男たちの手がいっせいに伸びてきました。
鼻をふさがれ、開いた口に指を突っ込まれます。
ほかの手が衣をむしり取り、粟だつ目弱児の
そして先頭の男は、目弱児の
「――ッ!」
喚いて蹴り上げようとしますが、男に足を捕まえられます。それでも目弱児は、しゃにむに暴れて抗いました。
――抗いをやめたら死ぬ。否いっそ、舌を噛みきって死んでやりたい!
「っやめ……下種ッ! わたしを放せッ!」
首をふり、髪をふり乱して叫びます。ですが男たちはその抗いすらもせせら笑い、目弱児の腕や足を封じました。
「ほんとうに、こいつは煩い女だな」
「大した見目でもないくせに、気位ばかり高くていやがる」
「おら、口を開け――」
上顎と下顎を両の手でこじ開けられ、別な男がむわりと臭う持ちものを口へ押し込めてきます。
目弱児のまなじりから、勝手に涙がこぼれ落ちました。
――この
しかし顎は男に押さえられ、唸ることしかできません。男はおのれのものを、容赦なく目弱児の喉の奥まで突き込みました。
「歯を立てるなよ」
口の中いっぱいに、感じたくもない熱のかたまりが出し入れされます。
それと同時に、女陰を指で暴かれました。
「っぐう……ッ!」
ですが女のからだというのは、そのように成っているものでしょうか。
指を差し抜きされるたびに、目弱児の
「なんだ、盲でも女なのだな。きちんと女の匂いがするのじゃないか」
男は、指についたぬめりを舐め取ったようでした。
その合間にも、口をふさぐ男のほうは、息を荒げて腰をふり続けています。やがて、ぐんとはち切れるような気配がしました。
「――う、……ッ!」
生ぐさいものが口にあふれ、鼻まで逆巻いて咳き込みます。目弱児はたまらずに、首をそらして吐き戻しました。
男たちは、目弱児の醜い姿を見下ろして笑います。
「汚ねえなあ」
「まあ、噛みつかなかっただけ上出来だ」
「おれも、もっとぶちまけてやろうか――」
男が入れ替わり、新たな男根を口に押し込めてきました。
それとともに、女陰をもてあそんでいた
「そろそろ、いいだろ。――ほら、お前は女になるのだぜ……、」
吐き気をもよおすような熱さが、膚にあてがわれました。目弱児はふるえる足を、どうにかこらえて踏みしめます。
――これならば、あの痴れ者に奪われるほうがまだよかった……!
目をつぶった耳の奥で、大らかな男の笑い声が弾けます。目弱児はそのおもかげを思い出し、固く息をつめました。
そのときふと、ぶんと空を薙ぐ風が走り抜けます。
一瞬すべての時が止まり、次いで
目弱児の口を犯していた男たちが、なぜか腰を抜かして喚き出しました。
しかしその喚き声も、すぐさま同じ風に斬り捨てられた様子です。続けて倒れ伏す音が響き、金気の臭いも濃くなりました。
「……な、に……?」
目弱児はわけがわからず、よろめきながら起き上がります。その肩に誰かが
「無事か、そなた! 間に合わなんだか!」
「……おまえ、」
目弱児を包み込んだのは、なつかしい男の匂いです。
あかときの
「ああこの下種どもめ、女をかように扱うとは! もっといたぶってから殺めるのだった……!」
王は恐ろしげなことを叫びますが、せわしない手の動きには、どうにもこの男らしいおかしみがあります。
目弱児は、思わず気の抜けた笑いをこぼしました。
「……下種とて、おまえもわたしにとっては、似たようなものであるぞ。
「痴れたことを言え! おれは美味いものしか食わん!」
王はまるで、童がふんぞり返るようにして答えました。目弱児はとうとう噴き出してしまいます。
「おまえ、やはり痴れ者だな。おかしすぎて、はらわたが
目弱児はくつくつと笑いながら、男の胸に頭をもたせかけました。額を擦りつけ、長くため息をつきます。
王はその恐れを受け止めるように、目弱児の肩を抱きました。
「とにかく、いちど川で身を清めろ。おれが連れて行ってやるゆえ」
「……わたしを襲った、下種どもは?」
「それはじきに片づけが来る。こんな者どもよりも、そなたの身なりのほうが先だ」
その直後、目弱児は王の腕に抱えられます。王は足元に転がったものを蹴り飛ばし、外へ出たようでした。
目弱児はあたたかなその
それからひそかに、礼のことばを呟きました。
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