刀護の実力
「さて、一つ目の条件はクリアね。それじゃ続けて二つ目の条件いってみましょうか」
刀護の旅に関して渋々承諾した・・・もとい、させられたエッジは、不満そうな顔でレインに問うた。
「二つ目ってなんだよ?まだ何かあるのか?」
それに対してレインは答えた。
「条件は全部で三つよ。で、二つ目なんだけど、私を相手にトウゴの実力を見せてもらうわ。魔力制御もできない上に武術も素人じゃ修行も何もないもの。ある程度の基礎はできてるんでしょ?」
エッジはなぜか自信満々にレインへ啖呵を切った。
「はっ!基礎どころじゃねえさ。身体強化なしならこいつの技量は俺達に匹敵する。甘く見てるとお前が地べたを舐める事になるぜ?」
それを聞いて焦ったのは刀護だ。
「おい親父!なに馬鹿な事言ってるんだ!?やめろよ恥ずかしい・・・レインさんは親父と遜色ない技量と聞いています。自分はまだ親父に勝てたことがありません。ですから、胸を貸してもらうつもりで挑ませていただきます」
「本人は随分と謙虚じゃない?まあベイルがそこまで言うなんてよっぽどなんでしょうね。ちょっと楽しみだわ。じゃあさっそく庭に行きましょうか。っとその前に得物はどうする?」
問われた刀護は、バッグを漁りながら答えた。
「竹刀なんてないですもんね・・・ならこれで」
そう言いながら、二本の木刀を取り出した。
「あなたも剣を使うのね。まあベイルが教えたならそうなんでしょうけど」
その言葉にベイルが反応した。
「おい、外に出たらその名前で呼ぶなよ?俺の名前はエッジだ。間違えないように頼むぞ。それに刀護の剣は俺だけが教えたわけじゃない。その意味は身をもって知るがいいさ」
「ふふっ・・・ますます期待できそうね。トウゴ、私もその剣借りてもいいかしら?」
刀護は頷いて、黒い木刀をレインに手渡した。
数回の素振りをして木刀を確認したレインはいたく感心した様子だった。
「へえええ、これすごく良い木剣ね!とてもきれいだし、バランスも良い。硬さも申し分ないわ。これは異世界の剣なの?」
「そうです。本黒檀という素材でできています」
「ホンコクタン・・・聞いたことない素材ね」
「もしよかったらレインさんにその木刀お譲りしますよ」
「えっ?いいの?とってもうれしいんだけど、大切な物じゃないの?」
やり取りを見ていたエッジからも声がかかった。
「その木刀ってお前が必死に金貯めて買おうとしてたヤツだろ?いいのか?」
「いいんだよ。俺には王都で買ってもらった新しい剣と、凪があるからな。修練用のなんて一本あれば十分だし、もし旅に出るなら木刀なんて邪魔になるだろうからな・・・だからあの木刀の良さをわかってくれたレインさんに持っていてほしいんだ」
その言葉を聞いたレインは感激していた。
「本当に良い子ね・・・ねえベイ・・・じゃなかったエッジ。この子私に
「やかましいわ!こいつは俺のだ!絶対にやらんぞ」
「そんな、人を物みたいに・・・自分の所有権は渡せませんが、その木刀は差し上げます。できれば大事に使ってください」
「ええ!大事にするわ!・・・そうね、手合わせで壊れたりしたら嫌だから、硬化の魔法をかけてから行くわ。二人は外でちょっとだけ待っててね?」
そう言ってその美しい顔に輝くような満面の笑みを湛え、今にも飛んでいきそうな軽々とした足取りで家の奥へと消えていくレインを二人は見送った。
あまりにも嬉しそうだったレインを見て、刀護は微笑みながら呟いた。
「喜んでくれて良かったよ」
仮面をつけなおしながらエッジも言葉を漏らす。
「・・・それは良いんだがな、木刀贈られて大喜びする女ってのも正直どうかと思うぞ?」
10分程も経ったであろうか。庭で待っていた二人の前に黒く輝く木刀を持った笑顔のレインが現れた。
「ごめんね?お待たせして。さっそく手合わせを始めようと思うんだけど、ルールを決めておくわね」
「はい、お願いします」
レインは刀護に簡単にルールを説明した。
「まず、剣の腕を見るためだから、私は魔法を一切使わないわ。身体強化もね?これで対等に勝負できるはずよ。それ以外は何でもあり。死なない限り魔法で治せるから思いっきりやっていいわよ」
提示されたルールに気後れする刀護。
「な、何でもありですか?木刀持ってそれは危ないような・・・」
「大丈夫だって、ちゃんと死なないように手加減はしてあげるから」
「・・・わかりました・・・お手柔らかにお願いします」
顔を引きつらせながら、なんとか了承の言葉を吐き出す。
「それじゃ行くわよ?」
「はい!よろしくお願いします!」
二人は剣を構えて向かい合った。
(さて、ベイルが言っていたトウゴの実力、見せてもらいましょうか)
レインは、構えていた剣先を軽くずらして打ち込みを誘った。
隙にもならないほどの小さな隙だったが、刀護はスルスルと足音も立てず滑るように接近して、レインの手元へと鋭く剣を振り下ろした。
予想を上回る速度にレインは息を飲む。
(速い・・・というより無駄がないのかしら。随分変わった足さばきだけど、体が全くブレないわね・・・構えにも全然隙が無いし、何より恐ろしいほど鋭い打ち込みね)
初撃を回避し、反撃に移ろうとしたレインは、すでに打ち込む前の構えに戻っていた刀護を見て驚く。
(異様・・・と言っていいわね・・・驚くほど隙が無い)
ベイルの言葉通り、期待以上の剣技を見せる刀護。
しかし、しばらく打ち合っていたレインは、刀護の行動に違和感を覚えていた。
「トウゴ、ちょっと待ちなさい」
レインの言葉に、刀護は打ち込みを止め、刀構えを解いた。
「あんた、舐めてるの?私に手加減なんて良い度胸じゃない。それともあんたの剣はそういうものなの?」
刀護が今まで見せていたのは剣道の技だった。それも面と突きを封印し肩口への攻撃を足しただけのモノである。
「いえ・・・手加減をしていた訳ではありません・・・」
「じゃあ何だって言うのよ?あんたの実力はそんなもんじゃないでしょ?さっきから肩と前腕と胴体しか攻撃してきてないわよね?」
「それは・・・」
口ごもる刀護。それを見かねたエッジが助け舟を出してくれた。
「待ってくれレイン。刀護は命のやり取りなんてしたことがない。木製とはいえ、頭を殴ったり喉を突いたりすれば死に至る事だってある。ましてやお前は女だ。刀護の手が緩んじまうのは仕方ない」
「じゃあどうすればいいのよ?これじゃトウゴの実力が測れないじゃない」
もっともな意見にエッジは解決策を思いついた。
「レイン、ちょっと耳貸せ」
「何よ?気持ち悪い。・・・いたずらしたら殺すからね?」
レインは仕方なくエッジの口元に耳を寄せた。
エッジの話の内容はこうだった。
精神を幻惑する魔法を使って、刀護の対戦相手をエッジに見せかけること。
たったこれだけで、本気の刀護と戦えるとのことだ。
ただ、ささやいた言葉はそれだけではなかった。
「悪いことは言わない。剣を合わせる前にほんの軽くでいいから身体強化を使っておけ。洒落や冗談で言っているわけじゃない。アイツの本当の実力を知りたければ使っておけ」
と言う事だった。
(一体、何が見られるのかしら・・・)
これから起こることに期待しながら、薄っすらと身体強化を施す。
「トウゴ、こっちを見て気持ちを楽にしていなさい」
「?・・・わかりました」
素直にレインの方を向いて深呼吸をする刀護。
レインは呪文の詠唱を開始し、発動させる。
そして一言。
「私を殺すつもりで本気で来なさい」
「・・・わかったよ、
そこから先の戦いは、先程とは別次元と言っていいモノだった。
最初に見せた剣技に加え、父であり勇者であったエッジの剣技がお互いの短所を補い長所を伸ばす形で混ざり合っているのである。
エッジの剣とは、トリッキーでありながら、その一撃は重く、剣だけに頼らない全身を使った攻撃が容赦なく急所を狙って飛んでくるのである。
刀護にも、その剣はしっかりと受け継がれていた。
時に速く。時にじらす様に。隙がないよう見せてわざと隙を作り、それを餌として罠にはめようとする。そして当たり前の様に剣だけでなく手や足や頭まで飛んでくる。
鋭く速い連続攻撃の
体重の乗った重い斬撃に体勢を崩しながらも、なんとか持ちこたえた。しかし攻撃はそこで終わらなかった。攻撃を受け止められると同時に、刀護の右膝がレインの腎臓を狙っていたのである。肘を降ろして膝蹴りを止めたレインだったが、今度は刀護の左の抜き手が眼球めがけて突き進んでくる。だが片足が浮き、剣から片手を離している相手を弾き飛ばすのは簡単である。足を踏ん張り刀護を押しのけたが、すべて織り込み済みだとでもいうように抜き手は剣の柄へと戻り、レインの剣を受け流し、絶妙のタイミングで引き面のお土産を置いていったのである。
「チッ!」鋭い舌打ちとともに体を反ってバック転し、頭部への斬撃をやり過ごしたレインは内心冷や汗をかいていた。
距離を取り、相手を見ると、すでに何事もなかったかのように、いつもの隙の無い構えに戻っている。
(ちょっと!なにこれ!?攻撃がエグすぎるんだけど!ベイルのやつどんな育て方したのよ!?)
平和な日本に育ったにもかかわらず、正道と邪道を併せ持ったようなえげつない戦法を見せる刀護。
とても無強化とは思えない速度で飛んできた喉元への必殺の突きを何とか凌いだレインは、もう十分だと刀護にかけた魔法を解いたのだった。
(いくら最近、研究ばかりで鈍ってたとはいえ、ここまで押されるなんてね・・・)
エッジからも腕が落ちたんじゃないかと野次られた。
魔法を解かれた刀護は、しばらくぼんやりしていたが、自分が戦っていた相手がレインだったと知らされると、顔色を青くし、見事な土下座を見せて謝り始めた。
そんな刀護にレインは苦笑しながら言った。
「ほら、さっきも言ったでしょ?自分が悪くないのに謝らないの。みっともないわよ?むしろ、その歳でそれだけの技量を身に着けたことを誇りなさい。並大抵の努力ではなかったはずよ?よく頑張ったわね」
にっこりと笑った美人に剣の腕を褒められた刀護は、正座のまま真っ赤になって固まってしまっていた。
そこにエッジがニヤニヤしながら近づいてきた。
「どうだったよ?こいつの腕は」
「どうもこうもないわ。あれは戦場の剣よ?あんたあの子をどうするつもりだったの?」
「俺が教えたわけじゃねーよ。アイツが俺を倒すために勝手にあんな風になったのさ。殺す気かっつーの」
「あんたが先に身体強化しとけって言った理由は良くわかったわ。でも、惜しいわね・・・魔力制御さえできればあの技量をもっと活かせるのに」
「そのためにお前に刀護の事を任せるんだ。何とかしてやってくれ」
エッジの頼みに、少し考えてからニヤリとして答える。
「・・・そうね。あれだけの技量があるんだもの。少しくらい無茶してもきっと大丈夫よね?鍛え甲斐があるというものだわ・・・ウフフ・・・」
レインの不気味な笑みに選択を誤ったような気もしたが、この際、気のせいと言う事にしておこうという結論に達した。
刀護の実力をしっかりと確認したレインは、未だ固まっている刀護を引っ張り起こし、上機嫌で家の中へと入って行った。
三つ目の条件を満たすために。
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