異変
事件の予兆となるものは、以前から幾つかあった。
ここ10年程、世間を賑わせ続けている新種の動物の死体が発見されたというニュースだ。
しかも、年に一回程度の頻度で、毎年のように。
形状は様々で、熊に似たような個体、狼に似たような個体、果ては深海の生物を思わせるような異形の個体までが見つかり、生物学者達を驚かせた。
今までは、正確な姿かたちがテレビに映ることはなかったのだが、ソーシャルメディアの発達により、ついに新種の動物の死体と思われるものが世界中の目に留まることになったのである。
大々的なニュースになり、ネット上でも新種の画像が瞬く間に広まった。
もちろんベイルの下にも情報が入る。
その動物の死体の画像を見た時、(こいつって、フォルバウムで見た覚えがあるな・・・)そう感じていた。
なにせ古く、うろ覚えな記憶である。確証ない。だが頻繁過ぎる新種の発見を考えると可能性はかなり高いと思えた。
(これってあっちからの先兵がきてるってことなのか?)
他にも気になる情報がある。
新種発見の場所である。
(そういえば俺もそうだったよな)
そう、ベイルが現れた場所も強い力を持った御神刀のもとであったからだ。
「何か対策をしないといけないだろうが、何をどうしたらいいやら・・・」
そんな独り言を聞いていた香奈は、「どうしたの?父さん。独り言とか気持ち悪いわよ?ただでさえ気持ち悪いのに、これ以上進化して何になるつもり?」と、言い放った。
愛する娘の辛辣な言葉に、大いに傷ついたベイルは、泣きながら、息子に修行と称して八つ当たりを始めたのだった。
家族にいらぬ心配をかけさせたくないため一人で悶々と悩んでいたベイルであったが、決定的な事件が起こったため全てを打ち明け助力を求めることにした。
背に腹はかえられなかったのである。
その事件とは、海外で行われていた古代遺物の展覧会。その会場で起こった。
何もない空間から突如現れた、青黒い肌をした身の丈3メートルはある大男。
その背中には、巨大なコウモリのような羽根。鋭い爪と牙、そしてねじくれた二本の角を持った、まさにおとぎ話から抜け出てきた悪魔そのものだった。
悪魔は苦悶の表情を浮かべながら周囲を巻き込み暴れまわった。
飛び散る血潮と内臓。千切れた手足が宙を舞い、胴体から泣き別れた首が、ころころと転がっていく。
逃げ惑う人々を追いかけては、その爪や牙にかけてゆく。
だが、30分程も暴れまわったところで突然糸が切れたように崩れ落ち、そのまま二度と目を覚まさなかった。
この大虐殺がニュースとして発表されたとき、世界中は騒然とした。
神話の世界の悪魔が、未曽有の大規模テロを起こしたのである。
事態を重く見た各国は、専門家を集め対策を練ろうとしたが、なにせ前例のない出来事である。
突然現れる災害に具体的な対処法などなく、ただ再び悪魔が現れないことを祈るしかなかった。
もちろん悪魔の写真や動画が全世界に配信され、様々な流言飛語が飛び交った。
ベイルもそれを見て決心を固めたのである。
その写真の中の悪魔の正体を知っていたから。
(間違いない、こいつは魔王の側近の一人だった。名前は確かアロウズだったか・・・。これだけの大物が来ているんだ、そう遠くないうちに攻勢が始まるかもしれない。そういえば魔王も言っていたしな。フォルバウムの次は地球を侵略すると)
アロウズが30分程で命を失った理由はこの世界にマナがないせいであると推測できた。
魔族にとってマナは空気のようなものだ。30分も暴れ続けただけで驚異的と言っていいだろう。
しかし解せない部分もある。
魔物も魔族と同じようにマナがない場所では生きられないが、先に送り込んだ魔物がどういう末路を辿ったか、魔族が知らないとは思えない。
(ただの実験を、こんな大物で試すとは考えにくいしな・・・。いったいフォルバウムで何が起こっているんだ?)
過去に決別した故郷に再び戻り、事件を調べ、解決する。そうしなければ、いつ最愛の家族が巻き込まれるとも知れないのだ。
(考える余地もないよな?)
決意を新たに、ベイルは動き出した。
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