凪森刀護

凪森刀護、19歳。身長178cm 体重72kg 年齢=彼女いない歴の剣道馬鹿である。

親しい友人曰く。

脳筋。

子供の頃から、坊主頭以外の髪型を見たことがない。

学校の制服、Tシャツ、ジャージ、道着以外の姿を見たことがない。

顔立ちは、悪いという訳ではないが、洒落っ気がなさすぎて判断に困る。

意外とアニメや漫画に詳しい。

たまに正気を疑う部分もあるが、基本的に真面目で善良である。

剣道家として同年代の選手とは隔絶した実力を持つが、謙虚で驕らないため男女問わず非常に人気が高い。

にも拘わらず、女の影が一切なく、色々な意味で野郎にモテる可哀そうな男。


そんな人物だった。



「うわっ暑っ・・・い、けどやっぱ本州よりはずっとましだな」

数か月ぶりに地元である北海道へ戻ってきた刀護は、自宅から最寄りのバス停でバスから降りると、そう呟いた。

本来ならバイト三昧で帰省の予定など無かったのだが、とある事情により急遽実家に帰ることを決めたのである。

せっかくだからと家族に連絡を入れず、いきなり現れて驚かそうなどと考えていた。

(少し恥ずかしかったけど店主さんには感謝しないとな・・・)

帰省のきっかけをくれた人物に心の中で礼をいいながら家路を急ぐ。

(たった4ヶ月とちょっとしか離れてなかったけど、なんだか久しぶりな気がするな)

無事我が家へ到着し母屋へ入ろうとしたが、玄関には鍵がかかっていた。

現在の時刻は午後一時。普通なら家族達は、昼食を食べて昼休みをしている時間のはずである。

(おかしいな・・・畑に行くには早すぎると思うんだけど・・・)

そう考えた刀護は、畑を見回してみたが、やはり誰もいない。

だがそこで車庫に車がない事に気がつき、家族が外出していた事を知ったのだった。

(何だよ、留守かよ。せっかくサプライズで帰ってきたのにな・・・あ、もしかしたら本殿に姉ちゃんがいるかも。姉ちゃん出不精だしな)

暇な時間は、基本的に本殿にある御神刀の前で漫画やアニメを見ている姉の姿を思い出し、荷物も降ろさぬままそこへ向かう。

しかし目的の場所に待っていたのは、明らかに異様な気配がする室内と、鍵のかかったその入り口だった。

「何だ?こりゃ」

あまりの異質さに、中に入ることがためらわれる。

だが放って置くこともできず、家族なら誰もが持っている合鍵を使って本殿の中へと足を踏み込んだ。

そして目を疑った。

そこにあったのは、刀が抜かれ鞘だけになった御神刀と、そのすぐ奥に浮かぶ謎の黒い穴。

「何だ・・・こりゃ・・・」

先程とまったく同じ言葉だが、困惑の度合いは、先程とは比較にならなかった。

「なんなんだよこれ・・・一体何が起こってるんだよ!まさか封じられてる鬼の封印でも解けたのか?でも鬼ってもう浄化されたんだったよな?くそっ意味がわかんねぇ・・・姉ちゃん!母さん!誰かいないのか!?」

お役目である彼女達なら、何か知っているのかと考えたが、二人はここにいない。

(そうだ、姉ちゃんの携帯に電話しよう!)

ポケットから携帯電話を取り出し電話をかけようとしたが、電池が切れていてかけることができなかった。

(なら母屋の電話で・・・)

そう思いつき、行動に移そうとしたところで、あるものを発見した。

宙に浮いた穴の中に何かが見えるのである。

目を凝らして見てみると、それは、見覚えのある人物の後ろ姿が遠ざかっていく様子だった。

(親父?何で?これってアレか?ホログラフィとかなんかそういうのか?何でそんなもんが家にあんだよ・・・そもそもアレって実用化されてたのか?くそっやっぱ意味がわからん)

だが自分の父親が映っているのである。

詳しく調べようと近づいた刀護は、穴の傍に荷物を降ろし、その周囲をぐるりと周ってみる。しかし、投影装置らしき物は見つけられない。

そうこうしている間に父親の姿はどんどん遠ざかっていく。

(とりあえずどうすることもできないし、やっぱり母屋に戻って電話をかけよう)

そう結論付けた刀護は、穴に背を向け出口に向かい踏み出そうとした。

その時である。

風船が弾ける様な破裂音と共に急に視界が暗転し、次の瞬間には、先程、父親が歩いていた場所が目の前に広がっていたのである。

(・・・夢でも見ているのか・・・?でもそれ以外に説明がつかねーよな?それともついに凪森家は瞬間移動装置を開発したのかね?)

あまりの出来事に現実逃避を始めた刀護は、座り込んで空を見上げた。

そして、

「何なんだよこれはあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

そう叫ぶ事しかできなかった。

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