気がつけばハンター

中央大陸最大の国、クリスベルン王国。王都クリスベルン。その巨大な街の囲う外壁の、これまた巨大な門の前に、刀護とエッジは立っていた。

「・・・すげぇ・・・」

刀護は口をポカンと開けて、ただその威容を見上げていた。

「ははっ、トウゴ君は、王都は初めてなのですね。たしかに王都の外壁は世界有数といっていいと思います。圧倒されますよね」

「ええ、こいつはずっと田舎にひきこもっていましたからね。ここまで人の多い場所は初めてなんですよ」

「そうでしたか。お二人は王都が目的地ですか?それともまだ旅を続けるのですか?」

「俺たちは、昔の知り合いに会いに行く途中なのですよ。ここからしばらく北東にいった所にあるレリッツという街です」

現在位置が把握できたエッジは、次の目的地をやっと明確にすることができた。

「レリッツですか。少し遠いですね・・・それではしっかりとした旅支度が必要なのではありませんか?」

「そうですね。トウゴのヤツの装備一式を整えてやらないといけませんし、俺も武器がほしいですしね。幸いここは王都ですから、良いものが見つかるのではないかと」

「ならば丁度いい!是非、私の店にお立ち寄り下さい。西区画の噴水通りにあるミダス武具店です。自分で言うのもなんですが、品ぞろえには自信があります。知らぬ仲ではないですし、勉強させていただきますよ?」

「へぇ、それはありがたいです。では資金の用意ができたら、お礼も兼ねて寄らせてもらいますね」

「はい!お待ちしております。きっと気に入る品が手に入ると思いますよ。期待していて下さい。では順番もきたようなので、私たちは行きますね。また後日よろしくお願いします」

「こちらこそありがとうございました。ではまた」

王都の出入りは、危険物や禁制品、お尋ね者のチェック以外はそこまで厳しいわけではなく、入市税なども特にない。

それでもやはり出入りする人間の多さから、門の前に行列ができてしまうのは仕方がないのである。

ホズ達は、商業用の門から先に行ってしまったので、エッジ達は、ただ待つことしかできなくなってしまった。

「親父、中に入ったらどうするんだ?できれば早く靴だけでもほしいんだが」

「そうだな・・・まずは、ハンターギルドにいくぞ。そこで道中で倒した魔物の素材を売る。ついでにこいつを売れる場所を聞く」

そういって腰の後ろにいていたショートソードを、鞘ごと抜いて見せた。

「それって以前から使ってた物なんだろ?いいのか?」

「ああ、背に腹は代えられないしな。それにこいつを売れば、お前にかなりの装備品を買ってやることができるぞ?全て高級品って訳にもいかないがな。それに馬車も買わないといけないし」

「馬車か・・・あれケツが痛いんだけど・・・どうにかならんのか?それに剣一本売ったくらいで、そんなに沢山買う事なんてできるのかよ」

「ああ、こいつはな、かなり希少な金属を名匠と大魔導士が、協力して鍛え上げたんだ。それなりに良い出来だと思う。家一軒分くらいにはなるんじゃないか?」

「マジかよ!?」

「まあ、作ったの全部、俺の昔の仲間なんだけどな」

「親父の仲間ってすごかったんだな・・・」

(あれを協力と呼んで良いのかは知らんが、合作であることには変わりない・・・はずだ・・・)

そんな話をしていると、刀護達のチェックの順番になった。

「ようこそクリスベルンへ。かっこいい仮面の兄さんは、それ外してもらえるかい?あと荷物を確認させてもらうよ。・・・そっちの兄さんは、靴はどうしたんだ?それにあまり見かけない恰好と髪の色だな?」

「すまんな、これでいいか?」

そういってエッジは仮面を取って素顔を見せた。

「・・・どこかでみたような気もするが・・・手配書にはないしな、問題ない。荷物の方だが幾つか質問がしたい事がある。時間は取らせないから、ちょっとこっちにきてくれるか?」

「問題ない。刀護、こっちだ。この衛兵さんについていくぞ」

「あいよ」

衛兵の詰め所へと入った刀護達はいくつかの質問をされた。

「まずは、これからだな」

そういって指さしたのはタブレットPC。

「これは魔道具の一種なんだが美術品の類だな。これを見てくれ」

そういってタブレットPCを操作し、もともとこの状況が織り込み済みであったのだろうと思われる絵画や風景の画像を衛兵に見せていた。

「これはすごいな・・・こんなものは初めて見た。そっちの兄さんのもってるやつも同じものかい?」

「そうだ。確認するか?」

「いや、問題ないよ。次はこれだな。この黒い液体と茶色のペーストか?あとこの白い・・・うわっ!?何の臭いだ!?」

「あははっ、こっちの黒い液体と茶色のペーストは調味料だよ。この白いやつは、こうするんだ」荷物からマイ箸を取り出したベイルは、白いスチロールのパックを開け、タレをかけて箸で混ぜ始めた。

「うわっ臭っ!?それはなんなんだ!?腐ってるんじゃないのか?」

「違うぞ、ちゃんと食える。美味くて体にも良い、最高の食べ物だ。こっちにないのが残念でならん・・・」

そう言いながら納豆を食べ始めた。

「やっぱ白米がほしいな」

「わかった!もういいから行ってくれ!臭くてかなわん」

「失敬だな!一個やるから食ってみろ。絶対に気に入るはずだ」

「いらん!そんなもの置いていくな!早く行け!」

「わかったよちくしょう・・・絶対美味いのに・・・」

「何言ってるかわかんねーけど、納豆が誰にでも愛されるわけないだろ?地球でだってかなり賛否両論なんだから」

「わかってるんだけどな・・・そうだ、宿をとれたら、またかけなおさないと」

納豆は日持ちするが、やはり長旅には耐えられない。だが納豆は冷凍保存することができるのである。この世界にて魔王を倒し、勇者と崇められた男が全身全霊を以て放つ氷結魔法にて、納豆の命は守られているのだ。

「勇者とは安いものじゃのう」



門をくぐって市街へと入った二人はまず、当面の資金を得るためハンターギルドへと向かった。

「ずいぶんとでかい建物なんだな。広くて清潔でなんかイメージと違う」

「あたりめーだろ。ここはな、ハンターギルドの本部だ。なんせ多彩な依頼が集まる場所だからな、腕利きはここか、魔物が強い辺境へと向かうわけだ。それはさて置き、さっさと入るぞ。はやいとこ宿も決めないといけないしな」

そういって返事を待たずギルドの中へと入って行った。そして迷わず、鑑定のカウンターへと向かう。

「これの買取を頼む。あとこいつを買い取ってくれそうな場所を知らないか?」

そういってモンスターの素材と、腰のショートソードをカウンターの上へと置いた。

「ほう、ガルムの角と牙ですね・・・東の荒野を抜けてきたのですか?状態も良いですし、すぐにでも買い取りできますよ。剣もこちらで鑑定できますが、どうされますか?」

「頼む。見積もりがあれば交渉もしやすいだろ」

「とりあえず先に品物を見せていただきますね?少々お時間を下さい」

「ああ、頼む」

そう言ってカウンターを離れ刀護の下へ戻ってきた。

「なんか俺、すごい見られてるんだけど何かしちまったか?」

刀護は周りからの視線を感じて萎縮していた。

「心配するな、何もしてないよ。お前の恰好と髪が珍しいんだろ。靴も履いてないしな」

「何でもいいから早く靴が欲しいよ」

「もうちょっと待て。鑑定が終わったら素材の金が貰えるから、それで買いに行こう」

「早く終わらないかな・・・」

そうこうしていると、突然、ガタンと音を立てて立ち上がった鑑定士が、何やら青い顔で奥にいた責任者らしき男と相談を始めていた。

鑑定士の報告を聞いた責任者らしき男は、あわててエッジの下へと駆け寄ってくる。

「始めまして。わたくし、当ギルドの鑑定・買取部門の長を務めておりますオルバンと申します。失礼ですがお名前を伺っても?」

「これはどうも。私はエッジと申します。連れはトウゴ。こいつは共通語を話せないの話は全て私が聞きます」

「では改めましてエッジ様。二つほどお聞きしたいのですがよろしいですかな?」

「答えられる限りであれば構いませんよ」

「ありがとうございます。では・・・あのショートソードはどちらで手に入れられましたか?」

「それは答えないといけませんか?」

「いえいえ!そんなことはございません。少し気になっただけですので、お気になさらずに」

「・・・そうですか」

(何だ?・・・確かに値の張る品だとは思うが様子がおかしいな)

「二つ目ですが、あの品はお売りになるつもりなのですよね?」

「ええ、そのつもりですよ。きちんとした値段で買い取ってくれる店を探していました」

「でしたら、当ギルドで適正価格で買い取らせていただきたいのですが、どうでしょう?」

「・・・は?ギルドで剣をですか?素材以外の買取は行っていないと聞き及んでいましたが、良くあることなのですか?」

「ええ、もちろんです!強い装備品はハンターの命を守りますからな!我がギルドの有望なハンターにでも使ってもらおうかと。も、もちろんお代はいただきますがね?」

(こいつ本当に買取部門の責任者なのか?もう少しうまいこと嘘が言えないもんかね?っていうかここギルドの本部だろ?こんなの置いておいて大丈夫なのかよ)

「そういえばこの近くに商業ギルドもありましたよね?」

「・・・ええ。ありますがそちらに何か御用事でも?」

「剣の売却は、そちらに相談しようかと思いまして。こちらでは、素材の代金だけお願いします」

「お待ちください!私どもにお売りいただければ相場の2割増しで買い取りましょう!あなたにとって損な話ではないはずです!」

「失礼だが、何か隠しているような相手に大事な品を売りたいとは思えません。すぐに素材の代金をお願いします」

そんなやり取りをしていると、入り口から、身のこなしに隙の無い男性が姿をみせた。

「何やら騒がしいようだが?事情を説明してくれないかな?」

すると、カウンターの中にいた職員が、男性へと耳打ちをする。

「・・・オルバン。どういうことだ?」

「ギルドマスター!?いつ王都にお戻りになられていたのですか!?・・・これは全てギルドのためにと思って!」

「ほう・・・ギルドのためにギルドの信用を落とすような真似をするというわけか。これは面白いな」

「しかし!」

「お前の言い訳はあとで聞かせてもらおう。それよりも・・・」

ギルドマスターと呼ばれた男はエッジに向かって片膝をついた。

「部下が迷惑をかけたようだ。本当に申し訳ない」

「いや、俺も何が何だかわからないんですけど。こいつはいったいどういうことなんですか?」

「お前さん達は、そいつを売るって話だったんだよな?この阿呆は、きっとお前さん達から二束三文でその剣を買い取ろうとしたんだろう。剣の価値は、商業ギルドで詳しいことが聞けるはずだ。素材の買取に関しては迷惑料も兼ねて少し色をつけさせてくれ」

そういって立ち上がりながら職員に目配せすると、すぐに代金が運ばれてきた。

「すまなかったな」

「いや、いいんですよ。実害がでたわけじゃないですしね」

「・・・話は変わるんだが、お前さん達、ハンターじゃないだろう?」

「ええ、ハンターの資格は持っていません」

「ハンターになる気は?」

「一応、それも視野に入れていましたが、なんだかそんな雰囲気じゃないですよね、これ」

「そんなことは気にしないでくれ!お前さん達みたいに腕が立ちそうなヤツならいつでも歓迎だ!すぐにでも登録していかないか?」

「・・・俺たちの実力なんて、たかが知れてますよ。買い被りです。期待されても恥をかくだけですから、勘弁してください」

「まあそう言うな。おい、書類持ってきてくれ!」

すさまじく強引な勧誘に、あれよあれよという間に二人はハンターとなり、ハンターの印であるドッグタグに似たネックレスを首に掛けられていた。

「ガルムの素材を持ってきたくらいだからな、こんなランクじゃないことはわかっているが規則は規則だ。一番下のランク1のハンターとしてこれから頑張ってくれ!商業ギルドへはすでに連絡は入れてある!気をつけてな!」

「は、はい・・・」

あまりの勢いに勇者も形無しであった。


「結局、商業ギルドにいかないと疑問は解決しないわけだが、その前にお前の靴を何とかしようか。本当なら剣を売った金でしっかりした物を買おうと思ってたんだが、なんか嫌な予感がするんだ」

「奇遇だな。状況も掴めないのに、嫌な予感がする」

「儂もー」

「私もー」

「軽いなあんたら・・・」

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