第29話 懺悔の時間
街の北側にある二階建ての建築物。地味な見た目とは裏腹に、内装は高級家具が揃い、棚には各国の調度品や名酒が並べられ、床には一般市民では到底手の届かない豪華な絨毯が敷かれていた…のだが、今はテーブルや椅子だけが部屋にポツンと残っているだけ。
「くそっ…あいつらはまだなのか。今日来ると言っていたのに」
この部屋の住人である中年男性は苛ついた様子で、部屋を右往左往している。
「ん?なにやら外が騒がしいな…」
しかも、少し騒ついては静かになる、という状態が繰り返されている。
「警備のやつらはちゃんとやっているのか?金を出した分はしっかり働けというのに」
すると、玄関の方から再び音が聞こえる。男性が気になって玄関へ近づくと、
「ごめんくださーい。誰かいますかー?」
扉をノックする音と、女性の声が聞こえてきた。
「ん?あいつにしては、声が高いな…」
男性は訪問者を確認するために扉の前に近づくと、
「まぁ、勝手に開けるんだけどねー!」
ドアノブ部分がバキッと音をたてて壊れ、扉が勢いよく内側に開く。
「うがぁっ?!」
扉は男性の腹部に直撃。その勢いで弾き飛ばされ床には仰向けで倒れる。
「ん?鈍い音が…って、あちゃー、見事にクリーンヒットしっちゃたかー」
「リズ。私はわざとやったようにしか思えないんだけど」
扉の外から現れた女性2人はそのまま土足で中へ入っていく。
「さて、ついでに部屋に運んで事情聴取と洒落込みますかー」
「あのね、お願いだからその私の指摘を無視して進めるのいい加減やめてほしいんだけど」
「ほら、こっち持って」
リズが倒れた男性の左腕を掴み、右腕を女性に掴むよう差し出す。
「もう…触りたくないんだけど」
女性は渋々、男の右手を掴む。そして、突然の訪問者たちは壊れた扉をそのままに、床に倒れてのびている男性を奥の部屋へと引きずっていく。
「お前らは一体なんなんだ?!なぜ、修道女がこの家に…」
先ほどまで男性がいた自室に、彼が知らぬ女性が2人が追加されている。
「それにこれをはずせ!!くそっ、警備は何をやってるんだ!」
さらに、男性は後ろ手に縛られる形で椅子に固定されていて、動けない状態だ。
「この服は私服みたいなものなので、気にしないで。警備の方たちはその、残念ですけど」
黒い修道服を身に包んだ女性がお詫び残ってつもりか、少し頭を下げる。
「あ、気絶させただけだから大丈夫なんで、それより、ずいぶんと厳重に固めて、身も軽くして逃げる気満タンみたいだったけど、いやー、見捨てられたみたいだねー」
白い修道服を身に包んだリズが男性の肩に手をポンと置く。
「な、何を言っているんだ貴様ら…」
「ところであなた、アムズガルドの商人として台頭し、商工会の副会長として腕を振るう一方で、未登録の酒場を経営、アイドル志望の女の子たちを虚偽や脅迫で働かせているんだって?中にはひどいことをさせて荒稼ぎさせた子たちもいるみたいだねー」
「さらに、残存する魔人の血液や強奪した他組織の物品を闇で売買。とどめは店で働いていた女の子たちを誘拐。極悪非道すぎて目も当てられないのだけど」
「何を突然に…、い、言いがかりはやめてもらおうか…」
修道女2人の追及を否定する男性。
「これを見ても、それが言えるかな?」
リズはテーブルの上に何枚かの写真といくつかの書類を並べる。写真には黒服の男たちが地下酒場の近くで赤い物体を渡している姿や、この男性とみられる人物が女の子と怪しげな店に入っていく姿が写っている。一方、書類は地下酒場とみられる店の権利書や女の子たちと交わしたとみられる契約書などだった。明記されている名前は全てこの男性のもの。
「なぜ、これがここに?!」
「写真はこっちで仕入れたけど、書類はご丁寧に店に保管してあったよー」
「なんだと…捨てたと言っていたはずなのに」
「はぁ…、分からないんですか?それはあなたが捨て駒にされた、ということなんですけど」
「下手に調査されるよりて引っ張られるよりは、責任は全部こいつにありましたーって、突き出して解決させるほうが、他のやつらにとっては都合がいいってこと。おいしい汁だけ吸って、全部あっち任せにしたのが裏目にでっちゃたねー」
それを聞いて、がくりと頭を垂れる男性。
「まぁ、首謀者たちを易々と逃がすつもりもないけどね。さて、証拠の次は証人かなー」
「リズ。そちらは別の方が?」
「そうだよ。ワタシたちは明後日に向けて別の仕事が残ってるからね。さぁ、もうひと頑張りしますかー!」
「そちらは“美しい”仕事なんですよね?この部屋もこの男も汚すぎて…私、もう我慢の限界なんだけど」
黒い修道服の女性は籠から布を取り出し、自分の体を服の上からしきりに拭く仕草をする。
「安心して。そこは保証するよ。なかなかいい出来だと思うからねー」
「そう、それは良かった。では、最後にここを美しくて去りたいんだけど」
「いいけど、警備隊や商工会の人たちが入れるようにしたいから、入り口だけは残しておいてねー」
その言葉に頷くと、女性の右手が光を放つ。右手の光がまるで水のように地面にこぼれ落ち、建物の庭、外装、内装へと広がっていく。瞬く間に建物全てが光に包まれる。
最後に女性がパチリと指を鳴らすと、建物は一瞬にして凍りつき、巨大な氷像と化した。
「まだ、求める美しさには足りないですね。少しは綺麗になったけど」
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