第13話 とある村の終わり

「おい。その村ってまさか…」

「ハルト。ワタシは今ほど自分の頭の悪さを恨んだことはないよ」

 エリオたちの過去の話を聞いたハルトとリズは驚きを隠せなかった。

「俺たちが魔王城へ挑んだあの日。勇者たちの生みの親であり、俺たちを束ねてい各国の集合組織『五国連合』は魔王自身と配下の三幹部といわれるやつらを分離させるために、誘導作戦を計画していたと聞いていたが…」

「どうやら、その作戦の実行地帯、つまり、おとりになったのがエリオたちの村だったってことなんだね…」

 当時、2人はそんな作戦が行われるとことを小耳に挟んでいた。分断作戦を行う地域にも別の部隊を送ると聞いていたが、もちろん自分たちの戦いがあったため、『きっと誰かがそちらを担当しているのだろう』と考え、詮索はしなかった。

「でも、実際はおとり側には何も支援しなかったというわけか…」

「おとりというか、捨て駒だね」

「…それで、その後、2人はどうなったんだ?」

「そうだな。話を戻すとするか」



 私とセレナは魔人に襲われそうになった。本気で死を覚悟した時だ。突如、天から巨大な雷が降り注いで魔人に直撃したんだ。鋭い閃光を輝かせ、轟音を鳴り響かせて魔人に突き刺さった紫電に私たちは眼が眩んだが、その雷は魔人の体を一瞬で完全に焼き払っていた。後に残ったのは魔人と同じ真っ黒の焼け焦げた跡だった。

 そこからしばらくは放心状態だったのか、気絶していたのか、意識がしばらく飛んでいた。目が覚めると、雨は止み、まぶしい太陽が戻ってきていた。そして、意識が戻らない妹を背負い、村に戻った私はそこで焼き払われ、見るも無残な姿になった村と、人々を見ることになった。誰一人生き残っている人は見つからなかったよ。クラルの行方もわからない。生きていることはないだろうから、体が粉々になるまで戦ったんだろう…。

 私は村の人たちを土に埋め、弔った。父、母、隣のおばさん、村長、そのあたりはかろうじて姿がなんとかわかってしまった。半日かけて形が残っている人たち全員の埋葬が終わった頃、セレナが目を覚ましたんだ。しかし、その時、セレナの記憶は何一つ残っていなかった。かろうじて、自分が人間であることくらいはわかっていてくれたがな。その時は戦争のことも村のことも何も話さず、ただ私がセレナの姉であることだけを教えた気がする。いろいろごまかすのは大変だったが、思い出させるには辛すぎる記憶だったから。



「ということは、つまり…」

 ハルトはセレナに視線を向ける。

「そんなことがあったんだ…」

 初めて聞いたとみられる様子で、口に手を当て、震えるセレナ。

「そう、詳しいことはセレナにも話したことはなかった。まぁ、親も無く2人だけでこれまで旅をしていたのだから、少しくらいは察していたとは思うが」

 エリオは席を立ち上がる。

「というのが私たちの昔話だ。私が最初にハルトが勇者だと知って詰め寄ったのは、あの時の魔人の言葉から、勇者たちが関与している。勇者たちがこの村に来ていればこんなことにならなかった。いや、勇者たちの存在が魔人がこの村に来た原因だったんだ、と思っていたからだ。まぁ、実際はハルトたちも知らなかったみたいだから、きっと他人の事を考えない輩が魔王城の防御を薄くするために、村一つを犠牲にして企てたんだろう。そんな風に考えて諦めたよ」

「村にいた魔人たちはどうなったんだ?」

「わからない。私が村へ戻った時には魔人は一人も残っていなかった。他の場所へ移動したとか、雷に打たれた魔人と同様に霊山の天罰でも下ったんじゃないか?」

 エリオはぐっと伸びの動作をして、

「ふぅ、久しぶりに話疲れた。ちょっと厨房で飲み物でも飲んでくる」

 と言い、フロアから出て行った。

「いやぁ、驚いたよ。いや、やっぱりだったと言うべきかな。本当、あいつらはクズだったんだねぇ…」

 リズは席を立ち上がり、セレナのいる席へ向かう。

「どうであれ、エリオの話したことは真実だ。魔王討伐最終戦の裏に多くの人々の仕組まれた望まぬ死があったことは間違いない」

「ハルトさん、リズさん。わたし、わたしは…」

 なにかをすがるような目で2人を見つめるセレナ。

「セレナちゃんは何も悪くないから…さ。気にしなくて、きっといいと思うよ」

 少し震える手でリズはセレナの頭をなでる。

「リズさん…!」

 我慢できなくなったのが、リズの体に抱きつく。

「おっ、何か柔らかいものが体に当たって…、なんて一応自分のキャラのために言っておくけど」

 それでも表情は穏やかに、セレナを優しく抱き返す。その様子を見たハルトは1人、店の扉へと向かう。

「ハルト、とりあえず特訓は明日からにするから、この後は自由時間だよー」

「晩飯、用意しておいてくれるか?」

「もちろんっ。真心込めた愛妻料理を作って待ってるよー」

「お前みたいに性格歪んだやつと結婚するのは勘弁かな」

「ワタシもハルトみたいに性格悪いやつと結婚するのはゴメンだねー」

 そんなやり取りを背に、ハルトは店を出た。


「…さて、一体これからどうしたものか」

 なんて、困った気持ちを表す言葉とは裏腹にハルトの足は歩み始めていた。すっかり日は落ち、街に明かりが灯る中、ハルトはある場所へ向かうのだった。

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