第10話 彼女の個性

「さて。まず、アイドルとして一番必要なのはだね…」

いつの間に用意したのかわからない眼鏡と指し棒を装着したリズが店内をまるで教師のように特に意味もなく歩く。

「なんだと思う?!」

「えっ?!あ、あの、魅力、ですか?」

突然指されたセレナはおどおどと答える。もう完全にリズに対して怯えていた。

「あー、だいたいそんな感じかなー。もっと厳密に言えば、その人にしかない個性!キャラだよ、固有のキャラなんだ!!」

※あくまで個人の意見です。

「セレナちゃんはかわいい、優しい、ちょっと恥ずかしがり、穏やか、胸が大きい、髪が良い匂い、二の腕が柔らかいなど、数々の個性を持っているんだけど…」

3人ともツッコミはもう諦めていた。

「どれも『他にいる』んだよねぇ〜。だからアイドルとしては押しが足りないんだよ」

「ふむ。ちなみに、お前から見てアスティナのキャラってのは何なんだ?」

「かなりミステリアスなとこかな。一切の素性や性格すらもわからない。ライブ中もほとんど喋らないし、プライベートも不明。ハルトから聞いたけど、正体が子供なんだっけ?まぁ、そんなわけで秘密のベールに包まれてるから、ファンの皆は彼女がどんな性格なのか外見とパーフォマンスだけで妄想して期待が膨らんで人気爆発ってわけ」

ハルトの質問に対して、真面目に答えるリズ。

「なるほど。も、妄想させるんですか…」

一方、一気にまくし立てて話すリズに圧倒されるセレナ。

「ちょっとアレな表現だとは思うけど、この部分は大きいんだよ。目の前のアイドルは一人なのに、ファンからはそれぞれ異なる姿が映ってる。それが自分だけに見える姿だと思えたら、優越感や独占欲を満たせるわけですよ。これは強いね。ファンはなかなか離れないから」

「そうなんですね。ところで、ファンって何ですか?」

「アイドルを強く応援する客のことだよ。ファンを増やすのが、人気増大のわかりやすい目印になるってわけさ」

セレナは怯えていたさっきと打って変わって、真剣な表情でリズの話を聞いている。

「というわけで、セレナちゃんをどんなキャラで売り出すかというと…」

「は、はい…」

「普段は大人しくて心配なところもあるけど、パーフォマンスしてる時は凛々しくなってファンを引っ張る!ってな感じでいこうか〜」

「長いな」

さすがにちょっとツッコんでしまったハルトに対して、

「良い…」

小さく呟くエリオ。ハルトはそれに気づいた。

「エリオ。もしかしてリズの提案を結構気に入ってるのか?」

「い、いや?!そんなことはないからな!あんなやつの話など…」

と言いつつ目をつぶり何かを考えているエリオ。口を必死に真一文字にしてるが、時折ぷるぷると小刻みに震えている。

「リズもリズだが、エリオもなかなか変態の素質があると思うんだよな…」

見た目クールな姉のシスコンっぷりに一抹の不安を感じるハルトであった。

「さっきセレナちゃんの歌を聴いたけど、静かな曲しかなかったから、もうちょっとテンポの早い曲とかでもいいんじゃないかなって思うんだよね」

「そういえば、アスティナさんや酒場の女の子たちみたいな曲はあまり歌ってこなかったです」

「ところで、セレナちゃんってわりと歌が上手い方だと思うんだけど、昔から歌が好きだったの?」

歩き回るのに飽きたのか、適当な席に座って頬杖をつくリズ。

「うーん、昔から…、好きだったんですかね?」

そう聞かれて途端にどこか切ない表情になるセレナ。

「あ、あぁ、セレナは昔から歌が好きだったぞっ」

「なぜに疑問形なんだい?そして、なぜキミが答えるんだい、エリオ?」

また一転、今度は真剣な表情をしたセレナは、

「実は私、昔の記憶がないんです」

そう話した。

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