12-3 ガチ勢


 お互いのデッキケースが光り、中からシャカシャカと音が聞こえ始める。

 中でデッキがシャッフルされている。

 しばらくしてケースから最初に配られる手札の5枚が射出された。

 さらにシールドとなる、5枚も追加で射出される。


 射出された手札は左手に集まり、扇形に広げて持つ。

 一方、射出されたシールドは空中で5枚重なって畳サイズくらいまで巨大化。

 そして前方5メートルくらいの、相手との視界を遮る位置に下りてきて透明化した。


「先攻は僕のようだ。ドロー。」


 そう言うと腰に装備し直した彼のケースから、手札が一枚射出された。

 彼はスマートに手札をキャッチし、そのまま召喚する。


「手札のサモンカードを使い、下級ユニット[聖騎士見習い キッド]を召喚。」


 言いながら手札を一枚、目の前の透明テーブルへ叩きつける。

 叩きつけたカードが光り、地面に魔法陣みたいな丸い模様が現れた。

 魔法陣は黄色く光り輝き、そこから銀色の甲冑に身を包んだ若き騎士が現れた。


[聖騎士見習い キッド]

攻撃力3,000 守備力1,000 スペル枠:聖属性2個


「僕のターン終了、次はキミの番だよ。」


 いきなり下級の中でも上位クラスのユニットを召喚してきた。

 まあ今の俺らの魔力ならいきなり中級を出すことも出来るが。

 そんな事をしたらジリ貧になってしまうので、相手も慎重だ。


「……あれは去年の大会で優勝した……聖属性・聖騎士デッキ!」


「りっくん、聖騎士の連携に気をつけて! 頑張ってください!」


 彼のデッキの情報はタタミから得ている。

 しかし前回の大会から一年、変わってないはずもないし、今は魔力も強化されている。

 研究データが役立つのか。


「俺のターン、ドロー!

手札から下級ユニット[スケルトン魔法使い]守備態勢で召喚!」


 対戦相手はディフェンディングチャンピオン。

 学生大会しか出ていないから学生チャンピオンなだけで、本当はこの国内トップクラス。

 所持DP(デュエルポイント)は『50万ポイント』。スカウターもぶっ壊れる数値。

 一学年の全生徒半分のポイントくらいある。

 そんな相手が目の前にいる。


 いや、さらに言うと。

 ユニットの声が聴こえる。

 この世界の謎と戦おうとしている。

 魔力が強い。イケメン。

 どこをどう見ても、彼はこの世界の主人公だ。

 きっといつか世界の謎を解き、黒幕をやっつけて、この国に平和をもたらす。

 そんな気がする。


「魔法使いのスペル枠を消費、スペルカード《髑髏の饗宴》!

デッキを消費して下級ユニットを召喚! 呼んでくるユニットは[髑髏の調教師]!」


「え、いきなり使うの!?」


 対する俺はどうだ。

 この世界から外れた人。部外者。

 漫画やラノベみたいにチートも貰えず、大した活躍もしていない。

 無能力者。ブサメン。

 コミックの巻末におまけとして一話描かれる番外編キャラみたいなもんだ。


 主人公には「主人公補正」がある。

 デュエルでどんなピンチに陥っても運命の引きデスティニー・ドローで逆転してしまう。

 引く前にユニットの声が聴こえるなんてのもあったりする。

 対戦相手はおそらくそういうタイプの人間だ。


「[髑髏の調教師]のスキル発動!

自身を犠牲にして[聖騎士見習い キッド]のコントロールを得たい!」


「ガラ空きの僕に攻撃して3,000ダメージを与えようって事かい?

うーむ。でもまだ2ターン目……うん、対抗は使わないよ。」


 勝てるのか? 「主人公補正」に。

 いや、でも勝たなくちゃ。

 きっとこれが異世界最後の戦いになると思う。

 ここまでみんなで力をあわせてきたんだ。


 例え番外編だとしても、劇場版の重要キャラくらいにはなってみせる!


 見てろよ、ここからがクライマックスだ!!




 ――――とでも




 言うと思ったかバーーーカ!!!




「対抗無い……無いのか。フヒヒ」


「え、なにリクシンその顔。」


「……キモい。」


 おっと、思わず笑みが出てしまった。

 たぶんヤクザもびっくりするようなゲスい顔してただろうな。

 駄目だ……まだ笑うな……こらえるんだ。


 負けを知らないパーフェクト主人公、フォロウ・ランライン。

 その物語、俺がぶち壊してやんよ!!!


「手札から! "火属性"中級サモンカード使用!

召喚回数に縛られずスキル召喚出来るユニット、[カゲロウプロテクト]!」


「……うわぁ。」


 嫌なものを思い出したのか、タタミが苦い顔をする。


「火属性!? あんたそんなもん使ってどうするの!

もう魔力もほとんど無いじゃない!」


「まあ見てろって。奪った[聖騎士見習い キッド]のスペル枠使用!

聖属性スペルカード《ホーリーサモン》! 出てこい、[髑髏の魔術師]!」


 同じ"級"の別ユニットに入れ替える強力なスペル。

 まるで俺のために聖属性ユニットを出してくれたのかと思ったよ。

 手札で腐ってたこいつをこんなに早く使えるとはね。

 これで中級ユニットである[カゲロウプロテクト]を入れ替えた。


「やっぱりキミは面白いね。色んな色のカードを使うなんて。」


「ありがとね、でも面白いのはここから!

[髑髏の魔術師]のスペル枠を2個使用! 重スペルカード《魂の取引》!」


 ライフを5,000払い、お互いに二枚ドローする効果。

 俺のライフは2ターン目にしてすでに20,000になった。


「ちょっとリクシン! もういくらなんでも飛ばしすぎよ!

相手はチャンピオンなんだから慎重にやりなさいよ!」


「ちょっと黙ってて、今めっちゃ考えてるから!!」


 集中。

 一歩でも間違うと止まってしまう。

 とにかく先の先まで考えるんだ。


「魔法使いのスペル枠を消費、《髑髏の饗宴》!

デッキからもう一度[スケルトン魔法使い]を召喚!

その魔法使いのスペル枠全部使い、もう一度《魂の取引》!

俺のライフは15,000、お互いに二枚ドロー!」


「いいのかい? 僕の手札が9枚になるよ。」


「いいんだよ……よっしゃ引いてきた! [髑髏の魔術師]の最後のスペル枠で!

三枚目の《髑髏の饗宴》、またまた[スケルトン魔法使い]召喚!」


「これは何が起こってるんですか……?」


 俺の場には[スケルトン魔法使い]が三体、[髑髏の魔術師]が一体。

 そして相手から奪った[聖騎士見習い キッド]が一体いる。


「攻撃力ゼロのユニットばかり並べても、僕は倒せないよ?」


「いやいや、もちろんこいつの出番だよ。うおおお、搾り出せ俺の魔力ううう!!」


 とは言っても白石の魔力だが。

 ルール違反限界の、初手に用意できる最大級の魔力を使い切る。

 後一枚、こいつを出すために。


「手札から上級サモンカード使用!

魔法使い二体・魔術師一体を犠牲にして上級ユニット[スケルトンマスター]召喚!!」


 俺の場にいる三体のスケルトンがバラバラになり、一箇所に集まる。

 それは黒い暗黒空間に包まれ、ほとばしる紫の電流とともに中から人影が現れた。

 真っ黒なローブ、パワードスーツのような外骨格が骨で出来ているユニット。


「ははっ、すごいねキミは! 後攻1ターン目で上級ユニットを出すなんて!

こんな相手初めてだよ!」


 フォロウが笑っている。

 ここまで出すのに手札とライフを激しく消費した俺を下に見ているのか。

 それとも楽しんでいるのか。


「そう? でもまだ続くんだよこれが。

残ってる[スケルトン魔法使い]のスペル枠全部使い、最後の《魂の取引》!

俺のライフは10,000に、お互いに二枚ドロー!」


「リクシン、どうしちゃったの!? シールドを削りすぎよ!

相手の手札は11枚になっちゃったじゃない!」


「大丈夫、もう手札はいらないよ。」


「……はぁ?」


 大きく息を吸う俺。

 一気にいくぜ。


「[聖騎士見習い キッド]の最後のスペル枠、《エンジェルドロップ》!

デッキを消費して下級の『種族:天使』ユニットを喚ぶことが出来る!

召喚するユニットは……[クッキングキューピッド]!

さらに[クッキングキューピッド]のスペル枠を使用してもう一枚《エンジェルドロップ》!

もう一体の[クッキングキューピッド]をスペル召喚!

そして召喚したキューピッドのスペル枠で……《ホーリーサモン》!

残ってる[スケルトン魔法使い]を[スケルトン戦士]に入れ替え召喚!」


 俺の場がユニットで埋まる。


[スケルトンマスター]

攻撃力7,000 守備力1,000 スペル枠:なし

スキル:破壊されても三回までその場に再召喚できる。


[クッキングキューピッド]

攻撃力0 守備力1,000 スペル枠:聖属性1個

スキル:ユニット一体に1,000ダメージを与える。


[聖騎士見習い キッド]

攻撃力3,000 守備力1,000 スペル枠:聖属性2個

スキル:なし


[スケルトン戦士]

攻撃力2,000 守備力1,000 スペル枠:なし

スキル:戦闘破壊されたターン終了時、再召喚できる。


 驚きのあまりか、対戦相手はフリーズしている。

 それでも容赦なく進める俺。


「よし、バトルフェイズ! [スケルトンマスター]攻撃!!」


 ガラ空きの相手のシールドをぶった切るスケルトンマスター。

 それに続き、スケルトン戦士も攻撃に参加。

 攻撃に対抗して、3分で料理できそうな顔をしているキューピッドが矢を放つ。

 矢じりが玉ねぎになっている矢はスケルトンマスターの膝に刺さる。

 たったそれだけでマスターは雄叫びを上げ、苦しそうに倒れてしまった。

 が、その場で再生。

 もう一度攻撃し、相手のシールドをぶった切る。

 続く[聖騎士見習い キッド]の攻撃にも、もう一体のキューピッドが対抗。

 またスケルトンマスターが破壊・再生され攻撃態勢を取る。


 キューピッドの対抗能力を使った、[スケルトンマスター]の連続攻撃コンボ。

 攻撃を直接シールドで受け、風圧におされながらよろけて立つチャンピオン。

 それでもにこやかなイケメンスマイルを俺に向けてくる。


「本当、キミと戦えてよかったよ……。

ユニット達も奇抜な使われ方をしていてすごく楽しそうだ。

キミは何者なんだい?」


「またその質問か。うーん。

まあ、いい歳してデュエルに本気出しちゃう『デュエルガチ勢』ってやつだよ俺は。

相手残りシールド6,000だ、[スケルトンマスター]最後の攻撃!!」



 カードゲームが流行ってる異世界に、デュエルガチ勢が転移したらどうなるか教えてやろうか?



 空気読まずに1ターンキルソリティアするんだよ!!



 カードゲーム用語「1ターンキル」。

 ただの一人遊び。

 強すぎるカード、いわゆる『壊れカード』などを駆使し、1ターンで相手を倒す戦法。

 これがはびこるとそのカードゲームが衰退してしまう。

 あまりにもつまらなすぎるので「家に帰ってソリティアでもしてろよ」と言われる。


 このカードゲーム、禁止レベルの壊れカードが多い。

 中でも《魂の取引》。自分で壊したシールド分含めて三枚手に入るとか。

 《ホーリーサモン》も色指定無いし、スケルトンマスターも「再召喚」扱い。

 カードゲーム世界の人間は何故かそういうカードを使いたがらない。

 何故か?

 子どもたちへの夢もへったくれも無いからだ。

 そんな子供向けカードゲーム販促物語みたいな世界を、俺がぶち壊してやった。

 残念だな。

 それでも勝ちは勝ちだ。



YOU WIN



 いつもの勝利コールとともに、デュエル空間が消えていく。

 後攻1ターン目で終わったため、待ち合わせた時間からそんな経ってない。

 元の第二棟・屋上の風景に戻った。

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