9-3 脱衣タイム


 このターン、タタミは下級ユニット[オタマスライム]を召喚。

 手足の生えたオタマジャクシが、体を透明なスライムで覆っている。


[オタマスライム]

攻撃力0 守備力1,000 スペル枠:魔属性2個


 そして棒立ちのブーメランパンツへ、[超弦理論の悪魔 リング Lv4]が攻撃。

 差し引き1,000ダメージを相手シールドに与えた。


『私のターン! ドロー! さあここから一気に攻めさせてもらうよ!

手札から中級ユニット[アーマーピル バグマン]!』


 ドドーンと地面から元気よく出てきた、ダンゴムシモチーフの人型ユニット。

 パワーオークより痩せているが、仮面ライダーのようなメタルヒーロー感がある。


[アーマーピル バグマン]

攻撃力5,000 守備力2,000


『パワーオークじゃないのかって? まあ見てなさいって。

さらにスキル召喚! 中級ユニット[カゲロウプロテクト]だ!』


[カゲロウプロテクト]

攻撃力4,000 守備力1,000


 トンボがモチーフの昆虫人間がまたもや召喚された。

 一ターンに一回の召喚枠にとらわれないスキル召喚。

 前に俺が実戦テストで戦ったユニットと同じだが、こいつはスペルを持たない。

 そのかわりいきなり攻撃力が4,000もある。


『さあ今度は昆虫たちのショーだ! まずは[アーマーピル バグマン]!

超弦理論の悪魔を攻撃だ! 攻撃力5,000!』


 ここで超弦理論の悪魔を守る術はない。

 悪魔は黒い球体になったダンゴムシ人間に跳ね飛ばされる。

 差し引き1,000ダメージを受けてしまった。


『ここで[アーマーピル バグマン]のスキル発動!

相手ユニットを倒したとき、味方ユニットを直接攻撃させることが出来る!

さあ飛んでゆけおまえたち!!』


 団子状態になったバグマンが中央に居座り、カゲロウとブーメランパンツが向かう。

 団子はバランスボールのように弾力があり、二体のユニットを高く飛ばした。



バシィン! バシィン!



「……きゃっ!」


 守備態勢の[オタマスライム]を飛び越えて直接シールドを攻撃されるタタミ。衝撃で少しよろけた。

 シールドライフは14,000になってしまう。


『さあみなさんお待ちかね! 脱衣の時間だあ!!

割れたシールドは二枚! 服を二枚脱いでいただこう!!』


「……脱ぐって……嫌……あれ? あれ!?」


 タタミが上に着ていたフード付きのポンチョが飛ばされていった。


『まずは上からだ! おっとすでにシャツとスカートしか無いぞぉ!

さあ次はどこから脱いでくれるのか!』


「タタミ!」


「……ま……まだ! ……まだ負けたわけじゃない。」


 スカートが飛んでいった。

 脱ぐ、というよりは風で飛ばされる感じだ。

 服が破れたわけではないが体から通り抜けてしまう。


『次はスカートだったぁ! かわいい下着が丸見えだぁ!

色は……白! 白ですよみなさん!

シャツで隠れているが小さなリボンも見える!!』


「やめてぇ……。」


 わあああっと盛り上がる会場。

 クラウの時とは違ってNTR感が薄い気がするのは何故か。

 こんなに大勢の人が見てるのに。


『これで彼女のライフは残り14,000、私のライフは21,000!

私も少しくらい脱いだっていいんだぞ!? ターンエンド!』


「ウ、ウチのターン……」


 片手でカードを持ち、片手で下半身を隠してる。

 しかし斜め後ろにいる俺からは後ろが丸見えだった。

 腰に細いベルトがあり、そこにデッキケースがついている。

 これは脱衣ルールから除外されてるのか。


「ここで温存してたらダメだ。またスペルに制限がかかったら動けなくなるぞ。」


「……うん。」


 俺の助言は「ガンガンいこうぜ」。

 ああいうスペルを使わないデッキは、スペルを禁止する効果をたくさん使うだろう。

 しかしスペルが無いってことはカウンターが無いってことだ。

 スキルによるカウンターもたかが知れてるはず。


「……[オタマスライム]のスペル枠を二個消費。……重スペルカード《リビングデッド》!」


 俺も使ってる便利なリアニメイト(蘇生)スペル。


『おおっと! 倒した[超弦理論の悪魔 リング Lv4]がまさかの復活!

彼女のデッキはとにかくこのユニットがいないと始まらないのだろうか!』


「……さらに[超弦理論の悪魔 リング Lv4]のスペル……《銀スライムの魔法陣》!」


 悪魔がスペルを唱えると、銀色のドロっとした物体が現れた。

 その物体が悪魔の周りを周回して地面に魔法陣を描くと、悪魔が光り輝く。


『デッキを消費して強制的にレベルアップする、専用スペルだったぁ!

復活した上にレベルまで上げられてしまううう!』


 悪魔から光が消えると、そこには成長した[超弦理論の悪魔 リング Lv7]が立っていた。

 金色の髪は鎖骨まで伸びていて、身長も胸も大きくなっている。

 黒い服装も体型が出るぴっちりドレスに変わっていた。


[超弦理論の悪魔 リング Lv7]

攻撃力7,000 守備力5,000 スペル枠:魔属性2個


『これはスペルを封じなかった私のミスか~?』


「……レベルアップに成功したとき、相手ユニット一体を『拘束』状態にする。」



ビシッ!!



 [超弦理論の悪魔 リング Lv7]はどこからともなくムチを取り出し、バグマンを叩く。

 すると[アーマーピル バグマン]は黒いリングで胴体と足を拘束されてしまった。


『んなんと! 私のバグマンは防御すら出来なくなってしまった!

これは痛いぞー!』


「……まだまだ。超弦理論の悪魔のスペル《異空間への出荷》……拘束されてるユニットを破壊。」


 スペルが発動されると、バグマンの下にベルトコンベアが現れた。

 ベルトコンベアが動き、身動きの取れないバグマンは運ばれていく。

 そのまま真っ暗な異空間へ消えていった。


「……バトルフェイズ、超弦理論の悪魔の攻撃。」


『彼女の怒涛の展開に俺は為す術が無いー!

[カゲロウプロテクト]は攻撃力7,000の悪魔に蹴散らされてしまう!』


 超弦理論の悪魔がムチをしならせる。

 キレイにトンボ型人間の頭が吹き飛び、陽炎のように消えていった。

 さらにムチは相手のシールドにも当たった。


『差し引きダメージは3,000! ということは~、俺の脱衣タイムだ!!』


 こいつ本当は脱ぎたいんじゃないのか?

 着ていた白いジャケットと、ついでに赤いネクタイも何処かに飛んでいった。

 相手がポーズをキメると、会場が盛り上がった。


『さーて私のターンだ! 彼女は怒涛の展開で手札が二枚しか無い!

しかもどうやらスペルで超弦理論の悪魔を守っていくスタイルのようだ!

ここで私が繰り出すカードは~?』


 対戦相手はドローして、そのまま手札からユニットを召喚する。


『再び登場! [パワーオーク ガチマッスル]だあ!!』


 来たか。

 次のターンまでスペルを使えなくするユニット。


『さーらに!! 手札からスキル召喚、中級ユニット[パワーオーク ブラザー]!

強力なスキルを持つこのユニット、召喚した時私のシールド一枚削られてしまうー!』


[パワーオーク ブラザー]

攻撃力3,000 守備力1,000


 対戦相手がポーズを決めると、シールドが一枚はじけ飛んだ。

 さらにもう一回ポーズを取ると、上半身のワイシャツがはじけ飛んだ。

 鍛え抜かれた肉体にタンクトップがぴったしフィットしている。


『うーん一枚脱げてしまった! 残念だ!』


 会場から笑いが出る。

 やはりこいつ、ボディを見せたいだけじゃん。


『そして[パワーオーク ブラザー]のスキル発動!

自分の場のユニットに、全てのパワーを集めることが出来る!

これが、友情パワーだあ!』


 [パワーオーク ブラザー]が片腕を上げると、他のユニットも同じく腕を上げた。

 [パワーオーク ガチマッスル]5,000、[パワーオーク ブーメランパンツ]3,000。

 ブラザーの攻撃力3,000もあわせると合計11,000にもなる。


『超弦理論の悪魔へ攻撃ィ!!』


 ブラザーの拳が光り輝き、超弦理論の悪魔へ近づく。

 そして思いっきり腹パン。



ドゴォ!



 悪魔は吹っ飛び、タタミのシールドへ叩きつけられた。


「きゃあ!」


 シールドが一枚割れ、超弦理論の悪魔が消えていった。


「大丈夫かタタミ! 今だ、あのユニットを!」


「……うん。」


 よろけてしゃがんでしまったタタミは立ち上がり、カードを一枚掲げた。


「……スキル召喚! 下級ユニット[スケルトンマリオネット]!」


[スケルトンマリオネット]

攻撃力0 守備力1,000 スペル枠:魔属性1個


 地面の魔法陣から、紐で繋がったバラバラの人間の骨が召喚された。

 このユニットは上級ユニットが破壊された時、その能力をコピーした骨人形として召喚できる。

 攻撃力はゼロだが、このデッキには使えると思って教えてよかった。


『これはうまい! スペルが封じられても[超弦理論の悪魔]を蘇らせた!

さすが赤国エボカー学院の生徒、女の子でも凄腕デュエリストだぁ!』


 [スケルトンマリオネット]がおもちゃのように組み上がり、人の形になる。

 すると表面にうっすらと[超弦理論の悪魔 リング Lv7]の姿が浮かび上がった。


『しかししかししかーし! 大事なことを忘れているぞ!

脱衣ターーイム!!』


 しまった!

 これ以上脱いだら丸見えになってしまう。

 ああ、でも何でだろう、ちょっとドキドキする。


「……こ、これ以上は……。」


『残念ながらこれが大人の世界だよお嬢さん! さあ、早く脱ぐんだ!!』


「……くっ。」



バサァ!



 白いワイシャツが飛んでいった。

 ……ん?


『おーーなんだあれは!? 胸に水着を着けている!

まさかこの事を予想して着けていたとでも言うのだろうかー?』


「お、サラちゃん知ってるのか?」

「ええ、私の国で使う人がいるわ。」


 観客の男性と、その隣りにいる女性が話している。

 その声が聞こえてきた。


「あれは『ブラジャー』って言うのよ。胸が小さい人が形を整える為に着ける下着よ。」


 なんと、この世界にもブラが存在していたのか!

 しかも存在理由が悲しい。

 寄せて上げるためにわざわざ着けてたのかな、この子は。


『今入ってきた情報によると、あれは水着ではなくブラジャーというアイテムらしい!

胸に悩みがあるとは、なんとも思春期の女の子らしいではないか!』


「……ああ! ……やめて!」


 観客に温かい目で見られ、タタミがうずくまる。

 なるほど、ある意味裸より恥ずかしい。


「タタミん大丈夫。そのブラ、パンツとおそろいのデザインでかわいいよ。」


「……フォローになってない。」


 だめだったか。

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