9-4 最適なサポート
『ターン終了! 私のシールド15,000、彼女のシールドは10,000だ!
その上、次のターンお互いにスペルが封じられている!
相手の場には[超弦理論の悪魔 リング Lv7]の幻影が残っているが~? まだ勝負はわからない!』
そう、勝負はまだわからない。
今はかろうじて[スケルトンマリオネット]がスキルで超弦理論の悪魔の姿を真似している。
これは有利なのか不利なのか。
スペルが使えない今、このカードを使いこなせるのか。
ここは、下着姿のタタミに力を振り絞ってもらうしか無い。
「タタミん、魔力は温存出来てるか?」
「……うん。でも恥ずかしくて……力が。」
「えっと、ほら、水着を着てるようなものだよ。周りの女性を見てみなよ。」
接客をしているクラブのお姉さんや、ステージに上っていたデュエリスト。
皆さん露出が高くイケイケ(?)な格好をしている。
この空気に飲まれてみるのも手だと思った。
「……うん……うん!」
よかった、ちょっと理解してくれたみたい。
うずくまっていた彼女が立ち上がり、吹っ切れたようにターンを進めた。
「……ウチのターン! ドロー!」
彼女は目を瞑り深呼吸して落ち着ける。
観客たちが彼女に注目している。
下着姿のせいではなく、[超弦理論の悪魔 リング Lv7]がどう変化するか気になるようだ。
「……魔力を全て……このカードにつぎ込む。手札の……最上級サモンカード……!」
『キター!! ついに最上級ユニットの登場た! いったい何が飛び出すのか!』
タタミが右手に一枚カードを持ち高く上げる。
魔力がそこまで多くない彼女は、こうして精神統一をしないと魔力が集まらないそうだ。
「[スケルトンマリオネット]のスキル発動……
[超弦理論の悪魔 リング Lv7]のスキルを借りて……最上級ユニットを……
《ブレイクサモン》!!」
パシィン!
目の前の透明テーブルに、最上級サモンカードを叩きつける。
叩きつけた場所は[超弦理論の悪魔 リング Lv7]扱いとなっている[スケルトンマリオネット]のカードの上。
超弦理論の悪魔の「Lvアップしたユニットで上書き召喚して良い」スキルを発動した。
それがこの《ブレイクサモン》という召喚方法だ。
「……[超弦理論の悪魔 リング Lv10]召喚!」
バサッ……
超弦理論の悪魔に黒い翼が生える。
翼を丸めて自らの身体を覆い尽くし、黒い竜巻に飲み込まれた。
会場全体に風が吹き、観客も身構える。
竜巻が消えると、髪が長い抜群のプロポーションの悪魔が立っていた。
[超弦理論の悪魔 リング Lv10]
攻撃力10,000 守備力7,000 スペル枠:魔属性3個
召喚が終わるとタタミが片膝をついている。
かなり魔力が消費され、立つ気力も奪われたのかもしれない。
「大丈夫か、タタミん!」
「……うん、大丈夫。」
『で……出たああ! 通常の召喚ではなく最上級ユニットへのレベルアップ!
美しいこの女性型悪魔、攻撃力はなんと10,000! そのオーラに思わず跪きそうになってしまう!』
ビシッ!!
超弦理論の悪魔がムチを振るう。
[パワーオーク ブラザー]に当たるとムチが巻き付いた。
悪魔がムチを引くと、体重の重そうなガチマッスルがタタミの近くまで飛んできた。
「……このターン、相手ユニット一体を味方にする。」
『んなんとぉ! レベルアップした時の効果で! [パワーオーク ブラザー]は寝返ってしまった!
あの妖美なお姉様に誘われたら、逆らうことが出来るわけないだろう!
たぶん私もそうする!』
俺にはちょっと理解できなかった。
「……[パワーオーク ブラザー]で[パワーオーク ブーメランパンツ]を攻撃。」
パワーオーク同士の対決。
筋肉と筋肉がぶつかり、クロスカウンターを決めてお互い沈んでいった。
攻撃力は両者とも3,000、相打ちだ。
「……[超弦理論の悪魔 リング Lv10]……攻撃。」
超弦理論の悪魔が黒いオーラをまとう。
悪魔が宙に浮き、ムチが太くなる。
ムチを全力で振り下ろすと、大蛇のようにうねりが伝わっていき、[パワーオーク ガチマッスル]に当たる。
ドゴォ! グシャッ!
電柱くらいある太さのムチがガチマッスルを、その後ろのシールドに叩きつけた。
『うおおお! ガチマッスルの攻撃力を差し引いた5,000ダメージを受けてしまった!
私のシールドが残り二枚、10,000ライフになってしまったああ!』
と言いつつ、対戦相手はタンクトップを華麗に脱ぎ去る。
腹筋がバキバキに割れている。
『おおおっと! 今シールドが壊れて手札に来たカード! 皆さん、奇跡をお見せしましょう!』
何だ?
シールドが壊れて手札になり、手元に飛んでくる。
対戦相手はそれをそのまま召喚した。
『一ターンに5,000ダメージを喰らいシールドが割れたとき!
自分の場にユニットがいないとき!
シールドカードが最上級サモンカードだったらスキル召喚出来るユニット!!』
そんなスキルを持つユニットがいるのか!
彼はカードを一枚頭上に掲げ、叫んだ。
『私も魔力を大量出力! 最上級ユニット!
[ヴヮスターーーーーーーー……ゴーーーーールデン! クァヴトゥォォォ!]』
ユニット名[バスター ゴールデンカブト]だ。
対戦相手のシールドに魔法陣が描かれる。
そこから、金色ボディのカブトムシモチーフ人型ユニットが出てきた。
身長は3メートルほどあり、光を当てていないのに輝き続けている。まぶしい。
[バスター ゴールデンカブト]
攻撃力9,000 守備力9,000
『このユニットが召喚されたとき、スキル発動!
私のシールドに攻撃してきたユニットを、永続的に『拘束』状態にする!』
「何だって! タタミん、これは想定してなかった、ごめん!」
「……うん、大丈夫……じゃないかも。」
タタミは身構える。
[バスター ゴールデンカブト]が頭を下げ、両腕をピンと伸ばす。
すると頭についているツノから金色の粒子が発生し、超弦理論の悪魔が拘束された。
彼女にガチマッスルを攻撃するよう指示したのは俺だ。
相手の攻撃力3,000のユニットを相打ちさせ、最後にガチマッスルを倒せばガラ空きになる。
……が、まさかこんな隠し玉を相手が出してくるとは思えなかった。
『さあ、私のターンドロー!
私の場には[バスター ゴールデンカブト]攻撃力9,000!
対する彼女の場には[オタマスライム]守備力1,000が一体、拘束された悪魔が一体だ!
私のシールドライフは10,000、相手も10,000!
このターンで決めきれるかぁ!?』
観客はかなりの盛り上がりを見せている。
実際、相手の手札はかなり潤沢で連続攻撃されたら終わってしまう。
しかしスキル召喚で軽減しているとは言え、相手は最上級ユニットを出したんだ。
魔力はかなり消耗しているはず。
「タタミん、守る手立てはあるか?」
「……無い……ことも無いけどその後が。」
「そう……か。」
考えろ。
彼女がここから勝ちに行ける方法を。
『手札から下級ユニット[パワーオーク ブーメランパンツ]召喚!』
またもやきわどいパンツのオークが召喚された。
『[パワーオーク ブーメランパンツ]の効果でまたまた! 手札のスペルを破壊!
これで彼女の手札は一枚になってしまったぁ!』
大丈夫だ、このターンをしのぎきれば……
『手札から! 中級ユニット[カゲロウプロテクト]をスキル召喚!
そして搾り出せ俺の魔力! [カゲロウプロテクト]をもう一体スキル召喚んん!』
「は!? 何だその魔力量は! さっき最上級を出したのに!」
不満が口に出てしまった。
最上級の後に中級ユニットを二体も出せる魔力。
それに対して、何故か近くにいた黒服が説明してくれる。
「お前、何も知らないでここに忍び込んだのか?
あのお方はこのクラブの『司会者』兼『オーナー』兼『裏デュエル界のトッププレーヤー』だ。
裏デュエルを極めたあの方に敵うわけがないだろう。」
まさか。
裏デュエルっていうのは知らないけど、ヤクザたちがやってるデュエルのことだろうか。
そのトッププレイヤーだったなんて。
だからこんなふざけたデッキでも使いこなせるってわけか。
『さあ、まずはブーメランパンツが[オタマスライム]へアタックするぞどうするー!?』
「……[オタマスライム]のスキル発動。……召喚されてから一度だけ、戦闘で破壊されない。」
[オタマスライム]にタックルするブーメランパンツ。
しかしスライム成分だけが飛び散り、中のオタマジャクシは守られた。
『うーん、厄介なスキルだがもう守る手は無い! 続いて一体目の[カゲロウプロテクト]が攻撃ィ!』
「……対抗、[オタマスライム]のスペル《逆落とし穴》。……相手ユニットを破壊する。」
スライム成分の無い[オタマスライム]がスペルを放つ。
攻撃しに行った[カゲロウプロテクト]は、先程と同じく天高くぶっ飛ばされてしまう。
『なななんと! 残された手札一枚がスペルカードだったぁ!
相手のスペル枠を先読みしてブーメランパンツを召喚したが、その先を行っていたぁ!』
いや、出来ればもう一度スペルを使って攻撃を止めたかった。
ここで手札を切らしたのは痛い。
『ならば! 二体目の[カゲロウプロテクト]が[オタマスライム]を撃破!
続いてダイレクトアタックを決めるのは[ヴヮスターーーーーーーー……』
[バスター ゴールデンカブト]がタタミのシールドに襲いかかる。
もう手札も守れるユニットも無い。
ゴシャバリィン!
「きゃぁぁ!」
衝撃で倒れるタタミ。
シールドは残り一枚、ライフポイントとしては1,000になってしまった。
『さあ! 脱衣タイムだ! 上と下、どっちを脱ぐ!?』
観客が彼女を見つめる。
もう逃げることは出来ない。
「タタミ!!」
「……うぅ……嫌だぁ……。」
『さあさあ嫌がってもこれは強制ルール! 勝手に衣服が飛んでしまうぞー!』
バサッ……
タタミの白いブラが飛んていった。
会場は盛り上がりを見せる。
タタミは胸を押さえてうずくまっている。
その顔は泣きそうだ。
「タタミん、ごめん。俺がしっかりサポート出来てなくて。」
相手の濃いキャラと会場の雰囲気に飲まれた。
っていうのは言い訳にはならないか。
今思えばもっと最適なプレイングが出来たポイントはいっぱいあった。
何がサポートしてやる、だ。
「……そんなことは無い……。」
「いや、そうだよ。そもそも俺が巻き込んだせいでこんな事に。」
このままデュエルを進めたら彼女の全裸が公衆の面前に晒されてしまう。
それは思春期の女の子にはどれだけ酷なことか。
デュエルが終わったからと言って帰れる保証もない。
ここは法に守られていない裏の世界。
いっそここで『白石』の魔力を開放して、異空間を形成して逃げようか。
「違う!!」
うっ!
耳に付けている《ブルートゥース》から大きな声が聞こえた。
あのタタミが大きな声を出した。
「……違うよりっくん。ウチはりっくんと会わなかったらこの事件を知らずに生きていた。
……それは悔しい。ウチが憧れた敏腕新聞記者なんて遠い存在になってた。
……でも今はりっくんのお陰で大スクープを前にしてる。
……ウチが目指す目標に大きく近づいてる気がする。」
憧れに向かって努力を惜しまない。
洞察力があって好奇心旺盛、向上心もある。
本当にこの子は、強い。
「……ねぇりっくん、ここから勝てる方法はある?」
「無い……こともない。ただ、かなり危険だ。」
「……大丈夫、教えて。」
タタミは俺の方を向いて頷いた。
俺は小声でこのあとの指示をした。
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