9-5 目の前の大勝負
『――という状況で、私の場にはユニット三体、彼女の場には一体!
しかもそのユニットは[バスター ゴールデンカブト]の効果により攻撃も防御も出来ない!
超弦理論の悪魔はLv10、これ以上のレベルアップは期待できないぞ!
残りの手札は一枚、彼女はに希望はあるのだろうか!?』
司会者兼オーナーが状況を説明してくれている。
確かに絶望的な状況だが、俺も彼女もまだ諦めてはいない。
「……ウチのターン、……お願い、来て、ドロー!!」
タタミは胸を隠しながら立ち上がり、ドローを宣言。
腰にあるデッキケースから手札が射出され、空いたほうの手で受け取る。
カードを見た彼女の目が一瞬大きくなる。
そしてカードを高く掲げる。
「……拘束されてる[超弦理論の悪魔 リング Lv10]のスペル枠使用。
……重スペルカード《リビングデッド》。」
『またもや復活ー!!
拘束されてもスキルやスペルは使用可能! 彼女はまだ諦めていなかった!
なんと攻撃力7,000の[超弦理論の悪魔 リング Lv7]が帰ってきたぁ!
しかしぃ? 私のユニットを攻撃してもゲームエンドにはならない!
まさかもう一枚スペルカードを持っているのかぁ!?』
よし、さすがカードゲーム学校の生徒。
ここぞという時に引きたいカード、リアニメイト(復活)系カードを引けた。
まだ運は尽きてない。
「……[超弦理論の悪魔 リング Lv10]のスキル発動。
このカードを『もう一度召喚』する。」
『おおー!? なんとユニットの隠された能力を発動か?
別に隠れてはいないが、めったに使うことがないおもしろ能力だ!
ユニットのことを研究し尽くしている!
しかし残念なことに、君はもう魔力を使い果たしているぞー?』
「……大丈夫。[超弦理論の悪魔 リング Lv7]をリリース……」
「やめなさい!!」
!?
対戦相手がヘッドセットマイクを外して叫んできた。
「君、《リリース》のルールを知っているようだが、それは危険だ。
まだ若いのに、その力に手を出すのは良くない。
自分の体が上級ユニット分の魔力に耐えれれると思っているのか?
よく考えなさい。」
会場がざわつく。
観客や黒服はこのルールを知らないみたいだが、さすが裏デュエル界のトッププレーヤー。
《リリース》を使うと命を落とす可能性がある事を知っているようだ。
この人、ステージ上だけかもしれないけど意外といい人だ。
それとも死人が出ると営業妨害になるからやめろって事なのか?
「ああ、その人の言うとおりだ。本当にやるのか?」
提案をしたのは俺だが、やはり心配になる。
「……うん、もう決めた。」
前にリリースについて説明したことがある。
実践してみたいと言っていたが、まさかぶっつけ本番とは。
俺もタタミに危ないことはしてほしくない。
ただ彼女の取材とデュエルに対する情熱を見せられ、提案するしかなかった。
それに何故か彼女ならやってのけられる気がした。
タタミは珍しく、対戦相手に向かって叫ぶ。
「……勝手にデュエルさせてそれは無いでしょ! ウチは自分のやりたいように戦う!
勝てる方法があるなら、目の前の大勝負から逃げたくない!
ウチは自分の場の[超弦理論の悪魔 リング Lv7]を!
《リリース》
する!!」
[超弦理論の悪魔 リング Lv7]が大きな光の玉となる。
光の玉はタタミの周りをぐるぐる回った。
「この魔力を……ウチの体に!」
華奢な彼女の体に、大きな光の玉が入っていく。
「!! んんっ……」
「タタミ!」
タタミがうつ伏せで倒れた。
ヤクザが言っていたように全身から血が吹き出たりはしていない。
しかし気を失っているようだ。
やはり体の限界か。危険な状態かもしれない。
俺が「白石」の魔力を開放してデュエル空間を上書きしよう。
「赤石」を盗むときの手法で逃げて、そのまま博士のところへ。
あの魔法使いならなんとかしてくれるかもしれない。
「タタミ、待ってろ、今……」
ブォワァァァ!
なんだ!?
タタミの回りを黒い羽が舞う。
すごい……魔力?みたいなのがあふれるよう感じる。
これは[超弦理論の悪魔 リング Lv10]の羽?
気がつくとフィールド上で拘束されていたはずの超弦理論の悪魔がいない。
「こ、これは……うおお!」
対戦相手である支配人も驚いている。
デュエル空間に黒い羽の嵐が吹き荒れる。
彼女は無事だったのか?
[超弦理論の悪魔 リング Lv10]はどこに?
「あっはっはっは! 何これ!? 体が軽い!!」
舞う黒い羽から身を守りながら、声のする方を見た。
タタミが立ち上がってる。
両手を広げ、上を向いている。
胸を隠してはいないが黒い羽が舞っていてうまく隠れている。
「おい! タタミ、大丈夫だったのか!?」
「りっくーん、全然大丈夫だよー。ふふふ。」
何だその喋り方は。
あれは本当にタタミか?
『ええー……っとこれは、《リリース》が成功したということなのだろうか?
説明しよう、《リリース》とは魔力をユニットから調達する禁術のことである。
会場の皆様! 危険なので真似しないようにしていただきたい!
しかし彼女はその禁術を成功させた!
その得た魔力で、超弦理論の悪魔のスキルが発動してしまったようだ!!』
「ええもちろん! ユニットに再度召喚分の魔力を注ぐことでレベルアップ!
その名も[超弦理論の悪魔 リング LvMAX]よ!!」
いつのまにか上空にいた超弦理論の悪魔がタタミの前に降りてくる。
黒い翼は大きくなり、黒いドレスはかなりきわどくなっている。
手には赤いムチを持っていて、女王様のようだ。
翼を羽ばたかせると、舞っている黒い羽は会場全体を舞った。
「[超弦理論の悪魔 リング LvMAX]のスキル発動!
まずは代償として自分のシールドを一枚破壊!」
バリィン!
タタミの最後のシールドが割れた。
最後の砦、パンツが脱がされる事になるが、むしろ自分から華麗に脱いだ。
これでデッキケースを止めるベルト以外、何も着ていない状態になった。
しかし黒い羽が舞っていて大事な部分が全然見えない。
彼女は隠す素振りも見せず大股開きで、ユニットに指示を出す。
「一つ目の効果! 攻撃力の低いユニット分相手にダメージを与える!」
『ぐうう! 私のライフが7,000に!』
「二つ目! 相手のユニットを『拘束』状態にする!」
『[カゲロウプロテクト]ががっちり縛られてしまったぁ!』
「三つ目! 相手のユニットを味方に!」
『私の[バスター ゴールデンカブト]に離反されるぅ!』
「さあ、よくも今まで痛めつけてくれたわねぇ。」
ゴゴゴゴゴ……
タタミの場には背の高い女王様悪魔と、その側近のように腕を組んでいる金のカブト。
相手の場には亀甲縛りにされたトンボ男と、ブーメランパンツのブタが。
魔力をつぎ込んでシールドまで支払った対価として、今までの超弦理論の悪魔の効果が使えるようだ。
『おおっとぉ……これはピンチだ。私は為す術もなく倒されてしまうのか?』
「ピンチ? 何を言ってるの。これはお仕置きよ。」
超弦理論の悪魔がパシッと地面を叩くと、金のカブトが相手に突撃していった。
[パワーオーク ブーメランパンツ]は蹴散らされ、相手シールドも一枚破壊した。
『これで私のライフは残り1,000になってしまった! 私はパンツ姿になってしまううう!』
と言いつつ、すでにパンツ一丁だ。
ユニットと同じような真っ赤なブーメランパンツを履いている。
「そんな汚い布を見せるなんて。よっぽどキツイお仕置きされたいのかしら?」
『彼女の性格が変わったような気がするが、これは気のせいだろうかー!』
「うるさいわね。
……そうだ、超弦理論の悪魔は攻撃力が10,000。だから十回ムチを入れてあげる。」
そんな攻撃方法が出来るのか?
と思ったが、今の彼女なら何だって出来る気がした。
「まずは一回目!」
プォン!パリィン!!
超弦理論の悪魔が、相手の傷だらけの最後のシールドにムチを振るった。
ムチはその先端が音速を超えると聞いたことがある。
音速を超えた心地いい衝撃音(ソニックブーム)がして、シールドが壊れた。
「二回目!」
プォン!
『はううう!!』
相手の股間にクリーンヒット。
いや、実際は幻影だが痛そうに見えた。
思わず俺も股間を押さえる。
「何脱いでるの? 変態。死ね。」
『これはシールドがなくなったからであううっ』
プォン! プォン!
対戦相手は尻もちをつき、仰向けの赤ちゃんのような態勢になった。
そこにさらに追い打ちをかけるように、股間にムチを振るう悪魔。
なぜかデュエルがまだ終わらない。
『はぅ! はぁ!』
「ほらっほらぁ! 顔が喜んでるよ気持ち悪い!」
痛い痛い、幻影だとわかってるけど見てられない。
ぐにゅっ
超弦理論の悪魔は対戦相手の方に行き、黒いハイヒールで直接股間を踏みつけた。
タタミも少し近づき、相手の股間が見える位置まで行っていた。
「何ムチで興奮してるの? これは何?」
『うう……』
「……そのまま潰されて死ね。」
ブチッ!!
YOU WIN
え!?
いやいや、幻影だから潰れるわけ無いって。
そんな効果音が聞こえてきた気がしただけ。
でも何でだろう、俺は冷や汗をかいている。
謎の勝利音声のあと、空間が元のナイトクラブに戻っていく。
◆◆◆
「さあ、次にお仕置きされたいのは誰!?」
ステージ上で、全裸にベルト姿で叫ぶタタミ。
盛り上がる会場。
もう黒い羽は無く、隠すものがない。
一歳年下とは思えないツルんとした体型で、お人形みたいな……じゃない!
「やべぇトランスしっぱなした! 失礼しましたーー!!」
タタミを抱きかかえ、散乱した衣服を拾いながら裏方へ逃げた。
支配人のほうに注意が行ってるので黒服が追ってこない。
◆◆◆
「タタミ、大丈夫かタタミ!」
「うーん……あれ、りっくん。ここは? わ、裸!」
ステージの裏、物置のようなところだ。
裏口のドアを見つけたけど鍵がかかってて逃げれない。
タタミに開けてもらうしか無かった。
「よかった。気を失ってたから。」
「……あれ、デュエルは?」
「覚えてないの? それはそれでよかったかも。」
「……思い出した。」
覚えてるのかよ。
あのテンションMAX状態の記憶があるのか。
どう見ても別人だったけど。
忘れていたほうが良かったかもしれない。
「……見た?」
「え、ああ、まあ。」
「……えぇ……じゃあ今度りっくんのも……。」
「はい!?」
「……でも、勝ててよかった……。」
「いやー! 見事だった!!」
びっくりして身構える。
タタミをかばうように前に出た。
タタミも服を着つつ警戒する。
そこにいたのは、司会者兼支配人兼裏デュエル界の重鎮だった。
さっきまで気を失ってたのに。
「そんな警戒しなくていいぞ。君たちの行動がいい宣伝効果になりそうだからお礼を言いに来た。
ありがとう!」
「お礼って、このあと俺たちをどうする気だ?」
「そうだなぁ、おいショウちゃんアレを。」
ショウちゃんと言われた黒服が封筒を持ってきた。
「この中に仕入先の情報が入ってる。君たちが欲しがった情報だ。
戦利品としてこれを渡そう。」
「え!?」
まさか。
本当にこの人はいい人なのか?
「それを警察に持っていったところで何も得られるものは無い。
君たちにどうこうできる問題でもないからな。
いいデュエルをしたことに免じて、今回の不法侵入も許そう。」
「本当か?」
「但し。」
「……ただし?」
「うちの営業妨害したら、ただじゃすまねーぞ」
ビクッ!
さっきまでの筋肉実況おじさんではなく、カタギではない顔になった。
近づいてはいけないオーラみたいなものが伝わってくる。
「ま、裏の業界に興味があったらまた来てくれ!
俺達の目を盗んでデュエル中、密話出来るその度胸、嫌いじゃないぞ!」
バレてたのか。
支配人は笑いながらステージに戻り、また司会者になった。
黒服たちもついていった。
誰もいなくなったステージ裏。
タタミに急いで服を着させ、裏口のドアに向かう。
いつのまにかドアの鍵が空いていた。
俺達はすぐに逃げ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます