第十一話 VSお父様

11-1 オリティアを追え


 時刻は昼過ぎ。

 平日の今日、街は平和に動いている。

 ワープポータルである駅は沢山の人で溢れ、駅前には露天商もあり賑わっている。

 俺の世界のようなビジネススーツを着た人もいれば、大剣を持つ武装した人もいる。

 現実とファンタジーが入り交じった世界。


 そんな世界の片隅で、俺らの中では大きな事件が発生した。

 オリティアは一人で父親の会社へ行ってしまった。

 今日、たまたま父親が帰国し、近くの街にある支社に在社しているらしい。

 いくら父親だと言っても黒い噂を知ってしまった以上、ただで帰ってこれる保証はない。

 ファンタジーが入り交じったこの世界、人を一人消す方法なんてたくさんありそうだ。

 俺らは最悪の事態を回避するため、急いでいた。


「ここから見えるあの建物がBSU支社です。」


「これはまた大きいな。」


 先日侵入したのはアイテム流通業者の本社ビル。

 それと変わらない大きさの建物。

 相変わらず流線形のロケットのような形をしていて、奇抜な現代アートみたいだ。

 これで支社か。


「どうやって侵入するんだ?」


 人通りも多い今の時間。

 昨日考えた作戦では、夕暮れの帰宅ラッシュ時に突撃する予定だった。

 そこで俺達は新しく作戦を練り直していた。

 時間が無いので、ちょっと強引な作戦だが。



◆◆◆



「こんにちは、クラウ・ストンマインです。

今日は赤国エボカー学院のイベント関連で話し合いがあるので、担当者の方を呼んでいただけますか?」


「はい、少々お待ちください。」


 普通に正面から入る。

 もちろんイベントなんて話は持ち上がっていない。

 学院の使いという立ち位置をでっち上げ、内部に入り込む作戦だ。

 そのためにわざわざ俺、タタミ、クラウは制服に着替えてきた。


「申し訳ございません、担当者に確認が取れず、詳細を……あれ?」


 受付のお姉さんが周りを見渡し、首をかしげる。

 目を離した隙に俺らは社内へ侵入。

 社内へ入るには駅の改札口のような機械に社員証を通すが、受付の前は素通り出来る。

 あとはお姉さんが気にしない人だといいが……無理か。

 騒ぎが大きくなる前に事を済ます。


「……誰もついてきてないみたい……。」


 階段の上で周りを確認するタタミ。

 俺らは人がいない非常階段へ逃げ、地下へ続く階段の踊場に待機した。


「では改めて確認しますね。今ここにいるのでエレベーターは――」


 クラウが地図を広げる。

 また知り合いからここの地図を入手していた。


 オリティアの位置はなんとなく分かっていた。

 博士の力作魔法アイテム「スマホ」がバージョンアップし、GPS機能がついた。

 それでオリティアが持っているスマホの位置が特定できる。

 まあ実際はGPSではなく索敵魔法だと思うが。

 許可なしに階数を含めた現在地が分かる、絶対に浮気のできない超機能。


「……また社長室?……鍵はあるの?」


「いいえ、今回は強行です。最悪破壊します。」


「もうテロリストじゃんそれ。」


「オリちゃんの命がかかってるんですから。仕方ありません。」


 そんな簡単に破壊できるんだろうか。

 しかしここまで来たらしょうがない、作戦実行するのみ。

 俺は鞄から新アイテムを取り出した。


 パンパカパンパンパーラーラーー!!

 《オプティカル・カモフラッキュ》~!

 博士の発明品。

 透明化魔法が施されている、ただのフード付きマント。

 ……に、電気ネズミの耳を取り付け可愛さを追加した作品。

 俺のスマホに入ってるゲームキャラが可愛い、ということでデザインに取り入れられた。


「身長順に並んだら、こうですよね。」


「あ、これかなり密着しないと足元見えるね。」


 透明マントは一着しか無い。

 二着あったが一着はオリティアが持っていってしまった。

 もう二つ作る予定だったが、昨日の今日で間に合わなかったようだ。

 その一着を三人で纏う。


「……うっ、クラウちゃん耳元に息はやめて……」


「あ、ごめんねタタミちゃん。もっと抱きついていいですよリクシンくん。」


「え、遠慮なく行くよ二人とも。」


 タタミ、クラウ、俺の順で密着する。

 なんだこの幸せ空間は。

 二人ともやわらかいし、いい匂い。

 ……おっと、オリティアが危ないのに何考えてるんだ、集中。


 準備ができたら耳のスイッチで、薄黄色い布から透明化。

 帽子部分は俺が深くかぶり、クラウが隙間から前を見る。

 三人の連携が試される。


「いきなり階段からスタートです、大丈夫ですか?」


「……大丈夫だけどりっくん……乳さわんないで。」


「うっそ! ごめん、肩、肩つかむね!」


「ああ、それで私の腰に異物感が。」


「ちょっ! クラウごめん、生理現象が!」


「……後ろで変なことしないでね……変態。」


「しねぇよ!」


 大丈夫かこのパーティー。



◆◆◆



 人が少ないルートを通り、社長室直通エレベーターの前まで辿り着いた。

 何度も転びそうになったがバレずに済んだようだ。

 エレベーター付近から人がいなくなるまで、廊下の角でじっと待つ俺ら。

 ついにその時がきた。


「ふう、ここまで来れば安心です。」


 直通エレベーターに乗り込み、壁にもたれかかる三人。

 普段使わない筋肉を使って疲れた。


「真ん中に挟まれてすごく暑いです。リクシンくん、汗臭くてごめんなさい。」


 そう言ってネクタイを外し、シャツのボタンを外して胸元を掴み、風を送るクラウ。

 俺の位置から谷間が超見える。

 やっと落ち着いてきたのにまた血液が集中してしまいそう。


「では最後の試練です。エレベーターから出るとき人がいないことを祈りましょう。」


 最上階の社長室は多分二十階くらい。

 階数が書いてない。

 高さを示すバーが上に登っていき、ついに最上階まで辿り着いた。

 エレベーターのドアが開く。


「……!!」


 心臓が止まるかと思った。

 そこには黒スーツに身を包んだ男性数人が、エレベーターの入口を取り囲んでいた。

 この状況、数日前にも見たな。

 黒服の一人が、何もいないはずのエレベーターに向かい問いかける。


「君たちの行動は筒抜けだ! おとなしく出てきなさい!」


 マジか。

 やっぱりオリティアが先に来てたし、そう簡単には行かなかったか。


「……どうしよう。」


「行くしか無いようですね。」


 俺らはエレベーターを出る。

 黒服が近づき、手探りで透明マントを探す。

 ごつんと俺の頭に手が当たった。

 そこからマントを捕まれ、俺たちの化けの皮が剥がされた。


「君たちのことは拘束させてもらう。いいね。」


 俺らは無言で両腕を上げる。

 黒服達は人差し指と中指を俺らの方に向けて、銃を構えている様なポーズをしている。

 たぶん弾丸みたいな魔法が撃てるんだろう。

 流石に正面から戦うには、クラウ一人じゃ無理だろう。


「わかりました。素直に従います――――デッキオン。」


 クラウがそう言った瞬間、腰の赤いデッキケースが光り始めた。

 混乱する黒服をよそに、周りの空間が変わっていく。


「何をした! 撃て、撃て!!」


 黒服達が指先から魔法を放ち、俺達の足を撃ち抜く。

 しかし撃たれた足は穴が空くだけで、両腕を上げた俺たち三人はピクリとも動かない。


「クソ、デコイか!」


 一瞬森の中にいるような空間になったが、すぐにエレベーターホールに戻った。

 それと同時に俺らの偽物も消えていった。


「うまくいったな、スペルカード《コピートークン・カカシ》。」


「ええ。」


 廊下を走り、社長室へ向かう俺ら。

 オリティアから貰った高級な赤いデッキケースは、事前に博士に改造してもらっていた。

 赤石を盗む時に使おうと思っていた、特殊トレーニングモード。

 幻影が物理干渉できるこの空間を、いざという時クラウの魔力で発動してもらう作戦だった。


「でも思った通り一回しか使えないですね、これ。」


 黒の魔術団デッキケースとメーカーが同じだからか、改造できただけでも驚きだ。

 しかし一回使うと壊れ、ただの小物入れになってしまった。


 ちなみに俺は黒いデッキケースは持っていない。

 オリティアが持ち出してしまった。

 それが悪い方向へ行ってしまう場合も考え、俺達は先を急いでいる。

 廊下を曲がり、社長室まで辿り着いた。


「あ、開きました。」


「……鍵かかってないの……?」


 社長室は普通に開いた。

 中はかなり大きめの会議室のような広さ。

 窓にカーテンが掛けられ、薄暗い。

 社長の机だと思われるところの前に、光の玉が二つ浮いている。


「あれか!?」


「恐らくそうです、オリちゃんです。観戦モードで入りましょう。」


 俺達は光の玉に近づき、タタミが持っているデッキケースで観戦モードを起動した。

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