2-4 異世界学園モノ


「それじゃあ私が考えた作戦を発表しまぁす。」


 朝食の片付けをしているオルモアに食器を渡していると、ヴェアロックが高らかに宣言した。

 俺は食卓テーブルの椅子に座っている彼女の、斜め前の椅子に腰掛けた。


「え、なんすか? いい方法があるんですか?」


 RPGでいうと、ここからお使いクエストみたいなのが始まるんだろうか。

 モンスターを倒すような危険な行動はしたくない。

 しかし憧れてたファンタジー世界なので期待してしまう。


「そうなの。これはとっっっても難しいお仕事だから頑張ってねぇ。

その作戦はぁ……」


 ……ごくり。


「『赤石』を盗んできます。」


 ……はぁ?

 また知らないアイテム名を出された。


「はい? せきせき? 盗む?」


「そうよぉ。『白石』が使えないんだから盗ってくるしかないじゃないの。」


「まってまって、『赤石』って何!? 盗むってどこから!?」


「どこって……国ぃ?」


「いやいやいやいや!!」


 勇者俺の第一クエスト!


【国から魔法石を盗む】


 ……いきなり主人公らしからぬクエスト。

 やっぱ俺は物語の主人公ではないのか?


 ヴェアロックの話はこうだ。


 この世界には「マジドラシル」の力を分けた4つの魔法石が存在する。

 『赤石』『青石』『緑石』『紫石』。

 それぞれ、炎、水、大地、風の属性を司る。

 各魔法石は現在、それぞれの国によって厳重に保管されている。

 ちなみに勇者様はこの魔法石を集めて魔王を倒したらしい。

 俺もそれがしたかった。


 で、『白石』っていうのはこの魔法石を真似して作った、ヴェアロック博士のオリジナルらしい。

 つまり元となった魔法石『赤石』を使えば、異世界再送することが出来るかもしれないとのこと。

 ただ国宝級の魔法石を盗むなんて簡単に出来ることではないはず。

 いったいどうやって……


「近々、『赤石』をお披露目するセレモニーがあるの。

それに出てサクゥっと盗んできちゃってよぉ。」


「サクっと盗めるような警備体制じゃあないでしょう!

ってかなんのセレモニーなんですか?」


「【VLD】ってスポーツのぉ、学生大会のオープニングセレモニーがあって。」


「なんすか? そのぶいえるでぃーって。」


 それを聞くと、ヴェアロックは腰の後ろに手を回した。

 そして小さい黒い箱を取り出し、見せてきた。

 タバコの箱より二回りくらい大きい、直方体。

 普通の人なら、何かの小物入れかと思うだろう。

 ……しかし、ある趣味を持っている人なら一発でわかる。


「え!? ……それって!」


 俺が驚きの声を出すと、彼女は黒いケースでテーブルをコンコンと鳴らした。

 すると次の瞬間、自分のいるの空間がブワーーーっと別のものに変わっていった。

 今座っている椅子と机。

 それらと一緒に俺らは……いつのまにか夜の湖の上にいる。

 湖とわかったのは、周りに森が見えるから。

 夜だとわかったのは、満点の星空が見えるから。


「うわあなんだ!?」


 とっさにテーブルにしがみつく。

 湖の水面に浮いてるので、落ちそうで怖かった。


「大丈夫よぉ。ただの幻影。

このスポーツはねぇ、『魔界』の幻影を召喚して戦う、召喚術士の決闘なのぉ。」



ポン!



 目の前に何かが現れ、俺はのけぞり危うく湖に落ちかけた。

 サッカーボールサイズの巨大なグミ。

 オレンジ色でブニブニしてておいしそう(?)

 わかった。

 スライムだ。


「お、正解~。よく知ってるわねぇ。」


「あと、その手に持ってるカード。もしかして召喚札とかですか?」


「そうだよぉ。昔の召喚札と違って、今の札は再利用可能なカードタイプになってるのぉ。」


 やっぱり。

 遊○王・M○G・ヴァン○ード・デュ○マ……

 数々のトレーディングカードゲーム(TCG)を愛してきた俺はすぐ分かった。

 出してきた黒いケースがカードを入れるケースだと言うことを。

 つまりこの世界で流行っている【VLD】ってのは、俺の大好きな「召喚カードバトル」の事だった。


 このスポーツ……カードゲームができたのは、魔王討伐より50年ほど後。

 魔界が現世より切り離され、平和な世界になり召喚術師という職業は廃れていった。


 そんな中、ある幻影術師が

 「モンスターエンカウントの残存魔力を使い、魔界の幻影を召喚できる」

 ことを発見したそうだ。


 モンスターエンカウントってのは、RPGのアレ。

 ゲーム内でフィールドを歩いてたら、いきなりモンスターが現れる。

 でも現れた風景は、歩いてたフィールドとちょっと違う。

 それはモンスターが現世と魔界を混ぜた「自分のフィールド」に誘い込んでるためらしい。

 その「エンカウント時の世界のゆらぎ」を自ら起こし、幻影バトルに利用したとのこと。

 ……ってかRPGのエンカウントってそういう仕組みだったのか。


 このカードバトルスポーツの開発には、各国有名な召喚術師、魔術師、幻影術師。

 さらに勇者と共に冒険した賢者と魔法使い(私ね!と言ってた)が参加。

 ルール制定やアイテムを作成し、老若男女誰でも楽しめるように工夫された。

 今となっては世界ナンバーワンの大人気スポーツだ。

 この国でも【VLD】専門学校が複数有るらしく、そのうち一番大きな学校が近くの街にあるらしい。


「来月からちょうど一学期だから、あなたにはそこに通ってもらいます。」


「……まじで?」


「まじまじよぉ。」


 そうきたかー。

 異世界冒険モノかと思ったら、異世界学園モノだったか。

 こうして俺はこの国最大のVLD専門学校、


 「赤国エボカー学院」


 へ編入することになった。

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