6-3 強制デュエル


「待って!! 許可なんてしてません! どういうこと!?」


「クラウ! おい……」


 クラウに触ろうとしたら――――


 景色が完全に変わった。

 デュエル空間になり、それぞれの配置も直された。

 対戦者はお互い15メートルくらい離れたところ。

 俺とヤクザの取り巻きは、それぞれの対戦者から数メートル斜め後ろ。 


「おいクラウ! クラウ大丈夫か!!」


「どうして……許可もしていないのに……」


「おーいどうしたー。デュエリストは売られた決闘は誇りをかけて戦い抜くんだろー?」


 がはははは、っとヤクザたちが笑う。

 まさかとは思った。

 こんな形で噂話に出会うとは。

 これが「暴力団関係で流れている、強制的にデュエルさせるアイテム」なのか?。


「私はこんなデュエル、認めません!」



ブーーー!



 謎の電子的なエラー音と、クラウの目の前に謎の文字が現れた。

 たぶん「投了する?」みたいなのが書かれてる。


「おーっと、投了するならしてもいいけどよ、お前の体の自由は俺のものだぜ!」


 周りの取り巻きが、さすがアニキ!とか言ってる。

 きっとそうだ。

 あの黒いデッキケース。

 あれを手に入れたから試しに使ってみるか、ってことに違いない。


「そんな……」


「大丈夫だ! 大丈夫だ、クラウ。」


「リクシンさん……!」


「勝てばいいんだよ。これは普通の賭けデュエル、条件は向こうも同じだ。」


「でも……」


「さっきデュエルスペースで練習したじゃん! あれを思い出して!」


「わ……わかりました!!」


 デュエルが始まると途中で降りることは出来ない『誓約』だ。

 この時、何故か警察を呼んだほうがいいかもしれない、という判断は思いつかなかった。

 デュエル空間は夕方の荒野。

 望まれない相手とのデュエルがスタートしてしまった。


「私のターン、ドロー!」


 先攻はクラウ。

 モコモコの羊、土属性下級ユニット[メーンシープ]を守備態勢で召喚した。

 花のユニットって言ってなかった? と思ったがよく見るとあの羊、手足が太い茎だ。


[メーンシープ]

攻撃力0 守備力1,000


「俺のターンだ……下級ユニット[マグイモリ]召喚。守備態勢だ。」


[マグイモリ]

攻撃力0 守備力2,000 スペル枠:火属性1個


 ヤクザのユニットは、体がマグマで出来ているように赤いイモリ。

 火属性か。

 [マグウーパー]を使ってたオリティアのデッキに近いのか?


 次のクラウのターン。

 下級ユニット[フェアリップ]守備で召喚。

 チューリップの妖精のようだが、守備が3,000ある。これで守りを固めるようだ。


[フェアリップ]

攻撃力0 守備力3,000 スペル枠:土属性1個


「俺のターン、ドロー。下級ユニット[ヴァルカン・クロコダイル]召喚。

[メーンシープ]にアタックだ。攻撃力3,000!」


[ヴァルカン・クロコダイル]

攻撃力3,000 守備力1,000 スペル枠:火属性1個


 5メートルくらいの黒くて大きいワニ。関節が赤黒く光っている。

 大きなアゴを開き、溶岩の塊のようなものを打ち出した。

 モコモコしたモンスターは跡形もなく消し飛んだ……と思ったら。


「[メーンシープ]のスキル発動です! 破壊されたとき[コットントークン]二体を召喚します!」



ボトッボトッ



 意外と重そうな、顔の付いた白い綿の塊が現れた。


 カードゲーム用語『トークン』。

 本来は「代用貨幣」の英語らしい。

 カードを使わないユニットのことを指し、「カードが無くても存在している物」として扱う。

 このカードを消費しない仮ユニットで、彼女はさらに守りを固めることが出来る。


[コットントークン]

攻撃力0 守備力1,000


「チィッ、めんどくせぇ。だが[ヴァルカン・クロコダイル]のスキル!

『このユニットが相手を戦闘破壊するとお前に1,000ダメージ』だ!」



ビシッ!



 クラウのシールドが一瞬可視化し、ヒビが入った。


「私のターンドロー! [フェアリップ]がスペルカードを発動します、《グロウトークン》!

[コットントークン]が姿を変えます! 中級ユニット[向日葵の闘猫]召喚!」


 トークンを成長させるスペルのようだ。

 トークンの代わりにデッキから召喚されたのは、猫ってかトラ、ってかデカいライオン。

 顔にヒマワリの花びらがついてるため、ライオンに見える。


[向日葵の闘猫]

攻撃力3,000 守備力2,000 スペル枠:土属性1個


 ライオンは小型のイモリに飛びかかった。


「[マグイモリ]へ攻撃! 攻撃力3,000で破壊します!」


「破壊されたとき! スキル発動だ。オメーのシールドを1,000削ってやるよ!」



ビシッ!



 おっと、また彼女のシールドが削られた。

 何だろうこのチクチクと【バーン効果】で削ってくるのは。


「俺のターンだ! 中級ユニット[ヴァルカン・ドラグーン]召喚!」


[ヴァルカン・ドラグーン]

攻撃力5,000 守備力1,000 スペル枠:火属性1個


 隣りにいる黒いワニと同じような、黒い体の小型竜。

 その上に黒い甲冑を着たワニ人間?リザードマン?が乗ってる。

 お前乗ってるの同族じゃねえのかよ。


「こいつは攻撃する時、攻撃力が1,000アップする。

更に相手を破壊すると追加で1,000ダメージだぁ!」


 またダメージ。

 そうか、こいつのデッキは【ビートバーン】だな。

 【ビートダウン(攻撃型)デッキ】と【バーン(直接ダメージ)デッキ】の複合だ。

 守備態勢で守りを固めても、破壊されて追加の1,000ダメージが痛い。

 まったく火属性っぽいデッキだなオイ。


「ヴァルカン・ドラ……いや、[ヴァルカン・クロコダイル]で[コットントークン]にアタック!」


 ワニの口から熱く燃えたぎる溶岩が吐き出された。

 炎に弱そうな綿の塊は、着弾する前から燃えて無くなった。


 このヤクザ。

 この世界の人間にしてはデキるぞ。

 いや、この世界のデュエリストをディスってる訳じゃないけど。

 [向日葵の闘猫]がスキル『トークンを犠牲にして破壊を無効』を持ってることに気がついている。

 先にトークンを攻撃したほうが、ワニの効果で1,000ダメージ与える事が出来るからだ。

 このデュエル、簡単には行かなそう。


「[ヴァルカン・ドラグーン]! [向日葵の闘猫]をぶっ潰せ!!」



グエエエエエエ!!



 黒い小型竜が雄叫びをあげ飛び上がり、乗っている戦士が真っ赤に燃える槍をぶん投げた。

 槍はライオンに当たらず地面に刺さったが大爆発。

 煙が晴れるとそこにライオンはいなかった。


「ううっ……! 私のシールドに差し引き3,000ダメージと、追加1,000ダメージ……」


 地味に効いてくる追加ダメージ。

 今までのを合計すると、彼女の残りシールドライフは18,000だ。


 次の彼女のターン。

 中級ユニット[ボトン]を守備態勢で召喚。

 牡丹?みたいな花の中心に、太った豚が偉そうに座ってる。

 [フェアリップ]と[ボトン]、合計スペル枠は三枠

 守備力は3,000と4,000で、守りはしっかり出来ているように感じる。


[ボトン]

攻撃力0 守備力4,000 スペル枠:土属性2個


 次はヤクザのターン。


「下級ユニット[ヴァルカン・エレメント]守備態勢で召喚。

おいおい、守ってばかりじゃ勝てないぞ~?」


[ヴァルカン・エレメント]

攻撃力0 守備力1,000 スペル枠:火属性5個


 確かに。

 相手の場には攻撃力3,000のワニ、スペル枠一つ。

 守備力12,000、ものすごい勢いで燃えてる黒い妖精、スペル枠を五つも持つ。

 そしてアタックする時、攻撃力6,000になるドラグーン、スペル枠一つ。

 せめてドラグーンを倒さないと、ジリ貧になる。

 何か手はあるのか……?

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