1-3 カードゲームはスポーツ


「……ではデュエルを進めます。下級ユニット[マグマウーパー]を守備態勢で召喚。」


 体が赤くグツグツ煮えたぎっている、巨大ウーパールーパーみたいなやつが現れた。

 攻撃力は皆無なようで守りの姿勢に入ってる。

 ユニットに守備態勢を取らせていれば、攻撃されてもシールドにダメージが入らない。


[マグマウーパー]

攻撃力0 守備力2,000


「そして[ドラゴン・キッド]で[スケルトン戦士]に攻撃します。」


「受けて立つ!」


 さっきと同じように[ドラゴン・キッド]の口に炎が集まる。

 それが吐き出される前に[スケルトン戦士]が飛びかかる。

 しかしギリギリまで近づいたところで炎の玉は発射され、爆発した。

 お互い攻撃力は2,000。相打ちで消えていく。


「ここで[ドラゴン・キッド]が戦闘で破壊された時の"スキル"を発動します。

デッキのカードを消費して[ドラゴン・ナイト]を呼んできます。」


「あ、しまった! "リクルーター"だったか!!」


 カードゲーム用語「リクルーター」。

 手札消費せず、デッキ内から仲間を呼んでくる特殊能力持ちユニットの事を言う。

 一ターンに一回と決まっている『召喚』枠にとらわれない『スキル召喚』方法で呼ぶ事ができる。


 このようにユニットには固有のスキルを持つものもいる。

 だいたいのカードゲームと同じく、それを駆使してうまく立ち回ることが重要だ。


[ドラゴン・ナイト]

攻撃力3,000 守備力1,000


「ぐぬぬ……相手ユニットの効果を確認しないとはなんたるプレミス!(プレイングミス)」


「では、このまま[ドラゴン・ナイト]もアタックします。攻撃力3,000。」


「ライフで受ける! ぐおおお!!」



パキィィィン!!



 俺自身に痛みは無いが、何となく叫んでしまう。

 5,000ライフポイントを持った一枚目のシールドが破壊された。

 破壊されたシールドカードは盾の役割を終え、手札として戻ってくる。

 さらに次のシールドも傷がつき、残り4枚となった合計ライフは19,000。


「ターン終了です。」


「ここで俺もユニットのスキルを発動! [スケルトン戦士]のスキル!

戦闘で負けたとき、ターン終了のタイミングで復活する事が出来る!」


 相手が自分の番の終わりを告げると、地面からスケルトンが這い出てきた。


 次は俺のターン。

 ドローも含めると手札8枚になるが、自軍には1体のホネしかいねぇ。

 ここから巻き返せるのか?


「……悩んでもダメだ! 今出来ることをする!」

手札の中級サモンカードを使い、中級ユニット[髑髏の魔術師]守備態勢で召喚!

魔術師の『魔属性スペル枠』一つを使い、《スペルカード》を発動する!!」


 デッキには「サモンカード」の他に「スペルカード」が入っている。

 スペルカードには攻撃アップ効果や召喚補助効果の「呪文」が刻まれている。

 プレイヤー自身は撃てず、『スペルを撃てる』ユニットに肩代わりして撃ってもらうことになる。


[髑髏の魔術師]

攻撃力0 守備力4,000 スペル枠:魔属性3個


 茶色いマントをつけ、首から宝石みたいなのをジャラジャラつけた[髑髏の魔術師]。

 彼は攻撃力は無いが、『魔属性スペルカードを一ターンに三回まで』撃てる。

 彼の細長い腕が上がり、持っている杖が怪しく光る。


「スペルカード《髑髏の饗宴》! このスペルはデッキを消費してスケルトン族を喚んでくる効果!

[スケルトン重戦士]を召喚!!」


[スケルトン重戦士]

攻撃力3,000 守備力1,000 スペル枠:なし


 スペルカードにより一ターンに二体目のユニットを召喚する事に成功。

 ちょっとゴツいドクロの戦士。


「そしてバトル! まずは[スケルトン戦士]、[ドラゴン・ナイト]にアタック!」


「攻撃力3,000に対して2,000で攻撃? まさか……。」


「そう! 速攻魔法で補助だ!『対抗スペルカード』ッ!」


 スキルやスペルには「対抗」という能力を持っている物がある。

 「対抗」とは『その行動に割り込んで使っちゃうよ!』っていうルール。

 グーを見てからパーに変更出来る、後出しジャンケン。

 対抗で罠や強化カードを使い、ピンチをチャンスに変えていく事が勝てる秘訣だ。


「[髑髏の魔術師]が放つ! スペルカード《弱体化》! 相手ユニットを攻撃力0にする効果!」


「やっぱりそうきましたか……。」


「よし! 攻撃力ゼロの[ドラゴン・ナイト]撃破ァ!!」


 スケルトン戦士が、剣と盾を持った大人型爬虫類人間へ飛び掛かる。

 そこに魔術師のサポート魔法が割り込み。相手は弱体化してぐったりしてしまう。

 それをスケルトン戦士が切り捨てる。

 ドラゴンナイトは光となって掻き消えたが、スケルトンは止まらない。

 相手の攻撃力が0なので、スケルトンの攻撃がそのまま相手シールドを削る。


「くっ……」


「更に! [スケルトン重戦士]が、[マグマウーパー]にアタック!」


 スケルトン戦士より骨太。いかつい頭蓋骨。

 大きな剣が振り下ろされ、動物愛護団体に関心されそうなほどウーパーがキレイに真っ二つ。


「[マグマウーパー]は破壊されますが、スキル発動します! 相手の手札を無作為に一枚破棄します!」


「うわ、地味に痛い"ハンデス"スキル持ちか!」


 カードゲーム用語、ハンド・デストラクション。

 相手の手札を捨てさせる行為を略して「ハンデス」という。

 彼女のスキル発動宣言とともに、俺の手札が光って一枚消えていった。

 あれ?

 消えてしまったカードって!


「何のカードが破棄されましたか? これは……スペルカード《リビングデッド》ですか。」


「うっっっそだろおい!! 俺のデッキの最重要カードだよ!!」


「それは……よかったです(笑)。では、私のターンに移ってもいいですか?」


 次のターン。

 彼女は中級ユニット[ファイアエルフの魔法剣士]を召喚。


[ファイアエルフの魔法剣士]

攻撃力5,000 守備力3,000 スペル枠:火属性1個


 スペルカード《ファイアボルグ》を[スケルトン重戦士]に撃って破壊しようとしてくる。

 それは[髑髏の魔術師]の対抗、スペルカード《魔力税》で無効化。

 しかし魔法剣士は『相手ユニットを倒したら、もう一度攻撃できる』というスキルを持っていた。

 [スケルトン戦士]が倒され、さらに[髑髏の魔術師]が倒されてしまう。

 俺のシールドもダメージを負ってしまう。


 一方、俺のターンはと言うと。

 [スケルトン重戦士]を召喚したのみで終わってしまった。

 何もできず相手ターン。


 相手の場には攻撃力5,000の強そうな魔法剣士が立っている。

 俺の場には攻撃力2,000と3,000のホネたち合計3体。

 攻撃しても返り討ちにされる。

 だったら守備態勢でシールドを守って欲しいが、このホネたちは攻撃態勢じゃないと復活しない。


「私のターンですね。ふふっ。」


「おい、なにがおかしいんだよ!」


「いいカードが引けたので。下級ユニット[ファイアエルフの見習い戦士]を召喚します。」


[ファイアエルフの見習い戦士]追記

スペル枠:火属性1個


「そして見習い戦士のスペル枠消費、スペルカード……《ファイアボール》。

守備力1,000以下の相手ユニットを三体破壊します。」


「ん? んん??」


 スケルトンは全員、守備力1,000。


「んほおおおおお全滅しちゃうううう!!」



ボボボッッドシュゥゥゥ!!



 見習い戦士から放たれた、ボールとは呼べないサイズの火球。

 俺の場にいる全てのスケルトンが消し炭になった。

 スペル枠を持たず対抗も出来ないホネどもは、戦闘以外で破壊されても再生できない。


「[ファイアエルフの魔法剣士]で攻撃します。終わりが見えてきましたね。」


「あ……あ……」



バリィィィン!!



 俺の残りシールド3枚、ライフポイントとしては11,000。


 しかし、次の俺のターン。

 俺は再び[髑髏の魔術師]を召喚して守りを固めるだけだった。

 また何もできずに相手ターン。


「では私のターン、ドロー。……よし、溜まったわ。

手札の上級サモンカードを使用します。

私の魔力を大量消費して、上級ユニット[ノヴァ・フレイム・エンジェル]を召喚!」


「くそ、ついに上級が出やがったな!」


[ノヴァ・フレイム・エンジェル]

攻撃力7,000 守備力6,000 スペル枠:火属性2個


 神々しく魔法陣から現れた女性型天使。

 わりと晴れてるのに、なぜか太陽光が集まりスポットライトのように天使を照らしている。

 見た目は綺麗な天使のお姉さんだが、その6枚の翼が炎で出来ている。

 古代ローマっぽい白い布の服を着ていて、胸当てや盾、レイピアで武装している。



 このゲーム、実はユニットを召喚する際に『魔力』が消費される。

 ターン毎に自分の魔力が増えていき、ユニット毎に指定された魔力を使って召喚する。

 下級か上級かで消費量は違うし、同じ級でも能力の違いで消費量が多いやつもいる。


 ……しかし理不尽なことに、魔力が溜まっていくスピードも上限も人それぞれだ。

 ゲームとは言いつつも、スタート時点で公平ではない。


 これは鍛錬を積むと上がっていくらしい。

 鍛え抜かれた「魔力と精神力」、空白の召喚札でモンスターを召喚できる「知識と経験」。

 練習に練習を重ねる、または才能を開花させて優位に立つところはまさに"スポーツ"。

 その競技としての厳しさが「スポーツ」カードゲームと言われる所以らしい。


 美しい戦天使をバックに、凛っと立つ対戦相手の彼女の姿。

 まさに鍛え抜かれたアスリートの出で立ち、そのものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る