1-4 上級レベル
「うおおきた!! オリティア様の[ノヴァ・フレイム・エンジェル]だ!」
「綺麗……」
「得意の[ノヴァ・フレイム・エンジェル]が来たら相手はもうおしまいだな!」
え?
ええ!?
びっくりした!
なんと、俺と彼女しかいないはずのデュエル空間に、生徒が数人混ざりこんでる。
俺や彼女から10メートルくらい離れたところに数人。
聞いたことがあるけど、これが「観戦モード」ってやつなのか?
こんなに外野の会話が聞こえてきていいものなのか。
ってかちょっと恥ずかしい。
「まずは[ファイアエルフの魔法剣士]で[髑髏の魔術師]を攻撃。」
「ちょっとまって! 対抗、スペルカード《悪夢の濃霧》! 全ユニットの攻撃マイナス3,000!」
髑髏の魔術師の杖から黒い霧が放たれる。
それぞれのユニットだけを包むように、その霧が覆いかぶさった。
守りを固めている魔術師の守備力は4,000、魔法剣士もエンジェルも守備を越えられない。
攻撃しようとしていたユニットたちは動きを止めた。
「……対抗はありません。わかりました、一ターン待ちましょう。ターンエンド。」
「なんだよあいつ……」とか「引き伸ばしか?」とか外野がうるさい。
いいよ勝手に言ってろよ。
俺はここから巻き返す。
気合を入れろ俺!
「俺のターン、ドロー! まずは魔術師のスペル枠一個消費、スペルカード《魔術強奪》!!」
相手が使ったことのあるスペルカードを、このターン無条件で打つことができる。
俺が選択したのは、ちょっと前に使われたスペルカード《ファイアボルグ》。
「この効果は『ダイスを一回振って、出た数×1,000以下の守備力のユニットを破壊』だったよなぁ!」
「え、ええ、そうです。」
「さっきは無効化されたこのスペル、俺が有効利用してやるぜ!
対象は[ファイアエルフの見習い戦士]だ! 守備力2,000!
運命の、ダイスローーーール!!」
空中に大きなサイコロが現れる。
回転し、ポーンと地面に落ちる。
出た目は、「1」。
「………やったぜ!」
「………」
「………」
やらかしたぜ!
[髑髏の魔術師]の頭上に現れた炎の槍は、ポンっと消えていった。
相手も、観戦者もポカーンだった。
こういうことは稀によくある(?)
「……気を取り直して、俺も上級ユニットを召喚してみせる!!」
「その少ない魔力で出せるんですか?」
「何をーー! 後で後悔しても遅いからな!
まずは通常召喚、下級ユニット[スケルトン戦士]を召喚!
次に魔術師のスペル枠を"二個"消費する重スペル! スペルカード《髑髏の復活》発動!」
倒された下級スケルトンを二体まで復活させる!!」
「そんなに下級スケルトンを並べていったい何を……。」
[髑髏の魔術師]がふたたび杖を掲げると、あたりは暗くなり雷が鳴る。
そしてホラー映画のように地面から[スケルトン戦士]、[スケルトン重戦士]が這い出てきた。
「さらに! スケルトン戦士たち三体を"融合"ッ!
手札の上級サモンカードを使い[スケルトンマスター]を召喚ッッ!!」
三体のスケルトンユニットがバラバラになり宙を舞う。
空中で骨が一か所に集まり、黒い塊になる。
バチバチと紫の電流が塊から放たれ、中から大きな人影が現れた。
真っ黒なローブに身を包み、手には骨でできた剣を持っている。
ローブの隙間から確認できる中身は、ガイコツというより外骨格を骨で再現した芸術品のようだ。
「融合!? ……ああ、スケルトンマスターのスキル召喚ですね。」
「そう! 『三体を犠牲にした時のみ召喚出来るスキル』って、つまり融合でしょ!」
[スケルトンマスター]
攻撃力7,000 守備力1,000 スペル枠:なし
このユニットは自分のスケルトン族三体を破壊しなければ召喚できない特殊ユニット。
このような能力を「スキル召喚」と言い、条件をクリアする替わりに魔力消費を少なく出来る。
俺はこの世界のユニット一覧から、魔力弱者でも召喚できる上級ユニットを探し当てていた。
「[スケルトンマスター]! [ノヴァ・フレイム・エンジェル]に攻撃だ! お互い攻撃力7,000!!」
「おい、あれじゃオリティア様の[ノヴァ・フレイム・エンジェル]が相打ちになるぞ!」
「オリティア様のエンジェルを倒そうとするなんて何を考えてるの!?」
なんだよ、倒しちゃ悪いのかよ。
しかも相打ちじゃあないさ。
お互い対策があるに決まってるだろう。
……あれ、いまオリなんとかって言ってたけど、この子の名前?
「攻撃に対抗します! スペルカード《ファイアウォール》! 攻撃してきた相手を破壊!」
「無駄だ!! [スケルトンマスター]のスキル発動、破壊されても三回までその場で再生できる!」
エンジェルへ攻撃しに行ったマスターは、目の前に現れた炎の壁に燃やされる。
と思ったが炎をものともせず、その手に持つ剣を振り下ろす。
エンジェルも負けじと、レイピアに炎をまとい太いレーザーのような突きをかます。
二つの武器が交差した瞬間、なぜか大きな爆発が起こった。
ドゴォォォォオオッッ!!
「くっ……私の[ノヴァ・フレイム・エンジェル]が……」
「まだだ。『戦闘破壊からも再生』している。」
爆発で起こった煙が消えると、そこには背の高い骸骨剣士[スケルトンマスター]が立っていた。
「再生した[スケルトンマスター]は再び攻撃ができる!
[ファイアエルフの魔法剣士]にアタック!」
スペルも使えず守備力も1,000しか無い上級ユニット[スケルトンマスター]。
そのかわり破壊されても「その場で復活」するため、かなり強力なユニットだ。
素早く懐に潜り込んだ骸骨剣士の一振りに対処しきれず、魔法剣士は吹っ飛んで消えてしまう。
さらに相手のシールドも2,000削れる。
相手のライフポイントは残り20,000だ。
「まさか……ここまでやるなんて……。やっぱりそのデッキケースは本物……?」
彼女は元気なくぶつぶつとしゃべっている。
自分のお気に入りユニット?が何もせずやられてショックのようだ。
まわりの観戦者たちも「うそだろ……」「天使が……」とつぶやいていた。
「私のターン、ドロー。
わかりました。あなたには全力を出さないと勝てないみたいですね。
このカードを使います! "最上級"ユニット召喚!!」
さ、最上級!?
どこにそんな魔力あったの!?
さっき上級を出して魔力はかなり使ったはずじゃ……
彼女が召喚を叫ぶと、あたりは薄暗くなり暗雲が立ち込めた。
少し風も吹き始め、彼女に集まっているような気がした。
「最上級ユニット[サンブレイズ・ドラゴン]!!」
カッッッ!!
目の前の地面に巨大な魔方陣が現れ、強く光を放った。
まぶしくて一瞬目をそむけたが、大きな鳴き声でその存在が現れたことに気が付く。
グオオオオオオ!!
巨大な竜。
体が赤く、細長いタイプの竜。
オレンジ色に光る模様が浮かぶその体は、彼女の天空50メートルくらいのところで大きな円を描いている。
そこから上半身、頭から腕部分までが伸びてきて彼女の真上に陣取っている。
まさにファンタジーな雰囲気で感動しているが、恐怖も感じる。
魔力でできた幻影だとしても、攻撃されたらビビッてちびりそうだ。
「で……出た。オリティア様の切り札!」
「私初めて見た……」
「かっこいい……」
観戦してる人たちも息を飲んで見守っている。
あまり最上級ユニットはデュエルじゃ使われないんだろうか。
そういやさっき「溜まった」とか言ってたのは上級と最上級を出す魔力がって事か?
実はこの子すごいデュエリストなのかな。
そして舐めプだったってわけか。
「あなたの実力は認めます。私がこのユニットを使う事になるなんて。
でもこれでおしまいです。[サンブレイズ・ドラゴン]のスキル発動。
召喚した時、味方ユニットを一体犠牲にして、相手に5,000ダメージを与えます!」
[サンブレイズ・ドラゴン]
攻撃力11,000 守備力7,000 スペル枠:火属性4個
「うっそ! "バーン"能力持ってるの!?」
カードゲーム用語、「バーン」。
burn(燃える、燃やす)の意味で、相手のライフポイントを直接削る効果の事をいう。
忘れてたが彼女の場には[ファイアエルフの見習い戦士]が残っている。
彼女はエルフを代償として破壊することで、ドラゴンのスキルを発動させた。
口に炎のエネルギーを溜める[サンブレイズ・ドラゴン]。
キューーーーーーーーーー……
やばい、俺消し炭になるんじゃないか?
ちょっと怖いんだけど。
「幻影」も度が過ぎると冗談では済まなくなるよね!?
「放て!! 《プロミネンス・ブレス》!!」
カッ!!
ドゴゴゴゴゴゴォォォォォォオオオ!!
「うわああああああ!! 痛っ!!」
太陽が出てきたかと思うくらい大きな炎の塊をぶつけられる。
シールドがぶっ飛んだ衝撃で風が起こり、耐えきれず尻もちをついてしまった。
「そして[サンブレイズ・ドラゴン]、[スケルトンマスター]を攻撃!
攻撃力は……11,000です!」
キューーーーーーーーーー……
おいおいおいおい!!
バーン効果のあと攻撃できるってヤバくない!?
速攻で禁止カード行きのヤバさだよ!?
ヤバいよこれ!
ヤバいよ!
「《サンライト・レーザー》」
「うおおおおっ!!」
パシュッ!
ゴオオオオオオオオオオオオ!!
ドラゴンの口から真っ直ぐな太いレーザーが放たれる。
レーザーが通ったあとは、俺のいる場所以外焦土と化した。
シールドも一枚ぶっ飛び、[スケルトンマスター]の再生速度も心なしか遅く感じる。
俺のライフポイントは残り3,000になってしまった。
「ターンエンドです。」
「お……おおおおおおさすがオリティア様だあああ!!」
「四つもスペルが使える最上級ドラゴン、攻撃力11,000!!」
「オリティア様はライフ20,000、対して相手はたったの3,000だあああ!!」
外野が盛り上がってる。
しかも状況を整理してくれた。
あれか。
カードゲーム漫画によくいる、解説をしてくれるモブってやつか。
そのまま解説を続けてくれ。
さて。
この学院に来る前に、博士から「目立つな」と言われている。
ある作戦を決行するためだ。
だけど。
――――やっぱり勝ちたい。
何のとりえもない底辺大学生の俺が。
唯一自信を持てる事、カードゲーム。
この世界に迷い込んで、召喚バトルカードゲームが流行ってると聞いたときは。
ワクワクした。
異世界に対する不安を忘れることができた。
よし。
やってやる。
"あのルール"を使おう。
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