1-5 最上級の戦い


「俺のターン、ドロー。」


 この大舞台であの禁じ手がうまく発動するだろうか?

 深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 大丈夫、小さいときからやってきたじゃない。

 大事なのはイメージ!


「さあ、もう降参してください。これ以上は無意味です。」


 人が集中してる時に話しかけてくるな。

 それに俺は諦めちゃいない。


「ふん……そいつはどうかな!?」


「この状況で何が出来るんですか。」


「俺は……自分の場に残っている、[スケルトンマスター]と[髑髏の魔術師]を……


《リリース》


する!」


「……何? 何を言ってるの? 《リリース》ってどういう」


 聞きなれない言葉に彼女が混乱しているあいだ、俺の二体のユニットは光の塊となった。

 その二つの塊は宙に浮き、俺の周りをぐるぐる飛び回る。


「この二つの解放リリースされた魔力と、俺が溜めた魔力……

これで最上級ユニットを召喚する!!」


「え!? そんなルール聞いたことがない!!」


 そう。

 これは俺が博士のところで練習中に見つけたルール。

 ぶっちゃけ某カードゲームの真似をして遊んでいたところ、偶然発見した。

 博士は知っていたようだがこのルールは危険だから知れ渡ってないらしい。

 ただ、魔力の少ない異世界人である俺が食らいつくためには使わざるを得ない。


 多くの魔力が、俺の体に流れ込んでくる。

 なんとなくそれを右手のサモンカードに流し込むイメージで構える。

 そして、目の前にある透明なカード置き場にたたきつけた。



ピシィッ!!



「最上級ユニット[ブラックスカル・ドラゴン]!!」



フッ……



 日食が起きたかのように、突然あたりが暗くなる。

 フィールドとなっている草原が枯れていく。

 地響きが起き、俺の真後ろに巨大な穴が開いた。



ゴゴゴゴゴゴゴ……



 その穴から、骨を組み合わせて出来たような巨大なドラゴンが出てきた。

 首が長くない四足歩行型の恐竜のような外観。

 形成されている骨はすべて、焼け焦げたように黒い。

 顔も骨でできていて、目玉はないが目の奥が赤く光っている。



グゥゥゥゥゥ……



 口から唸り声のような音と、紫色の吐息があふれている。

 召喚した俺でもちょっとビビってる。


[ブラックスカル・ドラゴン]

攻撃力10,000 守備力2,000 スペル枠:魔属性2個


「……こいつも召喚した時だけ発動出来るスキルがある。

[ブラックスカル・ドラゴン]のスキル!!

『自分のシールドを一枚破壊し、場にいる自分以外全てのユニットを破壊する』!!」


「な……なんですって!!」


 俺のシールドが割れ、これでシールドがゼロ枚になってしまった。

 ここから1ダメージでも食らえば負けてしまう。


 そう、カードゲームプレイヤーならお気づきかもしれない。

 このゲーム、

 「ライフをコストにするのはアドバンテージ(優位性)」

 じゃないかと感じてくる。

 シールドが割れて好きなときに手札が増える。これはアドと言えないかい?

 異世界人カードゲーマーの俺はその価値に気づけた。


「させません! 対抗、スペルカード《封炎の紋》!!

あなたは他のユニットを二体犠牲にしないと、そのスキルを使えません!!」



パシュッ!



 [ブラックスカル・ドラゴン]の首元に軽く火花が走った。

 他に犠牲にできるユニットがいないため、スペルの効果が適用されたようだ。


「……使ったな?

よし! 次にドラゴンのスペル枠を消費、スペルカード《髑髏の饗宴》!

デッキを消費して下級ユニットを召喚! 呼んでくるユニットは……

[髑髏の調教師]!!」


 スペルカードが発動すると、数体の小さなスケルトンが宴を始めた。

 そこに呼ばれてくるのは攻撃力0のユニット。

 スケルトンなのに髪はきれいな黒髪ロング。

 スケルトンなのに丈の短いセクシーなチャイナ服みたいのを着ている。

 チャイナ服の胸元にはポッカリ穴が開いていて、かなり豊かな膨らみがある。

 スケルトンだから空洞だけど。


[髑髏の調教師]

攻撃力0 守備力1,000


「こいつのスキルは驚くなよ? スキル発動!

自分を破棄することで相手ユニット一体、俺の下僕にするコントロールを得る!」


「そ……そんなの許すわけないじゃない!! 対抗スペルカード《炎の投げナイフ》!!

スキルを発動される前に、ユニットに2,000ダメージ!!」


「対抗ッ! スペルカード《魔力税》!! 追加でスペル枠三個払わないとそのスペルは消える!!」


「では追加で支払って……いえ、違うわ! 対抗! スペルカード《封炎の印》!!

他のユニットを二体犠牲にしないと、そのスペルは無効化されます!!」


 次々に打ち合うスペルカード。

 打ち合うたびに、観客から「おおお!」と声が上がる。

 だけど、これで最後だ。


「残念、そうくると思ったよ。スペルカード《対・封魔術式》。

『無効化する効果を持つスペルを無効化』する。しかも『この効果は無効化されない』。」


「そんな……まさか……」


 大型ユニットを場に出すなら、「スペル」と「スキル」対策はしたいところ。

 例えば《封炎の印》や《封炎の紋》など、相手の行動を無効化するスペルがある。

 彼女はもちろん用意していたようだ。


 甘い。


 その行動は読んでいた。


 このカードゲーム、各属性に『カードの効果を無効化』する効果が蔓延しているようだ。

 そこに無効化の無効化、なんて地味なカードを入れてみると超便利。

 相手の嫌そうなタイミングに撃ち込む。それだけ。

 絵にならない? 盛り上がらない?

 俺はカードゲームガチ勢だ、いつだってガチンコ勝負に行ってんだよ!


 骨なのにセクシーな[髑髏の調教師]が、相手の[サンブレイズ・ドラゴン]を束縛する。

 とはいっても体が長いので、上半身のみ。

 上半身を強制的に俺のフィールドまで引っ張ってきた。

 残りの体は対戦相手の上空まで伸びている。


「……さて。これが通れば合計ダメージ21,000。シールドを飛ばしたうえでダメージが入る。」


「くっ……」


「いっけええええ!!」



キュゥゥゥゥゥゥゥゥ………

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………



ドゴオオオオオオオオオオオオ!!



「きゃあああああ!!」


 二体のユニットの攻撃は、彼女のシールドを貫通し、彼女自身にぶち当たる。

 彼女は風圧で飛ばされてしまう。



YOU WIN



 心配になって駆け寄ろうとしたが、なぜか英語で勝ちを告げられたことで立ち止まってしまった。

 そしてデュエル空間が天空から徐々に消えていく。


 あたりの景色が元に戻ったと思ったら、彼女はすぐ目の前に倒れていた。

 手を差し伸べようとする。

 しかし彼女は自分で体をを起こした。


「うそ……負けた……」

「なんだあいつ……」

 観戦者も気が付くとそんなに離れていないところにいる。

 見渡すと、ざっと10人くらいに取り囲まれてる。

 しかもみんなボーゼンとしている。


 今のうちだ。

 俺はいつの間にかカードが仕舞われていたデッキケースの中身を確認。

 乱れた身なりを整えて、その場から逃げ去った。







 でもこんなうまくいくとは思ってなかった。


 新しい学院生活。

 ちょっとエッチな偶然。

 「様」がつけられるほど慕われてる人物と決闘。

 勝利。

 しかも逆転のような形で。


 うまくいきすぎだ。


 そうだ。


 きっと。


 これは夢かもしれない。


 いや、夢なんだ。


 俺はあの時、事故に巻き込まれた。


 そして命は取り留めたが、植物状態になってしまった。


 その間の―――――




 ―――――陸心リクシン!」


陸心リクシン! お願い目を覚まして! おねがい………」


 病院のベッドでいろいろな管につながれている俺。

 その隣で泣き叫ぶ母親。


「くそっ!! なんで俺の息子がこんな目に……!」


 ベッドの反対側には親父の姿が。

 普段は喋らないくせに、感情をあらわに泣いている。


「残念ながら、息子さんが回復する可能性は非常に少ないと思われます。」


「そんな! 先生! なんとかならないんですか!!!」


 専門の医師からもそんな話をされている。

 ただ、生かされているだけ。そんな状態。

 そんな状態なのに、母親はずっと俺の名を呼び続ける。


陸心リクシン! 陸心リクシン!―――――




 ―――――なんちゃって。


 これは俺の妄想だが、実際に起こってないとは限らない。


 だから俺は早く目覚めないといけない。

 だから早くこの世界から抜け出さないといけない。

 どんな手でも使ってやる。

 たとえこの国を敵に回しても。


 遡ること2週間前。

 俺はある計画を聞かされた。

 それはこの世界に飛ばされて来た時のこと―――――……

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