7-2 オーバークロック


「上級ユニット召喚! [ヴァルカン・ラヴァレックス]だ!」


「おお、来た来たアニキの得意ユニット!」 


 ああ、よかったそいつか。

 さっきも見た黒い溶岩恐竜。

 実際に対峙すると熱気と迫力があるが、許容範囲。

 USJのアトラクションみたいなものだ。


「[ヴァルカン・ラヴァレックス]! [スケルトン重戦士]をぶち壊せ!!」



グオォォォオオ!!


ドゴォォッ!!



「くっ!」


 飛んできた豪火球で、骨太の戦士が灰になる。

 超過攻撃力4,000に加え、[ヴァルカン]お決まりの追加ダメージスキル。

 攻撃一回でちょうどシールドが一枚割られた。



バリィィン!



 [ヴァルカン・ドラグーン]も同様に攻撃してくる。

 [スケルトン戦士]を攻撃力6,000になるスキルで蹴散らし、追加ダメージスキル発動。

 一気に5,000ダメージ食らってしまい、残りライフは10,000になってしまった。


「くそっ……」


「リクシン……君!」


 ヤクザの命令に耐えてたクラウが、心配して声をかけてくれた。


「ああ、大丈夫だよクラウ。そこで見ててくれ。」


「あーーーーーーーーつまんねぇ。つまんねぇ!!!」


 また大声を出すヤクザ。


「もういいだろ。俺のシールドちょっとカスっただけで何もできねぇじゃねえか。」


「ま、まだこれから!」


「いいよ。……おーーーいそこの女。」


「ひっ……」


 引きつった声で身構えるクラウ。

 デュエル中に余計なことをしたら許さ―――


「パンツ脱いで股開いてこっち見せろ。」


「はああ!? お前何言って……クラウ、耳をふさげ! ……!?」


 振り返るとクラウはしゃがんでいた。

 スカートの下から手を入れている。


「うぅっ……うううーーーーー!!」


 声にならない声。

 必死に耐えている。


「おーいクソザコのお前も見たいだろー? ほら見てやれよー。」


 ははははーと笑うヤクザたち。

 駄目だこいつら。

 本当にどうしようもない。


「うぅぅっ!」


 ついにパンツを脱いでしまった。

 足を――――



ダンッ!!!


ブブーーーッ



 俺はカードが置いてある透明なテーブルを思い切り叩いた。

 エラー音とともに赤いスポットライトが俺を照らす。

 「台パン」はカードゲームにおいて禁止行為。

 審判から負け(ジャッジキル)を言い渡されるか……?

 その前に!


「ターンが終わったのにデュエルを進めないのは、遅延行為に当たらないんですかー?

いいんですか審判さーん!!」



ブブーーーッ



「あぁ? んだよ……。」


 審判がいるのかは分からないが、訴えは通じたようだ。

 ヤクザも赤いスポットライトに照らされる。

 おそらくお互い禁止行為をしてるので相殺されたはず。

 俺は上から照らすライトが消える前に、ササッとクラウの前に出た。

 なるべく奴らから見えないよう、視線を遮るように。


「早く進めろクソが。」


「俺のターン、ドロー。」


 ここまで耐えた。耐え切った。

 ようやくこいつを出せる。


「俺のフィールド上の[スケルトン戦士]と[スケルトン重戦士]!!

この二体を


《リリース》


する!!」


「はぁ!? 《リリース》!?」


 宣言すると、俺の二体のスケルトンは光の塊となる。

 二つの塊は宙に浮き、俺の周りをぐるぐる飛び回った。


「お前バカか!? 死ぬ気か!?」


「リ、リリース!? 知ってるんですかアニキ!?」


 まさか。

 アニキ知ってるとは。

 さすが闇の世界に生きる男。


「一度ひねり出した魔力を、自分の体にもう一回ぶち込む禁断のルールだ!

スラム街で試した奴は全身から血を吹き出して死んだ!!」


「そんな……アイツついに狂ったんですかね!?」


「リ……リクシン君!!」


 そんなに危険なルールだったのか。

 これも博士のアイテム『白石』ペンダントのおかげかな?

 ははは、異世界に来てもチートが貰えてないと思ってたが、十分貰ってたな。


「大丈夫……じゃないかもしれないけど。見ててよ。クラウ。」


 さて。

 今回の生け贄は下級ユニット二体だ。

 このデュエル、中級ユニットを出さないようにしてたけど少し魔力が足りない。


 俺は異世界人の魔力処理装置、白石ペンダントを握りしめた。

 別に、こんなとこでこんな連中相手に魔力開放はしない。

 ちょっと多めに体に流すオーバークロックするだけだ。

 白石との回路を通すときに気を失ったけど、今回は耐えてみせる。

 あのヤクザがさっき耐えたように。


「この二つの《リリース》された魔力を、俺の中に!!」


 光の玉が俺に飛び込んできた。

 それと同時に白石を強く握る。



パシュッ!



 俺は目の前が真っ白になった……。


 ……って、こんなとこで気を失ってたまるか。

 確実に勝つ。

 勝つ道筋も見えているんだ。

 いつか実戦テストで先生が言ってたな、「気合だ」って。

 そうだね、デュエルに気合は大事だった。


「――――っっああああ!! っしゃあ耐えた! 最上級ユニット召喚ッ!!」



シュゥーーー……



 溶岩が徐々に固まり、溶岩に照らされていた周りが暗くなっていく。

 地響きが起き俺の真後ろの足場が崩れ、溶岩が流れていく。



ゴゴゴゴゴゴゴ……!


ドバァァァ!!



 流れている溶岩を物ともせず、骨でできた巨大なドラゴンが出てきた。

 焼け焦げたように黒い外骨格。

 赤く光る目の奥。

 攻撃力10,000、守備力2,000、スペル枠は二つだがスキルが豊富なこのユニット。


「最上級ユニット[ブラックスカル・ドラゴン]攻撃態勢で召喚だ。」


「馬鹿な……こいつ《リリース》に耐えた……。」


「こいつにも召喚成功時のスキルはある。

『自分のシールドを一枚破壊し、場にいる全ユニットを破壊する』効果だ。」


「ぐっ……。」


「だが、使わない。」


「は、はぁ? ああそうかい。」


 そう。

 任意効果なのでここで使わない選択肢もある。

 相手が効果でシールドライフを削ってくるのに、こんなとこで自分からは削らない。


「[ブラックスカル・ドラゴン]! [ヴァルカン・ラヴァレックス]へアタックだ!」



グアアアアアアアア!!


パゥン……ドォォォォオオオオ!!



 咆哮をした後、口から紫色のエネルギー弾が発射される。

 ラヴァレックスへ着弾すると、紫の爆発を起こした。


「うおおお!!」


「きゃあ!」


「うおっと!」


 爆風で飛ばされそうになる。

 しかし俺の後ろにいるだろうクラウを庇うように耐えた。


「ターンエンド!」


 相手は今の攻撃でシールドライフ20,000になった。


 ……終了宣言聞こえたのか?

 ヤクザが透明テーブルに手をおいて動かない。


「どいつもこいつも……ウゼェウゼェウゼェ!!!」



ダンッ!



「うぜーんだよああああ!?」


 今の台パンは禁止行為じゃないんだろうか。


「おうやってやるよ!! 俺も!!」


 ヤクザはそう言うと、手札からカードを一枚取り出して力を込めた。


「やってやるよ……うおおおおお!!」


 体から煙のようなものが出てくる。魔力をひねり出しているんだろうか。

 流石に二戦連続は耐えられないだろう。

 相手が怒り狂い、これをするのを待っていた。


「俺は!! 最上級ユニット召喚ッ!!」



パシィィィィン!!



 これ以上ないくらいにキレイにカードを叩きつける。


「最上級ユニット[サンブレイズ・ドラゴン]!!」



カッッ!!



 先ほどのデュエルと同様、あたりをまぶしい光が一瞬照らす。


「ア、アニキ!!」


「アニキしっかりしてくだせぇ!!」


 光が消え、気が付くと相手のヤクザが倒れていた。

 魔力の使いすぎだ。

 生命維持の限界まで絞り出す方法ってのも失われたルールだろうか。

 このまま倒れたままだとデュエル続行不可能、相手棄権で俺の勝ちだ。


 しかし。

 彼の頭上には[サンブレイズ・ドラゴン]が召喚されていた。

 攻撃力11,000、守備力7,000、スペル枠四個のあのドラゴン。


「クッ……問題……ねーよ!

こいつらをぶっ殺すまで死ぬわけねーだろ!!」


「アニキィ!!」


 残念ながらヤクザは起き上がった。

 性格はクズだが、やはり経験の差もありデュエリストとしては上位クラスだ。


「[サンブレイズ・ドラゴン]のスキル!! 召喚成功時[ヴァルカン・クロコダイル]を破壊!!

テメーに5,000ダメージを与える!!」



カッッ!!


ドゴォォォォォォオオオ!!



「うわああああ!!」


「リクシン君!」


 よろけて尻もちをつきそうになる。

 しかし後ろにはクラウがいるので踏ん張る。

 倒れること自体、彼女に不安を与えそうだ。

 これ以上かっこ悪いところは見せたくない。


「[サンブレイズ・ドラゴン]は攻撃力11,000だ!

攻撃力10,000の[ブラックスカル・ドラゴン]をぶっ殺せ!!」



キューーーーーーーーーー……


パシュゥゥン!!



「ぐううううッここで!! 対抗!! 《ボーンクリエイト》!!

『種族:スケルトンが破壊される時、守備力以下の下級ユニットを召喚する』!!」



ゴゴゴゴゴゴゴ……


シュルルルッ!



 [サンブレイズ・ドラゴン]から放たれたレーザーで粉々になる[ブラックスカル・ドラゴン]。

 しかしバラバラになった骨は一箇所に集まり、そこには[スケルトン魔法使い]がいた。

 [ブラックスカル・ドラゴン]の守備力はわずか2,000。

 デッキの下級サモンカードを消費して呼べるのはこいつくらいだった。

 攻撃力は0なので守備態勢に。スペル枠は二個。


「チッ……残ったか。だが次で終わりだ。テメーに勝ち目は無ぇよ。」


「フン、そいつはどうかな。」


「ナニィ?」



 俺のシールドは一枚、残り4,000ライフ。

 しかし相手の手札は二枚。


 カードは揃った!

 ここでぶちかます!!

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