3-5 暴走天使


 [輝石のゴーレム]のスキルが発動する。

 [輝石の守り手]が天に召され、オリティアは捨て山からカードを回収した。


「そして……上級ユニット召喚! [お菓子の天使 オリナ]!!」


「もう上級かよ! 魔力貯まるの早っ!」


 地面に召喚魔法陣が現れたが、ぱああっと上から光が灯り、天使が降りてきた。

 天使がよく着てる長い布の服が、全力でフリフリで装飾されている。

 チョコレートっぽい茶色が基準で、ところどころ水玉模様。

 身長は低め。ピンクの髪はふわっとしたボブカット。

 8枚の翼も若干ピンク色をしている。


[お菓子の天使 オリナ]

攻撃力5,000 守備力5,000 スペル枠:聖属性3個


「ほら! この子かわいいでしょ!!」


「ああ、うん、かわいいね。」


 とっても女の子が好きそうな雰囲気してる。

 これがレアカードだったらイラストのせいで、単品販売価格は高くなりそう。


「そしてスペルカード《聖なる破壊ホーリー・ディストラクション》! 全ての『種族:スケルトン』を破壊する!」


「え? え、ええ!? えっと……スペルカード《魔力税》!スペルを無効にしたい……」


「さっき回収した《ディスペルマジカル》!」


「だよねえ!!」


 当たり前だが俺のスケルトンたちは『種族:スケルトン』。

 お菓子の天使から放たれる青白い光の球体に、ホネたちは余裕の全滅。


「ガラ空きになったところに[戦場を駆ける天使][お菓子の天使 オリナ]攻撃ぃ~!」


「ぐあああああ!!」


 一気に8,000ダメージ。俺のシールドは一枚割れ17,000に。

 まずい、相性が悪い。


「ぐっ……俺のターン! 中級ユニット[髑髏の聖騎士]召喚!

このユニットは『聖属性ユニットとの戦闘では破壊されない』スキルを持つ!」


[髑髏の聖騎士]

攻撃力5,000 守備力1,000 スペル枠:魔属性2個


 こっちも相手から嫌がられそうなユニットを出してみた。

 これで対等に戦えるか?


「いや言ってもね! 言ってもそっち手札2枚でしょ!?」


「そうよ。」


「じゃあこれは止められないはず! 重スペルカード《髑髏の復活》!

下級スケルトンである[スケルトン重戦士][スケルトン魔法使い]を復活させる!!」


「ええ、どうぞ。」


「よし!」


 ここで三体を生贄に、[スケルトンマスター]出すか?

 いや、マスターはスペルを持っていない。

 [髑髏の聖騎士]もスペルは撃ちきったが破壊耐性があり、お菓子の天使を一方的に殴れる。

 次のターンに回そうか。


「[髑髏の聖騎士]が! [お菓子の天使 オリナ]に攻撃!

お互いに攻撃力5,000で相打ちだけど、聖騎士は破壊されない!」


「スペルカード《平和の白い鳩》! このターンバトルフェイズは終了~!」


「あ! あ、そこ止めるのね。そうなのね。ターンエンドです。」


 おっと、これは大丈夫か?

 聖騎士は戦闘以外に弱いから不安。

 でもこっちは場に三体もいるし、一体くらい殺られてもなんとかなるだろ。

 ここで耐えて次で仕掛ける!

 パーミッションは怒涛の攻撃には弱いはず!


「私のターンドロー! [お菓子の天使 オリナ]の効果発動!

スペルカードを一枚捨てて、二枚ドロー!」



!!



 上級なのに攻撃力5,000しか無いと思ったら。

 ドローソース(手札補充能力)持ちか!

 カードゲームにおいて「ドロー」は超基本アドバンテージ確保手段。

 こいつイラストアド(イラストしかアドバンテージ無い)だけでクソ能力だと思ってた。

 これがレアカードだったら「金券」って呼ばれて超高騰するカードになってただろう。


「ふっふっふ。スペルカード《聖なる破壊ホーリー・ディストラクション》」


「おいこら"ピンポイントメタ"!! それ完全に俺対策だろ!!」


「せ、聖属性デッキだから! 汚れたものは浄化が基本じゃないの~ヒュッヒュー」


「おい口笛吹けてないぞ」


 カードゲーム用語「メタ」。

 他の場面では使えないが、特定の敵には絶対勝てるカードを用意することを「メタを張る」という。

 ただ、このようにあまりにも俺のカードをピンポイントに対策するのはいじめにしか思えない。

 対抗する手段なく、俺の軍は全滅した。


「じゃあまたガラ空きになったところで……上級ユニット召喚!

[暴走天使イグ・マオ]!! 攻撃力は3,000!!」



ドオォォォーン!!



 召喚というよりは、空から勢いよく落ちてきた。

 ん?

 攻撃力3,000、守備力3,000で上級!?

 12枚ある翼は血みたいに赤く、全長10メートル以上はある。

 本体の身長は2メートルくらいだけど、中二心そそられるような超"拘束"状態。

 真っ黒な拘束具の中から、銀色の髪と赤い目が見える。

 この威圧感は確かに上級レベルだ……拘束!?

 嫌な予感がする!!


「スペルカード《能力降格の印》! 『ユニット一体のスキルを1ターン無くす』!」


 ほらな。

 スキルをドレインするようなカード使ってくるかと思ったよ。


「なんと! [暴走天使イグ・マオ]は自ら攻撃力ダウンスキルを発動していて……

そのスキルを無くすと攻撃力15,000!!」


[暴走天使イグ・マオ]

(元々の)攻撃力15,000 守備力3,000


「なん……だと……?」


「全軍攻撃~!!」



アアアアアアアア――――!!!



 暴走天使が叫び、拘束がはじけ飛ぶ。

 青みがかった肌の上半身があらわになり、赤く光る血管が浮き出る。

 12枚ある翼が赤く光り、激しく揺れる。

 そして俺の方をにらみ、空間がねじ曲がるほどの速さで突っ込んでくる。



ブォン!


ドゴオオォォォォッッ!!!



「ぐあ! うあああああああ!!」


 ガラ空きのところに全軍合計23,000ダメージ。

 幻影のはずだが、さすがの勢いに俺は吹っ飛んだ。



YOU LOSE



「へぶっ!」


 激しい風圧で、数メートルぶっ飛ばされたかと思った。

 しかし謎の負けアナウンスとともに、空間が消え俺はその場の床に叩きつけられた。


「あ。大丈夫?」


「大丈夫だけど……死ぬかと思ったよ。」


「そんな幻影で死ぬわけ無いじゃな~い。どうだった? 私の天使可愛かったでしょ?」


「可愛かったて。ほとんど石の人形と中二病のイケメンだったじゃねーか。」


「えー、可愛いのもいたじゃん……あ!」


「どうした?」


「《リリース》召喚するの忘れてた!!」


「だって魔力潤沢にあったじゃん。上級連発で出せるのお前くらいしかいねーよ。」


「待って! もう一回! もう一回!」


「え~?」


 と、いいつつ負けたのが悔しいのでもう一回付き合う俺。

 ピンポイントメタでもあるってわかれば対策が取れるかも。

 次はもう少しいい勝負がしたい。


 そんなこんなで二人は、夜遅くまでデュエルをした。

 ほんと、カードゲームは時間を忘れるわ。



◆◆◆



 あれから数日間、二人の秘密の練習は続いた。

 俺はオリティアにカードゲームのセオリーなんかを教えた。

 オリティアは記憶喪失の外国人設定の俺に、俺達が通う学院の常識を教えてくれた。

 疲れたらココアタイム。

 そんな日が続いた2月の5週目(元の世界で言う5月初めごろ)。


「ごめんね。明日からセレモニーと大会に向けて準備しないといけないんだ。」


「ごめんねって、俺が頼んで練習させてもらってるわけじゃねーけどな。」


 きた。

 春の最初の連休。俺の世界で言うとゴールデンウィークくらい。

 ついに全国学生大会が始まる。

 俺はそのオープニングセレモニーでひと仕事するために、この学院に入った。

 そう考えるとここまでの道のり、早かったなぁ。


 それから連休まで普通に講義を受ける。

 これで最後だと思うと名残惜しい。


 イケメンのアイヌマ君と雑談したり、この世界のB級グルメを食べに行ったり。

 そんな生活もあと少しで終わる。

 そしていよいよ。

 大型連休のスタート。

 連休初日の明日が、セレモニー当日だ。

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