3-6 開会式


 学院の敷地を出てちょっと行ったところ。

 大きな競技場がある。

 大きな、と言っても地方の陸上競技場レベルの大きさだが、そこに観客が目一杯入っていた。

 ここが全国VLDカードゲーム学生大会・開会式セレモニーの会場だ。


 競技場トラック内にはおよそ100名、おそらくDP上位の選手が集められている。

 殆どが俺と同じ学院の制服だが、違うのも混ざってるようだ。

 選手たちの前には大きなステージが設置されていて、偉そうな人たちが奥に座ってる。

 あと若い人が端に5人ほど座ってるのは……トップ5位までの人かな? 強そう。

 ただ、偉そうな人たちの中にオリティアの姿が。


 ――そっか。

 炎の巫女の末裔だから、『赤石』お披露目の近くにいるのか。

 やりにくいな。

 これからあそこに突撃しに行って。

 なんだか今までの彼女を騙すみたいだ。


 いや。

 これは俺の戦い。

 俺が帰るためにはしょうがないこと。

 まあ使ったらすぐ返すって博士も言ってるし?

 ちょっと借りるみたいなもんだ。

 と、自分に言い聞かす。



◆◆◆



 セレモニーとは言うものの、派手なパレードや花火があるわけではない。

 VLDの歴史について出し物を見せられたり、歌手に国家?を歌わせたり。

 基本的にはセレモニーは粛々と進み、ついに赤石のお披露目になった。


『それでは、ここで『赤石』に宣誓していただきます。』


 さあ、出番だ。

 俺は一般生徒扱いで、観客席の生徒ゾーンにいる。

 一年生はステージより後方にいるが、俺ら二年生の生徒ゾーンはステージ左側に近い。

 実はそれを見越して二年生に編入した。

 しかも座席は前の方をキープできた。


 赤石の登場のようだ。

 石のサイズに合わない、大きい宝箱みたいなのが重々しく運ばれてきた。

 赤石の入ってる箱は超高硬度の素材で出来ており、何重にも魔術結界が張られているらしい。

 それを持つのは屈強そうな軍人っぽい人と、騎士って感じで剣を携えてる人。

 その他4人、合計6人体制。

 屈強そうな軍人みたいな人が大きい鍵を刺し、宝箱を開ける。


 ピカーー!っと箱の中から赤い光が漏れ出る。

 周りの観客から「おお……」と期待の声が。

 今だ。

 ここだ。



―――――――――――……

「まずねぇ、赤石の箱が空いたら、『白石』の力を開放するの。」

「手をおいて白石ーーって念じればいいのねぇ。」

「そのすっごい魔力で『DECK ON』って言えば、このデッキケースの特殊機能が発動してぇ……」

―――――――――――……



「は、白せk……」



『DECK ON』



「……え?」


 俺じゃない。デッキオンと誰かが言った気がした。

 会場全体が闇に包まれる。

 いや、闇ではなかった。

 夜の森の中だ。

 まるでデュエル空間に無理やり飛ばされたようだった。


「なんで……まだ……」



――――――――――――……

「強制トレーニングモードみたいなね。周りの人たちをみーんなデュエル空間に入れるの。」

「でもきっと国軍の強い人はぁ、咄嗟に適応してユニットを出してくると思うのね?」

――――――――――――……



 あまりの状況にまだ誰も叫び声すら上げていない。

 しかしそんな中でもさすが、警備をしている国軍だ。

 手には燃えている「カードタイプではない召喚札」を持っている。

 咄嗟に『赤石』を囲むように強そうなユニットを召喚したようだ。


 巨大な剣を持った黒い巨人。

 腕が4本ある人型ドラゴン。

 真っ白な、周囲に雷が走っているペガサス。

 あれは本物か? ってくらい存在感がある。



――――――――――――……

「そこでこの特殊なカード!」

「このカードで[ゴブリン盗賊王]を召喚したらぁ、もうすぱすぱーーんと『赤石』を取ってきてくれるの!」

「そしたらゴブリンには隠れてもらって、デュエル空間を解除して終わり。」

「『赤石』はこの特殊な空間に取り残されるから証拠なし!」

――――――――――――……



「《フィールドエスケープ》!!」


 聖騎士みたいなおっさんが高らかに叫ぶと、周りの景色が崩れ始めた。

 ここで初めて「きゃー!!」「何が起こった!?」と周りがざわつき始めた。

 考えてた作戦よりデュエル空間が消されるのが早いな。


 じゃないよ。

 は?

 俺がやる前から全て先を越されてる。

 考えてた作戦そのままだ。

 まさかヴェアロックがこの場に?

 いや、だったら俺に連絡をくれるはず。

 一体誰が。

 まさか計画が漏れていた?


「キャーー!」


 その声で壇上を見た。

 宝箱のようなものの中には、何もないようだ。

 盗賊王みたいなユニットを出す余裕は無かったように思える。

 しかしやはり、この一連の動きは『赤石』を盗むための流れだったようだ。


 盗みは成功された。

 計画を考えて構えていた俺は、周りの観客以上に混乱していた。


 その後はパニックだった。

 『赤石』が盗まれて怒る人や悲しむ人。

 暴れ始めた人もいるが、それを軍や役人が収める。

 何百人といる観客から選手、役人に至るまで全員を身分確認と身体検査。

 俺はデッキケースを2個持ってて怪しまれたが、使った痕跡がないということでスルーされた。

 朝から始まったセレモニーだったが、開放されたのは夜遅くだった。


 会場の外。

 報道陣?のような記者っぽい人の塊を抜け、裏道から帰る。

 一緒に来ていたアイヌマが「すごい事件に遭遇したな」と言っていたが、愛想笑いしかできなかった。


 作戦失敗。

 俺はがっくりうなだれて歩いていた。


「あ! リクシン君!」


 呼ばれて振り返ると、賢者のドラフロントだった。

 まずい。

 俺が関係してると思われたか?


「君もいたのか!」


「あ、はい。」


「君は……どう思う?」


 どう思う? と来たか。

 その質問は回答に困る。


「えっと……あれだけの警備の中盗むとしたら、相当すごい召喚術師だと……」


「そうか。召喚術師か。」


 しまった!

 魔法使いとか、盗賊団の組織的犯行とかいろいろあるじゃないか。


「わかった。彼女にも伝えといてくれ。それじゃあ。」


 賢者様! と周りの人に呼ばれて会場に入っていった。

 彼女って博士の事かな。

 とりあえずバレてないみたい?


「お前すごいな! 賢者様と知り合いなのか!?」


「う、うん、ちょっとね。」


 アイヌマに羨ましがられたが一人になりたいと言い、どこにも寄らず歩いて帰った。

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