第四話 VS赤石

4-1 犯人捜査


 家に帰り、部屋の電気もつけずベッドで横になっていた。

 失敗した。

 赤石は盗まれた。

 もし犯人が見つかり赤石が帰ってきても、もうしばらく人の目には晒さないだろう。

 そしたら盗むなんて不可能だ。

 俺の帰る手段がなくなった。

 何のためにこの学院に入ったんだろう……。



コンコン


!?



 打ちひしがれてぼーっとしてると、ドアが鳴った。

 ビクゥ!っと反応してしまう。

 俺は違うぞ。

 犯人じゃない。

 でも、居留守を使っても怪しまれる。

 逃げるか!?

 いや、ここは二階、魔力頼りで飛び降りて無事だとしても逃げ切れるか。

 逃げられないなら、とりあえず出るしかない……


「あ、いた。寝てたの?」


「オ、オリティア!?」


 周りに人がいないか警戒。

 もしかして俺を捕まえに来たのかと思ったが、一人のようだ。

 すぐに中に入れた。


「おい、数日間は生徒は自宅待機じゃなかったのかよ。」


「だって、気になったから。」


「だってって……気になった? な、何が!?」



◆◆◆



 ひとまず落ち着いてココアをいれる。

 ふたりとも椅子に座り、ココアを飲む。


「前に聞いたのを思い出したけど。あなたの知り合いに発明家がいるでしょ。」


「え!? ああ、そうだね。」


「『黒の魔術団』のデッキケースをもらったっていう、その博士……

博士なら事件の犯行方法について、何か分かるかもしれないと思わない?」


「そ、そうかなぁ? あの人はふわ~っとしてるから何も考えてないような気がするけど。」


「でも事件を解決できそうな道具があるかもしれない!」


「そんな時計型麻酔銃みたいなのは作ってないよ。」


「ねえ。お願い。会わせて。」


 椅子から身を乗り出し、顔を近づけてくる。

 近い。

 真剣な顔はかわいい。

 緊張して目を背ける。


「そ、捜査はプロの人たちがやってくれるだろ?

なんでそんな、自分で犯人を見つけたいの?」


「それは―――私が炎の巫女の末裔って言うこともあるけど……

代々一族が守ってきた『赤石』、今まで魔王軍にだって奪われることなんて無かった。

それなのに今回、こんなあっさりと盗られるなんて……。

そんなことができる人間がこの世にいるなんて……。

だから犯人は私が捕まえたい。お父様に、私は一人前だって見せつけたい!」


 ファザコン……か?

 いや、それよりは父ちゃんを憎んでる雰囲気が伺える。

 父との間に何かあったんだろうか。

 お嬢様が家元を離れて一人暮らしをしてるのも、異常といえば異常だし。

 得体の知れない俺にデュエルを教わってでも、強くなりたいっていう強い意志は感じてた。


「お願い! 何でも言うこと聞くから!」


 何でも、か。

 本当にこの子は正義感が強い。

 俺なんかと全然……ん?


「……ん? 今なんでもって言ったな? じゃあ……」


「まってまって! えっと…………胸を揉ませる程度なら。」


「馬鹿か!www 俺がボケる前に下ネタぶち込んでくるなよ!www」


「うそうそうそ冗談冗談、それくらいの覚悟で……って、なに涙目になってるの?」


 あ、やべ。

 打ちひしがれてたとこに友人が現れて、冗談を言ってくれて。

 ちょっとウルッときてしまった。

 嬉しかった。

 たとえ『赤石』を守る敵側だとしても。

 思わず全部吐き出しそうになる。

 ここで全部言えたら――



ヴィーーーーーン、ヴィーーーーーン



「え、なに? なんの音!?」


 オリティアは急にベッドから聞こえる重低音に驚いている。

 これはスマホの着信バイブだ。

 やばい。


「あーーーはいはい、あー博士。ああ、なってるよ大変なことに。自宅待機だって。」


「え!? なにそのアイテム、もしかして博士と喋ってるの!? 私も!!」


「いや、ちょちょちょっと待ってて。えーっと博士。どうしよう。」


 俺はトイレの方に行って博士と話した。

 彼女のことを話し、相談した。

 オリティアは『赤石』を守るべき炎の巫女側の人間。

 俺らが盗人だと教えればどんなことになるか。

 でも魔力量は尋常じゃないし、味方につけることができれば半公式みたいなものになるけど……


『い~んじゃない?』


 おい軽いな。

 やっぱりふわ~っと何も考えてないのかこいつ。

 俺は通話を終え、オリティアの元に行った。


「で、なんて言われた?」


「えっと、許可が出ました。」


「やった!」


「でも一つだけ約束してくれ。

……この先衝撃的な嘘や事実が発覚しても、誰にも言わないと。」


「え……? まさか犯人……」


「いや違う違う。犯人ではない。大丈夫、それだけは信じてほしい。

それと赤石を取り戻したい気持ちは、誰よりもある。それは本当だ!」


「え、ええ。その気持は信じたい、信じるわ。大丈夫、私も事実から逃げない。」


「よし、じゃあ今から行こう。」


「い、今から? どこに?」


「魔女の森」


「…………無理無理無理無理!!!」


今逃げないって言ったじゃんかよ……



◆◆◆



 市街地を抜け、林道に入る。

 ここまでくれば人も少なくなるし、見つかって補導されることもない。

 制服では目立つので、俺はブカブカの旅人っぽいシャツとズボン。

 オリティアには雨合羽がわりにしてたローブを貸した。


「ふう。なんとか抜けれたわね。」


「やっぱこの時間だし、事件があった夜だし、みんな出歩かないだろ。」


「それで、さっきのすまほ?って何?」



――――――――――――……


「すごい! なにこれぇ!」


 俺が異世界から持ってきた荷物を物色してるヴェアロック。

 とは言っても荷物は図書館に置いてきたし、財布とスマホしか持ってきてない。


「それはね、スマホって言って通信とかなんでもできる端末だよ。」


「なんでも!? 勇者様は持ってなかったなぁ。どうやって使うのぉ?」


「貴重な電池がなくなるからちょっとだけな。っても電波無いから使えないけど。」


 通話機能、チャット機能、ゲーム、カメラ、ライト、音楽、動画再生。

 いろいろな機能を教えてあげた。


 次の日。


「じゃん! ここに家が数軒買える値段の、国宝級マジックアイテム《千里の水晶球》があります。」


「お、千里ってことは遠くの状況も覗き見れちゃうすごいアイテムとか?」


「はいどーーーん!!」



グシャア!!



「ええええ!? 家が数軒分、ええええ!?」


「これをこうして、こう!」


 博士が手を回すと、バラバラに壊された水晶のかけらが空中に集まる。

 そして真っ赤に熱くなり、四角い板になった。


「ではぁ、これを"すまほ"のベースにして、製作開始しまぁす!」


「え! ああそうなの! 心臓に悪いからやめてくれる!?」


 そして俺は、「スマホ」を再現するため博士と協力した。

 完成した「スマホ」は一つの水晶球から4つほど作成できた。

 今は俺と博士が持ってる。


――――――――――――……



「まぁつまり、俺と博士で開発した新しいマジックアイテムだよ。

他のマジックアイテムの干渉は受けないから、盗聴とかもされないんだってさ。」


「う、うん。まって、これもう魔女の森入ってる?」


「え? いつのまに。入ってるね。でもモンスターは襲ってこないから大丈夫だよ。」


 この山には、魔王時代にブイブイ言わせた危険なモンスターが潜んでいるらしい。

 山の魔力が強すぎて未だに駆除できないとか。

 っていうのは設定で、実は博士がモンスターを操っている。

 事前に伝えてあるし、空間魔法で捻じ曲げて博士の家までショートカットしてくれる。


「そのスマホってやつ、モンスターを避ける機能でもあるの?」


「うーん、出会ったモンスターをボールで捕獲するアプリでも入れとけばよかった?」


「なにそれ~~~!!」



ガサガサ!!



「ひゃああああ!!!」


 おうふ。

 めっちゃ抱きつかれてる!

 胸が!

 ……ちょっと遠回りして行こうかしら。

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