3-2 古風なキャラ
「よしリクシン、飯行こうぜ。」
「あ、ああ。いいよ。」
気さくに話しかけてくるこいつの名はアイヌマ。
短髪で濃い茶色の髪、身長は俺と同じくらいだが俺とは違いイケメン。
俺みたいなクラスの日陰者キャラに話しかけてくれるわけで、性格もイケメン。
元の世界なら間違いなく友達にはなれないタイプだ。
そんな彼から昼飯の誘いをされた。
学院生活が始まって数日。
まだほとんどの講義はガイダンスだが、なんとなくついていけそうな気がした。
もっと異世界の面白い講義を探したい。
そう思い様々なガイダンスを受けてると、偶然隣の席になることが多い人物がいた。
その人物、アイヌマとは自然に仲良くなっていた。
この学院の食堂は図書館とくっついている。
周りを雑木林に囲まれた静かで広い建物の中。
そこで俺とアイヌマは昼飯を食べる。
「リクシンまた麺かー。」
「えー、だってこれうまいじゃん。」
「そうか? もっと旨い店あるそ?」
「マジで! 今度教えてよ。」
「おう。もちろん。……あれ? リクシンってメガネだっけ?」
おっと、外し忘れてた。
これは……
パンパカパンパンパーラーラーー!!
《翻訳メガネ》~!
博士の発明品。
この眼鏡をかけると読めない文字の上に、俺が認識できる文字が浮かんでくる。
俺はこの世界の文字が読めないので、講義や昼飯のメニュー選びに重宝する。
これを始業式の日に持ってれば「更衣室」も読めたのに……
「そうか。目が悪かったんだ。」
「ああ、ちょっとね。」
「それにしてもリクシンは不思議だよねー。海外から来たのに赤国語上手。」
「え? そうかな。あはは……」
「見た目は、言われたらたしかに海外だなーって感じするけど。」
おい。どういう意味だ。
確かに、この世界の(この国の?)人間は美男美女ばっかり。
顔は日本人っぽいのにみんなモデルかアイドル並みに整ってる。
下を探しても「イケメン芸人」「イケメンぽっちゃり」レベルで充分モテそう。
それに対し俺なんて糞もやし黒髪短髪普通の身長。
見渡す限り美男美女のなか、しょっぱい顔してる俺は外国人に見えるだろうなぁ!
「そ、そう? この国の男性はみんな『イケメン』だなーと思うよ。」
「そんなことねーよ~、俺がイケメンだったらモテてたわ。」
お!!
「イケメン」が通じた!
やっぱり、俺の世界の若者言葉? みたいなのが通じる時がある。
俺は彼との会話で「ウケル~」とか「マジか!」とかを小出しにして、反応を見る。
そうやってどんな言葉が通じるか実験をしているのだ。
ありがとうアイヌマ。
この日の午後の講義は数学。
まさかこの世界に来てまで数学を勉強するとは。
ただ、10進法やら四則演算は俺の世界と同じでよかった。
その他の講義はぜんぜん違う。
「モンスター学」「魔法歴」「デュエル理論」「実技」「魔法デザイン」
などなど。
ファンタジーな内容でワクワクするぜ。
そんなこんなで今日の講義を終え、帰路につく。
オリティアがつけてこないか注意をしながらこっそり正門まで向かう……
「おい待て」
!?
野太い声で引き止められた。
振り返るとそこには、身長2メートルくらいの大男が立っていた。
「オトバさん! こいつです! 黒髪でナヨナヨした男!」
おい失礼な。
いきなりなんてこと言うんだ。
事実だけど。
「新聞部によると、こいつがオリティアに勝ったとか!」
大男の横にいた背の低いスネオみたいな男が、大男に伝える。
「ほう……本当か?」
「いや、勝ったというか偶然と言うかえーっと……」
こいつは面倒なやつに捕まった。
勝ったというと何されるかわからない。
誰だよ新聞部とか。
変な噂流してんじゃねーよ。
ここはデュエルふっかけられても逃げたほうがいいか。
「こいつ『DP』は少ないが……?」
「へえ、でもDPではなくて別のものを賭けてデュエルしたとか聞きましたよ!」
『DP』デュエルポイント。
協会公認の【VLD】デュエリストにはDPが配布されている。
ここの生徒ももちろんVLD選手に正式登録されており、それを賭けて戦うことができる。
すでに入学時からDPが多い生徒もいれば、DPがマイナスの生徒もいる。
学生証があれば目の前の人のDPが読み込めるので、マイナスなら外を歩けないだろう。
このDPが高い学生は、「学生ランキング」にランク付けされているらしい。
「そうか……あの全国7位のオリティアに勝つとは。
つまり貴様に勝てば7位に勝ったも同然ということだな?」
「オトバさんは15位! これで一気に8位昇格ですね!!」
「……余計なことを言うな。」
「す! すみません!!」
いや、俺に勝っても一気に昇格はしないだろ。
なんだこの見事な番長と舎弟みたいな関係は。
この世界は昭和漫画か?
「貴様。俺とデュエルしろ。」
「いや、お断る!! 俺は忙しいしお前の思ってるようなやつじゃないよ。」
「ほう……そうか。そう言うならば仕方ない。
貴様は女としかデュエルしない腰抜け野郎だったか。」
うわーーーー!
出たよ腰抜け野郎発言。
どこのタイムスリップ映画だよ。
そんな使い古された手に引っかかると思うのか?
元の世界で高校時代、俺はクラスの中でも日陰者。
小さい頃から喧嘩なんてしたことない。
こんなヤンキーに凄まれたらビビって逃げてただろうな。
ただ、この世界はデュエル力(?)がものを言う世界。
こんなやつ……
まあ……
だけど……
だったら……
「何……だと……? 誰も……俺のことを腰抜けとは呼ばせない!!」
「よし、それでこそ男だ!
Wette(賭ける)! DP500!!」
「俺も!
Wette(賭ける)! DP500!!」
あ。
やっちまった。
とてもきれいに釣られてしまった。
「「DECK ON!」」
俺は赤いデッキケースを前に掲げた。
ヤンキーとの喧嘩ではない、正式なDPを賭けたデュエルが始まった。
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