第三話 VS番長

3-1 賢者様


「はい、はい、ええ、それは……」


 ここは赤国エボカー学院・生徒指導室。

 女の子とデュエルをした、あのあとすぐ。

 始業式前に騒ぎを起こしたとして、俺は教師と思われる人たちに連行された。


 繰り返される質問攻めに、涙目になりながら答える。

 ただなぜか、オリティアと呼ばれていたあの子は来ていない。ずるい。


「生徒手帳を持っていないし登録もない。不法侵入ということになるが?」


「いや違うんです! これにはワケが……」


 オールバックの偉そうな雰囲気のおじさんが詰め寄る。

 おそらく雰囲気的に講師教授ではなく、管理者側の人間なんだろう。

 ただ、博士のことは言えない。

 言うなと言われている。


 ちなみに俺をこの世界に呼んだ魔法使い・ヴェアロック。

 俺は親しみを込めて"博士"と呼ぶようにした。

 彼女の発明品が気に入ったのと、あまりにテキトー発言が多いためだ。


「なんの騒ぎですか?」


 おっと、また新しい偉そうな人が登場。

 場の空気が一気に変わった。

 黒髪ショート眼鏡の男性。

 ファンタジーっぽくないビジネススーツを着てる先生方とは違い、肩に気合が入ってる服を着ている。

 肩と胸だけに甲冑を装備していて銀色で綺麗な装飾がされている

 大きな青いマントを着ていると思ったが、フードがあるし袖もあるからあれはローブか。

 中の服はRPGに出てくる僧侶っぽい、前掛けみたいなエプロンみたいな布が膝まで垂れてるアレだった。


「賢者様!!」


 なんと。

 この人が賢者様か。

 編入手続きをゴリ押ししてもらうため、今日会う予定だった人物だ。


「あ、ええと俺は……」


「もしかしてリクシン君かい?」


 返事をした。

 すると周りの先生方は驚き、お知り合いだったんですか、なんて質問していた。

 賢者はみんなに謝った後、俺を部屋の外へ連れ出してくれた。

 すごい。

 あんなに怪しまれて突っ込まれたのに、鶴の一声で一発だよ。

 全員ビシッとしてたし理事長か何かか、この人は。


 賢者様は建物の外へ行く。

 俺もそれについていった。

 さっき通ってきた道を左に。

 今いたのが本校舎だから、あれ? もしかしてこっちが第二棟?

 やっぱり間違ってたか。


 本物の第二棟だと思われる建物の四階に会議室はあった。

 そこに連れられ、椅子に座らされる。

 賢者は向かい側の椅子に。

 なんか面接みたいで緊張する。


「話は魔女から聞いてるよ。キミがリクシン君だね?」


「魔女!? ……は、はい。」


 魔女? ヴェアロックの事か?

 あいついろんな名前で呼ばれてんな。


「そうかー、君が異世界から来た、うんうんそうか~。」


 どこかうれしそうに俺のことをマジマジと見てくる。

 はっ!

 まさかお前も勇者様が好きだったとか……!


「ああ、ごめんね。自己紹介をしていなかった。私の名前は『三代目ドラフロント』。

勇者と行動を共にした、賢者ドラフロントの孫に当たるね。」


 なんだそのオラついたお兄さん集団みたいな名前は。

 でも賢者って聞いてたから硬い人かと思ったら、けっこう気さくに話しかけてくれる。

 いい人そう。


「それで……どこまで話を聞いてるんですか?」


 まさか、赤石を盗むとこまでじゃないだろうな。


「どこまでって……君をこの学院に編入させたいけど、実績が無いからどうにかならないかって。」


「そう、それなんですけど。」


「私で良ければ力になるよ。ちょうど今日は始業式だしタイミングはいい。」


 そう言って賢者は壁にかけられてる大きな鏡に手をかざした。

 すると鏡の中に映像が浮かんできた。


「え、なんですかこれ!」


「これは今、集会館で行われてる始業式だよ。」


 そこじゃない、鏡の魔法の話なんだけど。

 鏡には俺と同じ制服の生徒が、何人も並ぶところが映されていた。


『……以上です。ありがとうございました。』

『第53期生 オリティア・レッドマインさんでした。ありがとうございます。』


 鏡から音声も聞こえてきた。

 これもう丸いTVと言ってもいいかもしれない。

 俺の住んでる部屋にもほしい。

 ん?

 今聞き覚えのある名前と声が聞こえた気が。

 眉間にしわを寄せてガン見してたら、賢者様が答えてくれた。


「彼女かい? 彼女はオリティア・レッドマイン。君が入る第54期の一つ先輩だよ。

53期生のリーダーを努めているし、『赤石』を守ってきた『炎の巫女』の末裔だよ。」


「え! ……へー、じゃあいいトコのお嬢様ですか?」


「そうだね。それにデュエルも強い。」


 マジか。

 そんなすごい人が初デュエルの相手だったのか。

 しかも一学年上。

 年下かと思ってた。

 確かにネクタイの色は薄いオレンジ。

 俺らの学年は薄い緑らしいけど気が付かなかった。


 ……そもそも着替え中だったからネクタイ無かったか。

 いやそれより「赤石を守ってきた」って。

 つまりあいつは敵になるってことか。



 その後、編入の最終確認を通してもらうこと。

 生徒じゃないのに野良デュエルしちゃったことをごまかしてくれること。

 学院本部、教授や講師陣に根回しして怪しまれないようにすること。

 いろいろ助けになってくれた。

 そして異世界の話をあとでゆっくり聞かせてね!と言い残し、賢者は去っていった。



◆◆◆



 午後のガイダンスみたいなのにしれっと出る俺。

 第一棟の広い講義室に生徒が集められ、一年の流れを説明しているようだ。


 ちなみに俺はこの世界の文字が読めない。

 それでも規則性はわかってきた。

 ひらがなっぽいのと漢字っぽいのが存在するので、組み合わせは日本語に近い?

 ってかそもそも日本語通じるって何だ。

 転移するとき自動翻訳機能でも備わったんなら、文字も翻訳してくれっての。


 そして放課後。

 この日はガイダンスだけで、講義は次の日からスタートする。

 なんとなくカリキュラム的なのはわかったけど、ついていけるか不安。

 まあ赤石を盗むまでの数週間、なんとかなるだろう。

 そんなことを思って歩いて帰宅してると……後ろに人の気配。


 なんだ?

 やましいことがありすぎて、尾行される心当たりは充分ある。

 家までついてこられるのは嫌だな。

 ここは怖いけど、立ち向かおう。

 少し早歩きで建物の角まで行き、曲がる。

 そして一気に振り返る。

 すると……


「きゃっ!」


「あれ? 君は確か……」


 赤い髪のツインテール。

 俺と同じ制服に、オレンジのネクタイ。

 オリティアと呼ばれていた女の子だった。

 まさか!

 今朝の話か!?


「いやまって! ごめんなさい! 警察だけは勘弁し」


「あの、これは、その……どうしてもあなたがやっていた特殊な召喚方法が知りたくて……」


 あれ?

 てっきり更衣室を覗いたことを根に持って、訴えに来たかと思った。

 そっちじゃなくてカードの話か。

 更衣室に関しては忘れてるようだから、ぶり返さないようにしておこう。


「ああ、え? 特殊な? いやいやあれは偶然というかルールの抜け穴というか……」


 まずいな。

 その辺を説明するとボロが出そうだ。


 『白石』の出力はかなり抑えてある。

 この魔法石の魔術回路を通したとき、体が耐えられず気を失ってしまった。

 そんな弱っちい俺はしばらく慣らして、いざという時に開放したほうがいいらしい。

 その無魔力人間の俺が《リリース》によって解放され、流れ込んできた魔力に耐えられる。

 理由はよくわからんが、それはこの『白石』のおかげだと思う。


「あ、そうだ、デュエルで俺がもらっちゃったこのデッキケース、中身入ってるんだけど。

無いと困るでしょ? 返すよ。」


「な……何言ってるんですか! デュエルのルールは絶対! そのデッキケースはあなたのものです!」


「いやでも中身……」


 実はこのゲーム、意外と危険。

 デュエルで最初に賭けたものは確実に勝者の手に渡る。

 魔術師が自己を犠牲に、最大級魔術を行使する際に結ぶ「誓約」。

 それに近いものが適用されているらしい。

 さらにデュエルに入ると途中で降りることもできない。(降参可能)

 周りの人から助言されたり、妨害されたりもしない。

 それがデュエルの「誓約」なので、どんな魔術よりも上位クラスの効果ということになる。

 だから無用に、魂をかけてデュエルするぜ☆とか言えないのだ。


「いいえ! それよりも召喚の……あ!!」


 目を離した隙に全力ダッシュ!

 コミュ障にはこれ以上はきついぜ!

 俺は彼女をまくため、ワザと遠回りして自宅に帰った。

 これ以上は全部言っちゃいそうだし、自慢しそう。

 可愛い子とカードの話なんか元の世界だと滅多にない。

 楽しそうに会話しちゃったら、仲良くしたくなるじゃないか。

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