12-2 領域の外側


 デュエル空間は古城の屋上。

 赤い三角屋根の塔が周りに数本並び、城壁は崩れかけている。

 空は晴れてはいるものの、雲の動きが早い。



セキセキ! セキセキ!



「おお、何だ!?」


 スマホのアラームが鳴った。

 これは博士が作ってくれた《赤石探索アプリ》だ。

 ちゃんと反応するんだな。

 ということは、やはり本物の赤石を持っているということだ。


「フォロウ・ランライン、まさか本当にあなただったなんて!」


「フォロウさん、何で!」


 え、この子達信じてなかったのか。

 イケメンにだって悪いやつはいるよ!


「僕には目標があるんだ。大きなね。」


「……魔界へ行くこと……!」


「そう。」


 タタミの調べた通りだった。

 フォロウはやはり、魔界に行くことへの思いがあるようだ。


「魔界なんて行ってどうすんだよ。ってか行けるのか?」


「うーんそうだね、デュエルの前に少し話していいかい?」


 俺達は全力で頷いた。

 このイケメンは何を思って魔界なんかに興味があるのか。

 赤石を奪うという危険を犯す理由があるのか。


「まずクラウさん、この国から海を超えてずっと南に行くとどこに着く?」


「え? えっと、海を超えて……現界領域まで行ってしまいます。」


「そう。この世界の果て、現界領域にたどり着く。」


 ちょっとまて、俺ついていけない。

 何だ、げんかい領域って。


「でも、もしその先に世界があるとしたら?」


「何言ってるのよ。

マジドラシルの魔力が及ばない場所に、地上が存在できるわけないじゃない。」


 よし、俺の長年のオタク生活から培った推理力でこの会話を解読しよう。

 世界の中心に世界樹マジドラシルがあるのは知ってる。

 たぶん限界?……現界?の領域ってのは世界のOWARI、最果ての事だろう。

 つまりこの世界はまさかの天動説ってわけだ。

 そしてフォロウの言う「その先」。

 これもよくある「壁の向こうの世界」ってやつ。

 ハンター漫画とか巨人駆逐漫画であるやつだ。

 世界樹の魔力範囲が人間の生活可能圏だと思ってたら、その先があるかもって話と見た。


「えーっと、もしかして領域の向こう側が魔界だって言いたいの?」


「そうだけど少し違うかな。

そもそもこの世界が『魔界の上に創られた世界』だと僕は思う。」


「創られた……」


 その言葉は最近聞いた。

 オシマも同じようなことを言っていた。

 普通の人は冗談だと聞き流すかもしれないが、俺達には心当たりのある話題だ。


「そ、そんなこと何で分かるのよ!」


「僕は小さい頃から『モンスターの声が聴こえる』という能力を持っていた。

僕の祖先の偉大な召喚術師が同じ力を持ってたみたいだね。

今となっては召喚術も廃れて必要無くなった力だけど……。

ある日、VLDのユニットからも声が聴こえるようになったんだ。」


 そう言ってデッキケースを見つめるフォロウ。


「どのユニットも個性豊かで楽しそうに戦うけども、時たま『助けて』って声が聴こえて。

勇者様に魔界が封印されてから会えなくなったモンスターがいると伝えてくるんだ。」


「それで魔界の上から人間界が上書きされて、魔界の一部が封印されたというお考えですか?」


「そうだね。魔界が封印される前は人間界と同時に存在していた。

でも人間は最終的に、自分たちの都合で魔界を消し去ってしまったんだ。」


「んなアホな……」


 話がファンタジー方面にぶっ飛びすぎてわけがわかんない。

 ちょっとファンタジー風味な、カードゲームが流行ってる世界じゃなかったのかよ。


「人間は遥か昔、モンスターと共存していたのは知っているよね?

お互いの生活圏を守り、それを脅かしたものだけが狩られてしまった。」


「でも人間界に住む大型モンスターが消えたのも、狩りをしすぎたと言いますね……」


 狩り?

 ん?


「はい質問!」


 大きく手を挙げる俺。


「昔は人間と大型モンスターが同じ世界に住んでた。

で、モンスターがいなくなった後は魔界からモンスターが攻めてきたって事?」


「そうだね。歴史の授業で習わなかったかい?」


 え。

 マジか。

 昔は「狩りゲーム」みたいに生活してて。

 そのあと「ロールプレイングゲーム」みたいに魔界から魔王が攻めてきて。

 で、今「カードゲーム」が流行ってる……



―――――――――――……

「その本質も知らずに何が召喚師だ。」

「なのに国民は操られたかのようにこのゲームに熱中している。異常だとは思わんかね?」

―――――――――――……


―――――――――――……

「私がッ! この世界を創り変えるのだ!! あの男のように!!」

「この世界は奴の玩具では無い――――――」

―――――――――――……



 ……少し分かってきたかもしれない。この世界のこと。

 でも一体誰が? 何の目的で?


「僕は確かめに行く。外の世界へ。そのためにはこの赤石の魔力が必要なんだ。」


「わからない、何が本当なのか、あなたが何をしたいのかわからない!

でも今、私たち人間は平和に生活しているのよ? 真実を知ってどうするのよ!?」


 オリティアが問いかける。

 それは彼に向けてるのか、この世界の闇が見え始めた自分に向けてるのか。

 創られた世界。

 その言葉を父親からも聞かされ、今も聞かされ。

 平和な世界が嘘に見えてくる。


「誰がなんと言おうと僕の決心は揺るがない。

そしてリクシン・ニシオ君。君が持っているもの全て、僕の計画に使わせてもらう。」


 今までの会話モードから切り替わり、本気モードになるフォロウ・ランライン。

 彼の周りから赤いオーラのようなものが漂い始めた。

 あれはもしかして赤石の魔力だろうか。


 正直この世界の話はどうでもいい。

 それよりも目の前の標的に全力を出す。

 白石の魔力をこのまま開放し続ける事で、デュエルに魔力の差は無くなる。

 デュエルの腕と運だけで勝負。


「さあ、長話しすぎたね。

この話を聞いて、僕の考えに賛同してくれればいいんだけど……」


「すると思うか?」


「……そう言うと思ったよ。」


「リクシン!」

「リク君!」

「りっくん……!」


 みんなが俺を心配してくれている。

 前置きで色々言われたが、やはり戦わなければ現実世界へ帰れないってことがわかった。

 さあ、チャンピオンとの戦いだ。

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