第十二話 VS主人公

12-1 チャンピオン


 後日。

 ここはみんなだいすき第二棟屋上。

 メインの本講義棟や立地の良い第三棟と違い、当時の予算的に小規模な建物になったそうな。

 それで講義や研究などがほぼ無く、小規模な会議程度にしか使われない。

 だからこそ人気が少なく密会にはちょうどいい。

 俺達のベストプレイス。


「やあ。みんな揃ってどうしたんだい?」


 爽やかだがミステリアスな声。

 俺、オリティア、タタミ、クラウが四人で屋上へ行くと、その人物はいた。

 サラサラな淡い金髪、真っ白な肌。

 今日はちょっと暑いのでブレザーを着ず、ネクタイを緩め第2ボタンまでシャツを開けてる。

 イケメンだけに許される格好だ。

 この人が学生VLDチャンピオン「フォロウ・ランライン」。


「ほらリクシン、イケメンは待ち合わせには時間前に来るのよ。」


「なんだよそれ、遅れてなければいいじゃねーか!」


「……これが『差』だね。」


 くそ、こいつらは誰の味方なんだ。

 クラウに今日ここへ彼を呼んでもらった。

 大事な話があるという曖昧な理由で人気のない第二棟に呼んでみたが、意外とあっさり来てくれた。


「ふふ、楽しそうだね、オリティア様。」


「え!? べ、別に楽しくないわよ!」


 赤面しツンデレセリフを言うオリティア。

 そうだった、こいつは俺ら以外には猫を被ってるんだった。


「今日僕をここに呼んだ理由は?」


「はい。フォロウ・ランラインさん、あなたにお尋ねしたいことがあります。」


 真面目な顔で質問するクラウ。

 それなのに横からオリティアが喋りだす。


「あなた、VLD大会のセレモニーのときデッキケース持って無かったわよね。

身体検査を担当していた警備員に聞いたわ。

前年度VLDチャンピオンたる者がどうして普段から身につけていないの?」


「ああ、その時はデッキ調整中だったんだ。それにあんなにデュエリストが集まる舞台。

デッキを持っていたら挑戦者が後を絶たなくてね。」


 にこやかに困った顔をするフォロウ。

 ちくしょう王者の自慢か。

 今度はクラウが続きを喋る。


「確かにあなたがデッキを持っていないということは、一部の生徒に知られていたそうです。

それで注目は他の前年度上位ランク者に向かれていました。

そして問題が起こった時……あなたはどこにいましたか?」


「どこにって、壇上にいたよ?

あんなに近くにいて目の前で盗まれるとは悔しかったね。」


「ええ! 私もあんなに近くにいて気づかなかったわよ!」


 オリティアが割り込み、強い口調で言う。


「ランク5位のヤンカ・グリンが腰を抜かしてた事に気を取られていたわ。

私はあの時、あなたを見ていない!」


「何を言い出すんだい? 気のせいじゃないか」


 フォロウが言い終わるかどうかのところで、タタミがついに喋る。


「……フォロウ・ランライン。……20歳、赤国生まれ。

……親は貿易商社を経営してる……元々は魔術師の家系でVLDを学ぶ環境も整っていた。

……三年連続VLDの学生チャンピオン……この学院に入ってから一度も負けてない。

……勝利インタビューでは『ユニットの声が聴こえた』なんて答えてた事も。」


 ひっさびさにタタミんの長文を聞く。

 相変わらず聞き取りづらいが、みんな食い入るように聞いていた。

 てか三年無敗ってどんだけ強いんだこの人。


「君は新聞部の子かな? よく調べているね。」


「……ウワサでは本当に……ユニットの声を聴いて会話をするように戦ってるとか。

……あと魔界に興味があって……いつか行ってみたいと言ってたとも聞きました。」


 珍しいタタミんの敬語。そういやこの人上級生だった。

 魔界に行きたいとか、ますます怪しいこと考えてそうだな。


「うーん。否定すると嘘になってしまうというか。

そうだね、僕にはユニットから声が聴こえるときがあるんだ。

信じられないと思うけどね。」


 おおっと。

 きたきた。

 カードゲーム漫画でよくある「カードの声が聴こえちゃう」人。

 そういう病気な人もいるかもしれないけど……この世界の場合は本当にありえる。

 先日マジで魔界一歩手前まで連れて行かれたわけだし、ここに信じない人はいないと思う。


「それで何が言いたいんだい?

今みんなが言った想像と僕の性格から、まさか僕が……赤石を盗んだ犯人とでも?」


 察しがいいな。その通りだ。

 しかし確かに、今説明したのは当日の状況と犯行動機の予想。

 魔界に興味があるから赤石を使って何か企んでいるんじゃないか。

 貿易会社で世界的に顔の広い親を持ち、魔界へ行く手段を知ってるんじゃないか。

 当日はデッキケースを持ってないふりをして持ち込んだんじゃないか。

 そしてオシマ・レッドマインの言葉。

 これらは全て想像で、証拠はない。


「あー、そうだよ。証拠になりそうな物もないし疑って悪いと思ってる。

だけどこっちもどーしても赤石を取り戻さないといけなくてね。

なりふり構ってられないのさ。」


「そういうのは警察に任せたほうがいいんじゃないかい? 僕も協力するよ。」


 しっかり俺と目を合わせるフォロウ。眼力がすごい。

 やっぱり犯人ではないんじゃないかと思えてくる。


「フォロウさん、お願いです。本当のことだけ言ってください。

あまり手荒なことはしたくありませんので……」


「手荒? ちょっとまってくれよ、僕は何も知らないんだ。」


「知らないで済んだら警察はいらないってね(?)

でも警察に突き出すまでは行かないよ。たぶん。俺らもこんなもの持ってるし。」


 俺は鞄から黒いデッキケースを取り出す。

 彼の目が一瞬見開いた。

 この反応、やっぱりこれを知ってるみたいだ。

 急に彼の目つきが鋭くなる。


「それは……君たち、どこでそれを?」


「お、ということは細かく説明しなくて済みそうだな。ちょっと試したいことがあってね。

このアイテムに『強制賭けデュエル効果』があるだろ? それであんたにデュエルを挑むんだ。

そっちの対象は『赤石』。それで賭けが成立したらあんたは黒ってことになるね。」


「そうか、使い方まで熟知しているのか。

でも仮に僕が赤石を持っていたとしても、それに釣り合う品物は出せるのかい?」


「ああ、あるよ。」


 俺は制服のネクタイを緩め、首に下げてるペンダントを表に出した。

 『白石』のペンダント。


「……それは?」


「こいつはなぁ、『白石』ッ!!」


 ペンダントを握りしめ、強くつぶやく。

 すると俺の周囲を白いオーラのようなものが包み込む。

 さすがのフォロウも驚きの顔を見せ、一歩下がる。


「これはかの有名な【魔女の獄炎】を起こした魔法使い・ヴェアロック様の力作だ。

『赤石』と同等の力を持つ、魔石のレプリカだよ。」


 もっとも赤石と比べて魔力はだいぶ落ちてるけど。

 それでも相手を騙すには充分、ここからが勝負。


「取引しようぜフォロウ・ランライン。俺達は見ての通りヴェアロック様と繋がっている。

そこで得た魔界の情報を全部、あんたに教えるよ。

そのかわり赤石を譲ってくれないか? ま、持ってたらの話だけどね。」


 魔界の情報なんであまり持ってない。

 しかしここで取引ができれば、この人とのデュエルを回避できる。

 さすがにチャンピオンと戦うのはリスクが大きすぎる。


「フォロウさん!」

「フォロウさん……」


 彼女たちも困った顔でお願いする。

 取引の現場でお願いはあまりよくないけど。

 女性を大切にしそうなイケメン、応じてくれるか……?


「……そうだね。まず君たち、この取引は情報が曖昧すぎる。

その魔石の魔力は説得力あるけど、それがあの魔女の物だって信じる根拠は?

もし僕が犯人じゃない場合、情報を簡単に開示してよかったのかい?

残念ながら取引と呼べるものになっていないよ。

取引を家業としてる僕に対して、その選択はミスだよ。」


 だめか。

 やっぱり強制的にあぶり出すしかないのか。


「あと、もう一つミスを犯しているね。


――――僕に勝てると思うのかい?」


 フォロウが右手を開くと、そこに手品のように黒いデッキケースが現れた。


「きゃっ!」

「フォロウさん!」


 彼女たちが驚く。

 俺も驚く。

 この瞬間、彼に完全に空気を持っていかれた。


「悪いけどその魔石と魔界の情報、いただくね。


Holen Wette(賭けてもらう) 君が持っている魔石と情報。


Wette(賭ける) ……僕の赤石。」


「くそっやられた!」


 デュエル同意のレーザーが、お互いの黒いデッキケースを結ぶ。

 もちろん同意などしていない。

 すでに周囲の景色が変わり始めた。


「DECK ON!」


「まあしょうがない、DECK ON!」


 実際にデュエルを挑むのは変わらないが、主導権の違いは"空気"の流れに影響する。

 カードゲームは手札運と戦略が全てだが、その運が"空気"に依存するように感じられる。

 オカルトチックな考えだが、それさえも掌握してしまうのがチャンピオン。

 俺はこの空気の中で戦えるのか。

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