5-4 魔力ランキング


「……早速調べてみたよ。」


 二日後。俺の家。

 タタミが調べてほしかった資料を持ってきてくれた。


 そもそも今回の交換条件で俺らが出した情報。

 まず改造したデッキケースで、周囲を巻き込み強制トレーニングモードが出来るアイテムの存在。

 それと発動するために、膨大な魔力が必要なこと。

 国家召喚術師があの空間にすぐ対応でき、戦闘離脱魔法フィールドエスケープが有効だった。

 そのためあれは幻術ではなく、VLDの空間、またはエンカウントを利用した魔法だと思われること。


 新聞部が掴んだ情報。

 同じく、召喚術師による犯行説が有能。

 賢者様もそうおっしゃってたらしい。(それ伝えたの俺じゃね?)

 最近巷で「強制的に賭けデュエルをさせる効果」を持ったアイテムの噂を聞くらしい。

 暴力団関係者の間で流れているとか。

 その内容が、今回の事件と関係してそう、との事。


「……これがランキング。……定期魔力測定とか、公式大会の記録からまとめてみた。」


「へー、やっぱり知ってる顔ぶればかりね。」


 テーブルに置かれた資料に顔を近づける、俺とオリティア。

 タタミには「学生内魔力量ランキング」を作ってもらった。

 ヤクザを調べるのは置いといて、ひとまずあの現場に"膨大な魔力を持った生徒"がいたか知りたかった。


「……まずDPランキング26位の『カミーノ・エイサ』。」


「あー。こいつに盗めるとは思えないわ。貴族出身だけど魔力だけ。魔法もVLDもうまくないわ。」


「オリティア、知ってんのか。」


「ええ。私にしつこく迫ってきた上級生よ。」


 ああ。

 あの豚のように罵って心を折ったと噂される相手か。


「……その上が……DPランキング5位『ヤンカ・グリン』。」


「あーナイナイ。ステージの上で見てたけどビビって腰抜かしてたからね。デュエルは強いけど。」


 なんだこの女は。貶すことしかできないのか。

 その他にも学生で数人、魔力量の多い人物が紹介された。

 ただ多い、とは言っても国家召喚術師クラスには遠く及ばない。

 届くとしたらここからだそうだ。


「……この人から上は魔力量が桁違い。……DPランキング23位『クラウ・ストンマイン』。」


「クラウかー。あの子には無理じゃないかな~。」


「この人のことも知ってるの? でも桁違いってすごい人じゃないの?」


「ええ。クラウは私の従姉妹よ。」


「なんと! 炎の巫女の血だったか!」


 そりゃ魔力量も多いわ。

 でもランキング23位って、デュエルは不得意なのかな。

 炎の巫女本家?であるオリティアは、使い慣れてないデッキで7位なのに。


「……その上を行く魔力量が、オリティア・レッドマイン。あなた。」


「わお。私こんなに上位だったんだ。」


「お前やっぱ怪しいな。二重人格だし。」


「は?焼くわよ?」


 しかし炎の巫女の末裔である彼女より、もっと上の人がいるらしい。


「……今、学生の中で魔力が一番強いのは……DPランキング1位。『フォロウ・ランライン』。」


「1位! 魔力もVLDも強いって何者なんだこいつ。」


「元々偉大な魔術師の家系だったけど、今では有名な貿易商社を同族経営でやってるわね。

その家のお坊ちゃまだったはず。」


「お~? 貿易とか社長息子とか怪しくないかこいつ。何でも手に入れたい性格みたいな。」


「彼は無いわよ。」


「……あの人は無いね。」


 女性陣二人に口を揃えて否定される。


「はあ? 何でだよ。」


「品行方正、さわやかイケメン、常に至高のデュエリストを目指す努力家よ?」


「……女性人気もかなり高いとか。」


 ※ただしイケメンに限る

 くそ! そういうタイプか!

 これだから女は!

 そいつとは友達になれそうにないな。


「はー、そうなの。」


「そうよ。あんたとは天と地の差ね。」


「なんだと! 俺だって至高のデュエリストを目指して毎日図書館で……。」


 おっと。元の世界のことを言うとこだった。

 しかも悲しいことになんの張り合いにもならない。


「……とにかくウチはもうちょっと学校内部を調べる。……あと噂の事も。」


「じゃあ私はセレモニー関係者の中に、魔力が強そうな人がいないか当たってみるわ。」


「俺は……他人の噂話に聞き耳立てる?」


「「…………」」


 まずい、俺がやれることない。

 学校内は新聞部。

 上層部は学年リーダーが調べてしまう。


「……リクシン君、誰かに近づけない?」


「そうよ。今出た人たちと仲良くなればいいじゃない。」


 簡単に言う。

 それが出来たら、元の世界で陰キャラにはなってないわ。


「え、俺がやるの?」


「私が近づいたら大げさだし、新聞部が近づいても怪しまれるし。」


「……怪しまれてリクシン君は……すぐ話してくれなかった。」


「いやそりゃそうだけど!」


「そうね、クラウあたりに探り入れてみればいいんじゃない?」


「……それいいかも。彼女、54期生リーダーだし。」


「え、俺らの学年のリーダーってその子だったのか! うーん、女の子か……。」


 最近女の子と話す機会が増えて、だいぶ免疫がついてきた。気がする。

 リア充のようにコミュ力を発揮することは出来ないけど、学年委員長に事務的に話すだけなら?


「じゃあ決まり! 報告のために定期的にここに集まりましょう。」


「……ココア用意しといてね。」


「だから勝手に俺の家を集会所にすんなっての!」


 大丈夫。ナンパよりは難易度低いはず。

 ただ話を聞くだけだから。

 頑張って女の子に話しかけてみよう。

 こうして俺は、情報を探るためコミュ障を克服しなければならなくなった。



◆◆◆



「あ、あ、あの、クラウ・ストンマインさんですよね?」


 次の日。

 俺はクラウさんに話しかけた。


 ここまで来るのが大変だった。

 まず学年が同じなので講義でよくすれ違うことはわかった。

 しかし特徴は聞いていたものの、本人かわからない。

 人違いだったら大変だ。……と逃げてしまうのがコミュ障の悪いところ。


 午前中、ストーカーのように周りをうろつき聞き耳を立てる。

 会話から話のネタを探していた。

 さらに話しかけるタイミングも難しかった。

 友達や先生と常に会話していて、人付き合いの良さが垣間見えた。

 コミュ障はこの、タイミングがどうしてもつかめない症状がある。


「はい、そうですよ? あら、あなたは。」


 放課後までかかり、やっと話しかけることができた。

 オリティアみたいに「は?キモいから話しかけんな」とか言われなくてよかった。

 オリティアもそこまで言わないけど。

 にこやかな笑顔で返事された。委員長系キャラか。


「あ、俺は編入してきた外国人の、リクシン・ニシオです。」


「ええ、存じております。編入なんて珍しいから噂になってましたの。」


「あー、そうだったんですか! これはお恥ずかしい。」


 ふんわりとした敬語で優しく話される。

 オリティアと従姉妹だけあって顔は似てる。

 しかし彼女より髪色は薄い。ピンク?

 髪の長さは肩よりちょい長め。サラサラ。

 身長はオリティアより高い。

 あとバストサイズもオリティアより大きい。学院トップクラスだろ。

 それに合わせて太ってるわけじゃないけど、ちょっとボディーはふっくらしてる。

 モデル体型ってよりはグラドルっぽい。


「えっと、編入してからリーダーさんに挨拶してなかったなーと思って。」


「いえいえ、私の方こそ挨拶していませんでしたね。」


「いいんですいいんです! まだこの国のこととか学院のこと、

分からないことだらけで迷惑かけるかもしれないんでね!

失敗する前に質問など出来たらいいなーっとね!」


「ええ。質問ならいつでもどうぞ。私も外国の話を聞きたくて喋りかけようとしてました。」


「あ、そうなんですか? いつでもいいっすよ! ありがとうございます!」


 コミュ障なので会話の最初に「あ、」とか「いや、」とかつけてしまう。

 理解していても咄嗟には治らない。


「ありがとうございます? ……はい、それではまた今度!」


「あ、はい! それじゃあまた!」


 とりあえず会話することは出来た。

 俺から離れていくクラウを見送り、ほっとする。



◆◆◆



「――それだけ?」


「はいオリティア先生、とりあえず今日は。」


 この日の夜、俺の家でまた作戦会議。

 今日のクラウとの会話を、二人に伝えた。


「……最初としてはいいんじゃない?」


「だめよ、もっと落とすレベルでガンガン行きなさいよ。」


「そんなスキル俺にあると思うか?」


「無いわね。」


「え、ああ、うん。……だろ? とりあえず少しづつ探り入れてみるよ。」


「うん、頑張って~。それじゃあお弁当食べましょう。」


 俺の話を適当にあしらい出したぞこいつ。

 しかもこいつら、ついに俺の家で晩飯を食い始めた。

 俺の家をなんだと思ってる。

 しかも親の料理や高級ディナーしか食ったこと無いようで、弁当屋の弁当に興味津々。

 俺だって大学では一人暮らし、料理はできるよ。元の世界なら。

 お前ら料理できないのか。女子力はどこ行った。

 俺も異世界で料理したら、異世界人に絶賛されるスキルが欲しかった……。



◆◆◆



 次の日から、クラウ・ストンマインと学院内で会うたび挨拶を交わした。

 時間が空いていれば、講義内容のトークなどもちょっとしてみた。

 それでも嫌がらずに会話してくれるクラウさんマジ天使。

 あまりにも狙いに行きすぎて、アイヌマから「彼女好きなの?」と誤解されてしまった。

 正直、巨乳は好きです。


「俺のせ……国では、三角形のクッキーにチョコをかけたお菓子があって……」


「チョコって何ですか!? クッキーはわかりますけど!」


 オリティアから聞いた情報。

 クラウはお菓子に弱い。

 めちゃめちゃ食いついてきた。

 なるほど、クッキーは存在するのな。


「独特な香り?と甘さが魅力の、黒くて温めると溶けちゃうみたいな……」


 あらためて説明させられると難しい。


「今度、それに近い味がする飲み物を紹介するよ。」


「本当ですか! ぜひ!」


「俺も甘い飲み物が好きでね。この国のハーブティーってやつも飲んでみたいわ。」


「甘いものが好きな男性って珍しいですね~。今度一緒に飲みに行きましょうか。」


 は!

 お誘いではないか!


「う、うん、楽しみだわ。俺の好きそうなハーブティーあるかなぁ。」



◆◆◆



「――で? 誘ったの?」


「まだです。すみません。」


 後日また俺の家。作戦会議。


「そういうのは、じゃあいつ、何処でっていうのを決めないと一生決まらないのよ。」


「おっしゃる通りで。」


「……社交辞令なだけかも……。」


「そんなバカな!」


 しかしこっちには武器がある。

 新聞部の情報網だ。

 美味しいハーブティーが飲める店、隠れた名店の情報は無いのか?


「……もちろんあるよ。……どの店にする?」


 さすが新聞部。

 しかもどの店って、複数思いつくのか。

 ……もしかしてこいつも甘いもの好きなのか。

 ココア飲んだときの反応異常だったもんな。

 こうして、俺とオリティアとタタミで、喫茶店に連れ出す作戦が練られた。



◆◆◆



「~~~っていうハーブティー専門店があるらしいけど、知ってる?」


「ええ、知ってますよ。」


 おい、新聞部。

 隠れてない名店じゃねえか。


「行ったことはないですけど。」


「あ、そうなんだ! 喫茶店を色々知ってる新聞部の子に聞いたから、気になっちゃって。」


「新聞部の情報ですか。それは信頼性ありそうですね。」


「そう! 行ったこと無いなら一緒に行かない? 男一人じゃちょっと……」


「ええ、次の休日ならいいですよ?」


 きたーーーーーーーーーー!!!

 きたよ! 誘えたよ!!

 ありがとうタタミん!

 君のこと疑って悪かった!!


「じゃあ次の休日、駅前のバス停に集合で!」


「はい、わかりました。楽しみにしてます!」


 はああああ、ついに誘ってしまった。

 あれ?

 もしかしてこれは……デート!?

 どどどどうしよう! 着ていく服がない!

 彼女らと相談しないと!



 ちなみに。

 この世界の学校は、小中大しかない。

 小6年、中4年、大4年。

 われらが「赤国エボカー学院」は大学相当。

 大学2年生だから、元の世界で考えると……

 JK3年!!

 俺大学生だけどJKとデートできんのか!!


 その日から俺は、当日まで寝れない夜を過ごした。

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