7-4 帰り道


 ヤクザたちが逃げて数分。

 だいぶ落ち着きを取り戻す。

 夕日も沈みかけで、大きい建物に囲まれてる路地裏は暗くなってきた。

 風もちょっと冷たい。


「もう、大丈夫です。」


「うん、そうか。じゃあ帰ろう。」


 クラウも落ち着いたようだ。

 俺は立ち上がり、彼女も立ち上がる。

 あ、そういえば忘れてることがあった。


「えーっと、そうだ。……パンツ履いていいよ。俺向こう見てるから。」


「え! あ、はい、すみません!」


 彼女は照れながら下を向く。

 帰り道で風が吹いてスカートめくれたら大変なことになるからな。


「ひゃあ!」


「え! どうした大丈夫か。」


 危ない、振り向くところだった。


「だ、だ、大丈夫です。えっと、もう振り向いていいですよ。」


 俺は振り返って彼女を見る。

 少し顔が赤い。


「よし、じゃあ帰ろうか。そっちがバス通りだっけ?」


「はい。」


 本来近道しようとしていた路地裏を抜け、バス通りに出る。

 民家もまばらで畑だらけだが、バスが通れそうな太い道に出た。


 すると。

 強い風が吹いた。


「ひゃあああ!!」


 しっかりスカートを抑えるクラウ。

 強い風だがスカートがめくれるほどではないはず。


 ……ん?

 えーっと。

 俺のギャルゲ経験から分析すると、もしかしてこの子は……。


「えっと、あそこがバス停です! 早く行きましょう!」


「お、おう。」


 バス停は道を挟んですぐ反対側。

 喫茶店からこんな近くにバス停があったなんて気が付かなかった。

 俺らはまったく何も通らない太い道を横断し、バス停で待つ。

 この道はバスの他に、ファンタジーらしく馬車とか竜車とか走ってるんだろうか。


 数分後、ファンタジーな乗り物は通らなかったが、バスが思ったより早く来てくれた。

 ホロ馬車のデカイ奴は何度見ても面白い。


「お先にどうぞ。」


 バスの入口でクラウが先を譲った。

 俺にあとから乗られたら困ることがある、と?


 先にいた乗客はじいちゃんばあちゃんが数人。

 俺達はまた後ろの席に乗った。

 窓側に座ろうとするクラウ。


「どうした? 座りなよ。」


「は、はい……ん!」


 座るのにも気合が必要なのか?


「どうしたの。イスが冷たかったの?」


「ええ、ちょっと冷たかったです。」


「暖かい季節になったけど、夕方は寒くなるからね。」


「はい。」


「スカートに染みができないといいね。」


「でもこの状態で座ったら濡れ……てません!もがっ」


 大きい声を出そうとするクラウの口を押さえる。

 落ち着いたところで手を離す。


「ごめんごめん悪かった! ええと、ひとつ聞いていい?」


「……はい。」


「正直に言ってほしい。」


「……はい。」


「パンツ、履いてる……?」


「……いいえ。」


 やはりか。

 俺の思い違いじゃなかったか。

 これなんてエロゲ。


「それはあれか? 下半身が履けない状態になってたとか?」


「えっ! ……は、はい。

ご……ごめんなさいごめんなさい! 助けていただいたのにこんなはしたない……」


「いいよいいよ。その状態だと履いたら気持ち悪いだろうね。」


 さわやかに答えたつもり。

 顔が気持ち悪くニヤけそうになるのを抑える。


「で、好きなの? なんていうか……露出?」


「ち、違います! 違うけど、でも、何でしょう。

恥ずかしさと悔しさと自分が置かれてる非現実感でドキドキするというか。」


「きっと素質あるんだよ。あの状況でドキドキできるなんて。

俺も見ちゃったしなぁ。俺の後ろで下半身全開だったし。」


「いやぁやめて!」


 クラウが俺の肩に両手を乗せ、顔を埋める。


「ああ、からかって悪かった。嫌なこと思い出させちゃったね。」


「その……自分でもびっくりなんです。あんな状況でこんな事になるなんて。

今も……リクシンさんに見られたことを思い出して……ドキッとしました。

命の恩人に対して、本当に申し訳ないと思っています。」


「恩人だなんてそんなぁ。クラウも勇敢に立ち向かったじゃん。

大丈夫、俺はそういう子が大好きだから。」


 優等生だが露出好き。

 そんな属性、エロゲではよくある。

 ギャップがたまらないよね。


「え、そんな、好きだなんて……。

えっと……じゃあ……見ますか?」



ペラッ



「なんちゃって。」


 ……いや、あの。


 普通に見えましたが。


 えーっと、今のは影。影でほとんど見えなかった。多分。

 紛れもなく陰影。……生えて?いやいや、影だった。

 理解を超える行動にはフリーズしてしまう。



ピンポーン



「えっと、私次で降ります! ここが近いので!」


「お、おうわかった。」


 奥の席から俺の横の通路に出ようとする。

 俺は最大まで奥に座り、クラウを通す。

 すると。

 バランスを崩し、クラウが俺の太ももの上に座ってしまう。


「あっ……んんっ!」


「おうふ!」


 危ない。

 座りどころが悪ければ折れるところだった。うまく収まった。

 じゃなくて、バレたか? 固くなってる上に思いっきり座られたけど。

 クラウはすぐに立ち上がり、廊下に出る。

 お尻をおさえながら。


「リクシンさん……」


「えっと、だって、その」


「うふふ、ありがとうございます。ではお疲れ様でした!」


「え! ああ、おつかれ?」


 バスが停まり、クラウが降りていく。

 「今日俺んちよっていかない?」と言えばよかったと後悔したのは、その後だった。

 リア充のような機転が利かないからいつまでもDTなのかしら。



◆◆◆



「で!! 何で『その黒いデッキケースを置いていけ』って命令しなかったの!?」


「あー、そういえばそうだったな。生きるのに必死だったわ。」


 後日。

 デート反省会in俺んち。

 当日の流れをみんなにある程度説明した。

 すると早速オリティアからダメ出しが飛んできた。


「今すぐヤクザを探してきて! もう一度命令し直しなさいよ!」


「そんな無茶言うなよ。」


「そうよオリティアさん。命があっただけマシなんだから。」


「「………」」


「……っていうか何でこの女がここにいるわけ!? デートに誘った意味は!?」


 今、俺の部屋にいるのは。

 このダメ出し女、オリティア・レッドマイン

 存在感の薄い新聞部、タタミ・ワンルーク

 そして、仲良くなった委員長、クラウ・ストンマイン

 何故か彼女もこの会に参加している。


「迷惑かけたってお礼のお菓子を貰ったんだけどさ。

その時に色々話しちゃって。そしたら力になりたいって。」


「話は全てお聞きました。微力ながらもお役に立ちたいと私が頼んだんです。」


 学生ランキング一位とも知り合いだし、人付き合いの多いクラウ。

 今回のヤクザの件も実際に体験したわけで、被害者を無くしたい思いは強い。

 従姉妹のオリティアと同じく魔力も高い。

 大きな戦力になるはずだ。


 それに赤石追跡の弱音を一瞬見せたところ、力になりたいとゴリ押しされた。

 忘れてたが、この子はおせっかいスキルを持つ委員長ジョブだった。


「それにしてもリクシン君? この部屋女の子多いですね。」


「……女の子を大量に連れ込むなんて……破廉恥。」


「たまたまだよ! 別に女の子をはべらせてる(?)わけじゃないよ!」


 タタミが久々に喋ったと思ったらそれか。

 俺は台所へ逃げる。


「で? あんたどうすんの。ランキング一位のフォロウさんでも引っ掛けるの?」


「……顔見知りなら、色仕掛けで……。」


「引っ掛けるって! まったくもうオリちゃんは。

それにしてもオリちゃんがこんなに気を抜いて喋るなんて久しぶりですね。

リクシン君の前だから?」


「なっ! えーっと、まあそうなるわね。あんなヘタレの前では取り繕う必要無いもの。」


「…………ウチもいるけど。」


「タタミちゃんは別だよ! 一緒に犯人を追う仲間って感じじゃない?

クラウこそ! お菓子で男子を釣って気に入られようなんて可愛いことしてくれるじゃない。」


「わ! 私は助けていただいたお礼に、私が選んだ最高級のお菓子を……」


「お菓子ばっかり食べてるから大きくなるのよ! ここが!!」



ムギュウ



「あぁっ、ちょ……オリちゃんっ……」


「はっ、この柔らかさ!」


「おい何やってんだよ、ヘタレとか言いやがって。」


 台所から居間に戻る。

 ココアを人数分用意して。

 クラウに飲ませるときっとあれだな。


「ふあああああああああ!!!

これがおっしゃってた飲み物ですか!? 想像以上です! クリーミーな味(以下略」


 予想通りの反応。

 ココアは美味しいけど、この異常な反応は怖くなる。


 こうして、おせっかいな委員長キャラ

 クラウ・ストンマインが仲間になった。

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