1-2 初の決闘


「私に勝てれば盗品ではないでしょう。逃げるなら盗品とみなしますよ?」


「決闘って……デュエル?」


「ええ。【VLDカードゲーム】のデュエル以外何があるんですか。」


 きたーーーーーーーーー!

 ツンデレ風ツインテールからの、

 ラッキースケベからの、

 炎魔法からの、

 二人で決闘!

 テンプレストーリーのバーゲンセールだあああ!!


 待てよ、でもここがカードゲーム漫画の世界なら。

 「いざこざをデュエルで解決」は割と普通かもしれない。


 彼女も腰にデッキケースをつけている。

 色は赤。

 その赤いデッキケースを腰から外して手に持ち、前に掲げて叫んだ。


「Wette(賭ける)! 私のデッキケース!」

「Holen Wette(賭けてもらう)! あなたのデッキケース!」


 彼女がそう叫ぶと、手に持っているデッキケースからレーザー光線のような光が発せられる。

 それは俺の腰につけているデッキケースへと繋がった。

 これがデュエルのお誘いのような物だと聞いたが。

 あれ、キャンセルする場合どうするんだっけ!?

 いろいろいじってるうちに、周囲の景色が変わってしまった。


 これは「デュエル空間」システム。

 デュエルする二人を包み込む、決戦の異空間。


「賭けは……成立ですね。」


「ちょっとまって! これやり方わかんなくて……うわもう始まってる!?」


 ヴェッテとかいう言葉は、どうやら賭けって意味らしい。

 これは「賞品を賭け」て「誇りを賭け」るデュエル。

 俺は意図せずに認証してしまったようだ。


 見渡すと建物や木々、歩道がなくなっている。

 足元の芝生はどことなく毛足が伸びたように感じる。

 学院の敷地ではなく、地平線の見えるどこまでも続く平原になってしまった。

 いつのまにか二人の距離も15メートルくらい離れている。


「さあ、どうしますか? もうサレンダー(投了)しますか?」


 遠くにいるのに彼女の声ははっきり聞こえる。

 まるで洞窟にいるような、声が響いてる感覚だ。


 ……まあ始まっちゃったものはしょうがない。

 この世界で流行ってるのが、空飛ぶ箒ラグビーとかじゃなくて良かったよ。

 偶然か運命か。

 俺は大学生にもなってカードゲームオタクだ。

 この世界に来て初の対人戦、やってみようじゃないか。


「いいよやってやんよ!」


「では、始めますよ。」

「DECK ON!」


「デ……デッキオン!」


 彼女と同じように、俺も腰からケースを外して前に掲げた。

 「DECK ON」というのがデュエル開始の合言葉らしい。


 お互いのデッキケースが光り、中からシャカシャカと音が聞こえ始める。

 中でデッキ(山札)がシャッフルされてるようだ。

 しばらくして、蓋を開けてないにもかかわらずケースからカードが射出された。

 最初に配られる「手札」となる5枚だ。

 さらにモンスターから身を守る「シールド」となる、5枚も追加で射出される。


 射出された手札は左手に集まってきたので、俺は扇形に広げて持った。

 一方、射出された「シールド」は、空中で5枚重なって畳サイズくらいまで巨大化。

 そして前方5メートルくらいの、相手との視界を遮る位置に下りてきて透明化した。


「先攻は……私みたいですね。ドロー。」


 そう言うと腰に装備し直した彼女のケースから、手札が一枚射出された。

 山札から一枚引くことを「ドロー」と言うが、このゲームでは勝手に手札に飛んできてくれるから便利。

 先攻後攻はランダムで決められるようで、一ターンごとに攻守交代する。


「手札の『サモンカード』を使い、下級ユニット[ドラゴン・キッド]を召喚。」


 言いながら手札を一枚、目の前の空間に"叩きつけた"。

 彼女は手札にある「サモン(召喚)カード」を使って[ユニット]を召喚した。

 このゲームではモンスターの事を[ユニット]と呼ぶ。

 "叩きつけた"と表現したのは、プレイヤーの目の前に「見えない透明テーブル」があるからだ。

 ここに置かれるとカードの召喚魔法が発動される。


 叩きつけたカードが光り、地面に魔法陣みたいな丸い模様が現れた。

 魔法陣は赤く光り輝き、そこから子供サイズの爬虫類人間が現れた。


[ドラゴン・キッド]

攻撃力2,000 守備力1,000


「私のターン終了、次はあなたの番です。」


「俺のターンだ! ドロー!」


 最初のターンは攻撃できない。そのまま俺の番に変わる。

 俺も同じように一枚射出されたものをキャッチ。

 手札が6枚になる。


 ―――――が、何もできず。


「うーん……ターンエンドを宣言する!!」


 ここでカードゲーム用語を紹介しよう。

 カードゲーム用語「手札事故」。

 手札のカードは状況によって出せるものと出せないものがある。

 例えるならトランプの大富豪で、3や4しか持っていない時などだ。

 このカードゲームでも、召喚に使うカードが無い場合は何も出来ない。


 今、まさに、それ。

 異世界人との初デュエルで手札事故とか、どんだけ本番に弱いんだよ。


「ふふふ……むしろこの運命が愛おしいとも思えるよ……」


「何を言ってるんですか? 何もしないなら私のターンです。」


 彼女は冷静にドローし、逆立つ赤い髪と長い耳が特徴の、エルフな男の子を召喚した。


[ファイアエルフの見習い戦士]

攻撃力1,000 守備力2,000


「では……あなたはユニットがいないので、直接シールドへ攻撃します。

行きなさい[ドラゴン・キッド]!」


 子供型ドラゴンが口に炎を溜め、吐き出す。

 バスケットボール大の火の玉が、俺めがけて飛んできた。



ボンッ! ボワァァァ……



「うわああああああ熱い! 熱っ……あ、そんなに熱くなかった!」


 透明になっていたシールドが炎を防いでくれたが、飛び散った火の粉で火傷はしない。

 モンスターで戦うと言っても、実はこの空間にある物はすべて幻影。

 魔力で作り出したVR空間みたいなものだ。

 しかし風圧や熱気は十分感じられ、臨場感は抜群。


 モンスターの攻撃力・守備力は数値化されている。

 また、俺を守るシールドカードも一枚「5,000ライフポイント」を持っている。

 俺はこのターン[ドラゴン・キッド][ファイアエルフの見習い戦士]の攻撃を受けた。

 攻撃力合計3,000、俺のシールドの合計ライフポイント、残り22,000。


 このゲーム、シールドが"無くなって直接攻撃"されたら敗北するルールになっている。


「ターン終了です。」


「俺のターン! ……この一枚に、すべてを賭けるッ!!」


 全てを賭けるのが早すぎる。

 起死回生の一手を願うドラマチックなシーンで、よくカード漫画の主人公が言ってるやつだ。

 でもこのままだとマジでゲームにすらならん。

 引かなきゃ負ける。


「ドローーー……来たああああ!! 残念だったなぁ、俺の本気はここからだよ!

今引いた下級サモンカードを使い、下級ユニット[スケルトン戦士]を召喚ッ!!」


 手札から『下級サモンカード』をテーブルに出して[ユニット]を召喚する。

 このゲーム、よくあるカードゲーム商品と違ってサモンカードに絵柄が無い。

 そのため、ユニットへの深い理解力がないと召喚に応じてすらくれない仕組みになっている。


[スケルトン戦士]

攻撃力2,000 守備力1,000


「[スケルトン戦士]の攻撃力はなんと2,000だ!!

おお? そこのエルフは攻撃力1,000のくせに攻撃態勢だなぁ?

ならばッ! ファイアエルフにアタック! 《髑髏斬》!!」


 別に攻撃名は叫ばなくても攻撃してくれる。

 しかしこれは雰囲気で考えた俺のオリジナル技名だ☆


 ホラーというよりどこかコミカルな、剣を持ったスケルトンが相手に切りかかる。

 ファイアエルフは切り捨てられ、光の粒子になって消えていった。

 この時、超過した攻撃力数値分、相手のシールドも少し削れる。


「……差し引き1,000ダメージですね。ではそちらが終わりなら、私のターン。

あの、さっきから思ってたけど」


「んん? どうしたぁ? 怖気づいたのか!?」


「あなた、キャラ変わってないですか?」


 彼女は冷静にドローをしながらツッコミを入れる。


「……はい?」


「そんなに変な口調でしゃべるような人だったんですか。」


 え?

 うん、確かに違和感があった。

 デュエル中でも怒っていても丁寧語の彼女は、育ちがいいのかな~くらいに思ってた。


「……いや、君が冷静すぎるんじゃないの?」


「これが普通ですけど……。」


「そうなの!?


《粉砕!玉砕!大喝采!!》


とか


《立ち上がれ!僕の分身!》


とか叫ばないの!?」


「ええ。別に。」


「え、まじで!? えっと……スミマセン。」


 そう言って俺は軽く会釈する。

 どうやら持ってくるテンションを間違えたみたいだ。

 だってカードゲームアニメとか漫画は、みんな叫んでるよね?

 この世界だってそういう人たちばっかりなのかと思うじゃん?

 ちょっと残念だった。

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