第九話 VSナイトクラブ

9-1 ナイトクラブ潜入


 部屋は暗い。

 よかった、誰もいないようだ。

 二人で中に入り、ドアを閉める。


 遠くから盛り上がってる声が聞こえる。

 もうクラブはオープンしてて、客が飲み始めてるみたいだ。


「……倉庫?」


「みたいだな。」


 ひそひそ声で喋る俺ら。

 真っ暗であまり見えないが、棚がずらっと並んでるように思える。

 人の気配がないので足元を明かりで照らす。


「……え、なにそれ。」


「ああこれ? 『スマホ』のライト機能だよ。博士の発明品。」


 現実世界のスマホの素晴らしさを博士に力説したら、対抗していろんな機能を付けてきた。

 でもこの万能アイテムを一人で作るとか、改めて思うと博士ってチートだな。


 棚を照らしてみると倉庫では無いことがわかった。

 書類やゴミが散らかってるだけ。

 この部屋は使ってない?


「……ここじゃダメ。……もっと人が集まる部屋に。」


「おいおいまだ行く気かよ。」


 ゴミを避けながら歩き、反対側のドアまでたどり着いた。

 タタミが魔法で鍵を開ける。

 こんな魔法を一般人が使えたら、この世界の防犯対策がおかしなことになりそうだけど。

 まさか解錠魔法に反応するセンサーとか無いよな。


「……誰もいない。」


「本当だ。」


 ドアを開けると廊下だった。

 人の気配はない。

 ただ、奥の部屋から薄暗く明かりが見える。

 俺らは忍者のように壁沿いを歩いて近づいた。


「……このドアちょっと重い。」


 奥の部屋のドアはしっかりした作りになっている。

 丸いガラス窓からは明かりが漏れている。

 体育館や映画館の重たいドアみたいな感じ。防音?


「鍵が開いてるみたいだ。開けてみるぞ。」


「……うん。」



ビュゥゥーーー……



 ドアを開けた隙間から風が出てきた。

 ドアから覗き込んでみてわかった。

 そこはクラブの吹き抜けフロア。

 客が酒を飲んでいる会場は天井が高く、二階部分は無いようだ。


 さらに会場にはステージがある。

 このドアはステージの二階部分に入るためのドアだった。

 ステージの外周を回るように足場が設置されていて、かなり背の低い手すりしか無いので落ちそう。

 ここから照明などの整備をするようだ。


「うわ、照明が熱い。」


「……ここ、全部見えるよ。」


 タタミが四つん這いになって奥へ行く。


「おい、あんま奥行くとお客さんから見えるぞ!」


 俺も同じく四つん這いになってついていく。

 場所によってはこの足場は客に丸見え。

 ステージの角の部分で一回止まり、二人で客の様子を伺う。


「これ以上先に行くと見えちゃうな。」


「……それよりもウチのパンツ見たでしょ。」


「は? いやいや薄暗いしそんな状況じゃ無いだろ。」


 確かに、彼女の服装は不思議だ。

 フード付きのマント?ポンチョ?を着てるが、スカートとよく見たら中のブラウスも制服だ。

 学院から直接ここに来たのか?

 四つん這いになったら余裕でパンツが見えてたけど気が付かなかった。

 惜しい。


「で、どうする? ここに仕掛ける?」


「……うーん、ステージよりは事務所とか……。」


『それでは皆様! 次のデュエリストを紹介だ!』


 うお、びっくりした。

 マイクの声だった。

 ステージ上に司会みたいな人が上がり、何かを始めようとしてた。

 客たちもウェーイっと盛り上がっている。


「デュエリスト? もしかして黒いケース使うのかな!」


「……え、何、聞こえない。」


 スピーカーが近くにあるのでかき消され、俺らの声がお互いに聞こえなかった。

 タタミに耳打ちしようと近づく。

 タタミも近づいてきて耳を傾ける――が。


「あ……」


「おいおいおい!!」


 バランスを崩して落ちそうになる。

 俺はあわてて支える。

 しかし俺は運動神経が悪い。

 耐えられるはずもなく、二人ともステージに落ちてしまった。



◆◆◆



ダンッ! バンッ!



 魔法的な防御効果が働いたのか、二階の高さから落ちても「痛い」で済んだ。

 しかし落ちた場所が場所だけに、痛いでは済まない。


「おい! 何だこいつら!!」


 ステージ上にいた、顔が極道なおじさんが叫ぶ。

 さらに女性もいるようだ。

 ステージには司会者、男性、女性、そして俺ら。

 さっきの司会者の言葉から、この人達はデュエリスト?



ガッ!



「うわ、いてて。」


 黒いスーツの男性が数人現れ、俺とタタミはステージ上で拘束されてしまった。

 しかし会場は何故か盛り上がっている。


『これはトラブル! なんとこのM&Wクラブに不法侵入者が忍び込んでいた!』


 司会者がヘッドセットマイクで実況を続ける。

 ウェーイと何故か盛り上がる。


『君らは学生かぁ? おおっとこのスカートはもしかして……エボカー学院の制服!

つまり彼女らはあの有名なデュエリスト学院の生徒だ!

皆さん知っていますかこの学院をー!』


 まずい。

 身分がバレた。

 どうする。

 最悪俺の持つ『白石』を開放して無理やりデュエル空間に入り込み、逃げるか?

 でも顔を見られたし学生だということを知られてしまった。


『このクラブがどんなことをしているか、彼らは知っているんでしょうか!』


 会場から笑いと罵声が飛んできた。

 「殺せ」だの「脱がせ」だの。


『まあまあ諸君! 彼女に聞いてみようじゃないか! さあ、ここに侵入した目的は何だい?』


 ステージ上にいたお姉さんが、タタミにマイクを向ける。


『……い……違法なマジックアイテムが流通してると聞いて。……このクラブに辿り着いた。』


 意外と肝が座ってるなこの子は。

 しっかり答えるとは。

 でもその回答は危ない。事実を知ったら殺されるまである。


『なんとこの子の目的は"特製デッキケース"だった! 取材か?正義感か?物欲か?

いずれにしてもここにいるデュエリストと目的は同じだったぁ!』


 特製デッキケース?

 目的は同じ?

 ってことは噂は本当で、違法アイテムを求めてこのクラブに集まった連中がいるってことか。


『この店に侵入するってことがどういうことか分かってての行動なのか!

体を重力魔法で縛り付けて海に沈められてもおかしくはない!

なぜそこまでしてこの子は特製ケースを求めるのか!!』


 そこまでは考えてない。

 司会者が暴走してる。


 黒服の一人が司会者に耳打ちする。

 俺らの処遇を考えてるのか?

 少しでも隙を見せたら逃げてやる。


『いやいや! ここはステージの上だよショウちゃん!』


 誰だよショウちゃんって。

 黒服が申し訳なさそうに頭を下げてるってことは、こいつがショウちゃんなのか?


『今このステージには、デュエリストしか立ってないんだぜ?

ステージは戦場! デュエルは必定!

あの有名学院の生徒と、一夜限りのデュエルをスタートだああああ!!』


 客が手に持った酒を上げ、わああああっと盛り上がる。

 デュエル……か。

 なら行ける気がする。

 この司会者がそういうノリでよかった。


『対戦者はそこのお嬢さん!』


 え!

 俺じゃないのか!


『そしてーー! 対するは……オ・レ!!』



ウォォォォォ!!



 え、何!?

 会場の盛り上がりが最高潮に達した。

 この人って司会者でしょ? 司会者自らがデュエル!?


「おい、オーナーが直接デュエルするなんて久しぶりだな。」

「テンション上がってきた!」


 黒服たちも何か言ってる。

 そんなにすごい人なのか。


「おい! タタミん、大丈夫か!?」


「……わかんない。」


「俺と代わろうか?」


 首を横に振るタタミ。


「……危険を承知で飛び込む……それがウチのジャーナリズム。」


 ああ、またわけのわからないスイッチが入った。

 この子は意外と頑固だな。


『では周りの人は離れて~? さあ! オレと君との真剣勝負! 始まるぞ!』


「……うん。」


 黒服たちがステージ袖に掃ける。俺も引きずられていく。

 ステージの中央には司会者とタタミのみ。


『Regeln(ルール)!! 脱衣デュエル!!』



ワァァァァァ!!



「……は?」


「えええええ!?」


 待って待って、何だそれ!

 初めて聞いたよ!

 りーげん?

 よくわからんけど、脱衣デュエルを始めようって言うのか!?


『言っておくがこれは強制デュエルだ! 参加者に拒否権は与えられない!』


 しかも黒いデッキケースを掲げている。

 また許可していないのに、勝手に周囲がデュエル空間に切り替わった。

 強制的にデッキケース同士が光で結ばれる。やはりあのアイテムだ

 今回の空間はコロッセオのような「闘技場」。逃げ場はない。


「……待って! 脱衣って!」


『DECK ON!!』


 今までと違う「強制ルール指定」で、デュエルが始まってしまった。

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