9-2 誓約魔法の穴


『ルールは簡単だ。シールドが一枚壊れたら一枚脱ぐ! 単純!

どっから脱いでもいいぜ? OK?』


 イェァァァ!!っと数人のテンションが上がる。

 他の人は笑ってる。テンションが上ったのは一部の彼女の体型マニアだろうか。

 周囲を見ると、闘技場の観客席に店で酒を飲んでたお客さんがいる。

 キャバ嬢みたいなお姉さんやスタッフまでいる。

 店にいる全員が観戦モードでデュエル空間に入り込んでいた。


「……こんな多くの人の前で……。」


「タタミ! なるべくダメージを食らわないよう戦うんだ!」


「……うん。」


 そんなこと出来るわけない。

 けど、このデュエルを受けてしまったからには勝つしか無い。

 俺も助言ルール違反限界までサポートしていこう。



◆◆◆



 先攻はタタミだ。

 タタミは魔属性下級ユニット[超弦理論の悪魔 リング Lv2]を召喚した。

 ぱっと見は悪魔に見えない、金色ショートカットの賢そうな女の子。

 黒いワンピースを着て、守備態勢で構えている。


[超弦理論の悪魔 リング Lv2]

攻撃力1,000 守備力2,000 スペル枠:魔属性1個


『おーっとこれは可愛い小悪魔だ! レベル表記があるってことは成長するタイプのユニットか~?』


 対戦相手のおっさん、実況しながら戦う気か。

 そんなんで集中できるのか?


『次は私のターンドロー! 下級ユニット[パワーオーク マスクマン]の登場だ!』


 わああっと会場が盛り上がる。

 ゲームでよく見る豚のモンスター「オーク」だが、こいつは体が鍛え上げられている。

 赤いマスクも被ってるし、プロレスラーみたいだ。


[パワーオーク マスクマン]

攻撃力3,000 守備力3,000


『[パワーオーク マスクマン]が超弦理論の悪魔へ攻撃! 攻撃力は3,000!

それに対して相手は守備力2,000! はたして彼女はどう戦うのか!!』


 いちいちうるさいな。

 状況は分かり易いがこれ最後までテンション持つんだろうか。


「……攻撃に対抗。……スペルカード《時空の防御壁》、ユニットの代わりにウチがダメージを受ける!」


 超弦理論の悪魔がスペルを放つと、敵の目の前に壁が現れた。

 マスクマンが壁にぶち当たると攻撃は止まったが、何故かタタミのシールドに傷がついてしまう。


『おーっといきなりスペルカードを使ってきたー!

序盤から使ってくるとは、そんなにこのユニットを守りたいということなのかー?』


 そりゃそうだ。

 デッキジャンルは【レベルアップ】。

 「Lv」がついてるユニットはスキルによって進化していく。

 これをどこまで育てられるかが彼女のデッキの肝だ。


『私のターンはこれで終了! 相手シールドは22,000たがまだ脱ぐまでに至らない!!』


 自分で脱いでもいいんだぞーとヤジが飛ぶ。

 彼女はとても戦いづらそうだ。


 次はタタミのターン。

 下級ユニット[黒ひつじ]を守備態勢で召喚し、守りを固める。

 体毛が黒く、顔が白い、ちょっとイケメン感漂う羊だ。


[黒ひつじ]

攻撃力1,000 守備力1,000


『さあ! 攻撃しないならどんどん行っちゃうよ! ドロー!!

私は手札から下級ユニット[パワーオーク アクロバット]を召喚!


[パワーオーク アクロバット]

攻撃力2,000 守備力1,000


『さ・ら・に! アクロバットのスキル発動!

デッキの一番上がサモンカードだった場合、このユニットと引き換えに無条件召喚が出来る!』


 地面の魔法陣から出てきた瞬間バク転をキメるオーク。

 そいつが片膝を付いて司会者のデッキケースを指差すと、ケースからシュパッとカードが飛び出る。


『引いたカードは~? 中級サモンカード!

召喚する中級ユニットは……[パワーオーク ガチマッスル]だぁぁ!!』


[パワーオーク ガチマッスル]

攻撃力5,000 守備力3,000


「来たきた!」

「出たよオーナーのお得意技、脳筋デュエル!」


 黒服たちのテンションが上ってる。

 あれ? さっきからオーナーとか言ってるような?


『このユニットが出てから次のターンまでは……なななんと! スペルカードが使えない!』


「何だって!?」


 思わず声が出てしまった。

 そうか、そういうデッキだったか。

 お互いのスペルカードを封じるってことは、自分はスペルを殆ど使わないって事だ。


『さあ! 魔法なんて使ってないでぶつかり合おうぜ!

[パワーオーク ガチマッスル]攻撃力5,000で[黒ひつじ]に攻撃だ!』



メェ~~~(鳴き声)



 普通の?パワーオークより一回り巨体なガチムチが、羊に襲いかかる。

 ラリアットを決めこみ、羊は無残にも飛び散った。


「……[黒ひつじ]のスキル発動! ……相手ユニットを一体『拘束』状態にする!」


 羊の飛び散った毛が集まり、まだ攻撃していない[パワーオーク マスクマン]へまとわりつく。

 マスクマンは動けなくなった。


『おおっとこれは特殊状態『拘束』! これにかかると攻撃にも防御にも行けない恐ろしい効果だ!

私はこのまま攻撃できずに終了だ~!!』


「……私のターン、ドロー。」


 よし、確か悪魔の効果はこのターン使えるはずだ。

 [超弦理論の悪魔 リング Lv2]は召喚されて二回目のメインフェイズ開始時にレベルが上がる。


「……デッキと魔力を消費してレベルアップ。……中級ユニット[超弦理論の悪魔 リング Lv4]!」



シュウウウウウ……



 超弦理論の悪魔に紐のような輪っかがたくさん集まり、卵のように囲まれる。

 卵が光り輝くと、中から成長した悪魔が現れた。

 金色の髪が肩まで伸びていて、目つきが鋭くなっている。


[超弦理論の悪魔 リング Lv4]

攻撃力4,000 守備力2,000 スペル枠:魔属性2個


「……[超弦理論の悪魔 リング Lv4]のLvアップ成功スキル。

相手ユニットのうち、低い方の攻撃力分ダメージを与える!」


『なんとぉ! レベルアップボーナスはダメージスキルだったぁ!

私のシールドに傷が付いてしまう!』


 悪魔は手に持っているムチでパシッと[パワーオーク マスクマン]を叩いた。

 それに連動して対戦相手のシールドにヒビが入る。

 何故かマスクマンはどことなく嬉しそう?


『これで私のシールドライフは22,000! 彼女のライフも22,000、並んだぁ!

果たして最初に肌を見せるのはどっちになってしまうのか!

ターンは? 終わり? 攻撃しない?』


 おっさんとタタミがアイコンタクトで頷きあう。


『では私のターーーーン!! ドロー!!』


 くそ、敵ながらこのおっさんが面白くなってきた。

 ユニットのコミカルな動きも面白いし、スペルを封じる手もうまい。


『さあ、ここが悩みどころ! またスペルカードを封印するのか?

はたまた別の手で行くのか! 私は悩んでいる!!』


 悩むってことは手数を考えられるだけ持っているということだ。

 スペルカードを封じられたら、手札がほとんど無駄になる。

 相手の手札は六枚、こっちは五枚だが内容によっては差が出ているということ。

 出来るだけ温存せずに使い切ってほしい……


「あ!」


 思い出して声が出てしまった。


 俺は周りを取り囲まれてた黒服から距離を置く。

 対戦相手の司会者が笑いを取ってくれてる今がチャンス。


「おい、タタミん聞こえるか?」


「……え!? ……聞こえる。」


 博士の発明ブルートゥースイヤホン。

 こいつの特徴は「魔力の干渉を受けない」。

 つまり……デュエル空間の助言禁止誓約にひっかからないのだ。

 俺がたまたま片方返してもらって、タタミがもう片方を仕掛けようとしていたのが役に立った。


「俺が助言するから、わからないことがあったら聞いてくれ!」


 タタミが頷いた。


『つまり! ここはこいつの出番ということだ!

下級ユニット[パワーオーク ブーメランパンツ]召喚!!』


[パワーオーク ブーメランパンツ]

攻撃力3,000 守備力1,000


 魔法陣からオークが出てきたが、元々多い肌露出が限界まで際立っている。

 ギリギリのブーメランパンツを履いた、ピンク色の肌のプロレスラーだ。

 しかもそのオークは……パンツを脱いだ。


『おおっと会場の女性方失礼! 安心してください、彼は履いてますよ!

あれは彼の武器だ! やれ、ブーメランパンツ!』


 手に持ったパンツをタタミに投げる。

 タタミが本気で怯える。

 投げたパンツはプーメランに変化し、タタミの手札にぶつかった。


『ブーメランパンツのスキル! 召喚した時、相手のスペルカード二枚を破棄させる!』


「……どうしようりっくん……二枚も捨てろって……。」


「大丈夫だ。右端二枚いらない。」


「……え? でも。」


「このスキルを使ってくれてよかったと思うくらいだよ。」


『ブーメランが戻ってくる! 私のスペルカードも破棄されるがー?

そんなことは無い! なんと私の手札にはスペルカードが一枚も無ぁい!』


 【フルモンスター】と呼ばれる構築。

 魔法カードなど、補助カードを一切入れないデッキをそう呼ぶ。

 基本的には面白デッキだが、今回の対戦相手のように一方的にスペルカードを封じれると強い。


 だからタタミに捨てさせたカードは「スペル無効化系スペルカード」。

 この相手には「死に札」だ。


『では相手の手札が三枚になったところで、[パワーオーク ガチマッスル]が攻撃!

相手の悪魔のパワーは4,000! 対するマッスルパワーは5,000!

レベルが上ってもマッスルの前では……』


「……対抗、スペルカード《逆落とし穴》……攻撃してきたユニットを破壊する。」


『これは驚いた! 彼女はまだスペルカードを持っていた!』


 マッスルが悪魔に突進してきたが、足元に穴が空いた。

 と思ったがものすごい勢いで天空までぶっ飛んでいき、見えなくなった。


『超弦理論の悪魔はスペル枠二つ! だがもうスペルカードは持ってないはず!

しかーし! 私のパワーオークたちは攻撃力3,000、悪魔に届かなーい!

守備態勢に変えることも出来ないためこのまま棒立ちだぁ!』


 よかった。

 やはり相手にスペルが無いってことは、咄嗟の攻撃力アップも警戒しなくて済む。


「……じゃあウチのターン。……ドロー。」


 タタミがひそひそ声で通話してくる。


「りっくんがついてるからちょっと安心出来た。」


「おう、それはよかった。出来るだけダメージ喰らわないように行こうな。」


「……うん。」

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