第八話 VSミーム

8-1 情報収集法


「よし、見ててな。


《リリース》!!」


「……おお! ……これが!」


 タタミと俺とでトレーニング中。

 タタミが《リリース》を間近で見たことがないということで、俺の部屋で実践中。


 とある日の放課後。

 この日は学年リーダーたちが忙しいということで、俺とタタミだけが作戦会議していた。

 作戦会議と言っても状況報告のみ。

 あのヤクザ事件から奴らの情報はあまり得られなかった。



ゴゴゴゴゴ……



 デュエル空間は雲の上。天界みたいな場所。

 それなのに地響き。

 強く光を放ち、雲の塊を突き抜けて現れたのは巨大な赤いドラゴン。


「《リリース》召喚! [サンブレイズ・ドラゴン]!!」


「おおお……すごい。……トレーニングだけどこんな近くで見られるなんて……。」


「な? これがリリースってルールだ。真似すんなよ?」


 トレーニングモードを終え、普通の部屋に戻る。

 俺とタタミは椅子に座る。


「……ダメなの?」


「ヤクザから聞いた話だと、魔力が逆流して最悪死ぬって。」


「……ひぇぇ。」


 一度ユニットを出すために使った魔力。

 それを自分に戻すわけで許容オーバーだと。

 未だに仕組みはよくわからないが。


「耐えられる自身があるならいいけど。」


「……りっくんは何で大丈夫なの?」


 あー、やっぱその話になるか。

 てかいつのまにりっくん呼びになってるんだ。


「えっと実は俺、生まれつき魔力が無くて。魔力補助の治療を受けてたんだ。」


「……生まれつき無い? 魔力欠乏症ならもっと魔力に弱いと思うけど……?」


 うお、鋭いな。

 そういうもんなのか? 知らないで適当なこと言った。


「え!? ああ、病気っていうかもともとって言うかえーっと。」


 こういうイレギュラー対応時のアドリブは弱い。


「……うん、まありっくんが何かを隠してるのは分かってるよ。……オリティアさんも。

……でも犯人を捕まえたら全部教えてね。」


「わ、わかった。」


 わかった、と言ってしまった。

 それでは認めてるような物じゃないか。

 この子は口下手だが、本当に洞察力があるように感じる。


「でもその、やっぱりタタミは記者って感じがするね。」


「……え、そう?」


「なんか情報収集能力? に長けてるっていうか。」


「……それは嬉しい。」


「俺もなー、そんな能力が欲しいわ。」


 俺は元の世界に帰るため『赤石』が必要だ。

 だが奪われた赤石を取り返す見込みはまだ無い。

 しかも情報収集は彼女たちに任せきり。

 俺はコミュ力も無いし捜索方法の知識もない。

 なんだか情けなくなる。


「GoogleとかYahooがあったらなぁ。ネットが便利すぎた弊害か。」


「……ぐるぐる?」


 やばい!

 思わず検索したくなって呟いた。

 検索依存症ってやつか。


「あ! いや、情報収集って難しいなって! ぐるぐる回って調べ回って!」


「……うーん、フィールドワークは基本だね……。」


「そうそう。ま、俺が出来るのはみんなにカードゲームのセオリーを教えることくらいだよ。」


「……地味に授業より役立つよ。」


「ありがとう。」


「……で、《リリース》って下級ユニットを……どうすればいいの?」


「ああ、生贄を捧げるようなイメージでね、こう……。」


 うまくごまかせた? のかな。

 この日は夜遅くまでカード談義をした。



◆◆◆



 しかし困ったな。

 メンバーが一人増えたことにより、俺の出番がますます無くなってきた。

 上層部に顔が利くオリティア。

 生徒や先生に慕われているクラウ。

 新聞部員達の取材情報というデータベースにアクセスできるタタミ。

 俺も情報を仕入れて「さすがリクシン!」と言われたい。


「どうしたー? 考え事か? 麺伸びるぞ?」


 そうだ、アイヌマと昼飯中だった。


「おお、考え事してた。いやー、情報を集めるって難しいね。」


「何の情報?」


「ほら、お店の情報とか、場所とか。地図はあっても店の情報は載って無いでしょ?」


「ああ、たしかに。」


 アイヌマは唐揚げのようなものを頬張りながら返事をした。

 別にお店の情報を仕入れたいわけじゃないが、「情報」を探る手段って意外と難しい。

 元の世界だったらスマホでピピッと調べられるのに。

 地図アプリは博士に作ってもらえても、情報網までは作れないだろう。


「情報ったら……やっぱ隣じゃね?」


 ちょいちょいっと隣を指差すアイヌマ。

 ここは食堂だから隣は……


「図書館? 図書館に最新の情報は無いでしょー。」


「いや、あると思うよ。午後の講義休講だし、行ってみる?」


「まじで? 最新の情報があるなら行くいく。」


 俺達は昼飯を食べたあと、図書館へ向かった。



◆◆◆



「うわ、広っ。」


 いつも隣で昼飯食べてたが、図書館がこんなに広いとは思わなかった。

 面積が広いというか、縦に広い。

 壁にびっしり図書が並べられ、それが地下に続いている。

 部屋の真ん中が吹き抜けになっていて、螺旋階段のように各フロアが階段で繋がっている。


 俺らが入ってきた一階が受付&エントランス。

 ここで貸し借りを頼むようだ。


「で、本じゃなくてこれだよ、これ。」


「え、そっち?」


 本棚の方に向かわず、受付の近くのブースに案内するアイヌマ。

 俺もついていく。

 ブースには、壁際の机上に二個ほどマジックアイテムが用意されていた。

 その前には椅子がある。

 アイテムは家庭用ゲーム機サイズの石版の上に、四角いガラス板が浮いてるような形。


「ここ座っていいんじゃね? 座れよ。」


「おう。で、何これ?」


 俺らはブースにある椅子を二個占領し、アイテムの前に座る。


「実は俺も使い方わからないんだけどさ。『ミーム』って名前の道具なんだけど。」


「知らないのかよ! んで?」


「ここに手を置いて起動するしょ?」


 アイヌマが石版の一部分に手を触れると、浮いているガラス板に文字が現れた。

 それを読むために俺は《翻訳メガネ》を着ける。


「ここ触れて……この辺が入力のエリアで……こうやって検索とか……」


「え!!」


「おう、どうした!?」


 こ、これ!


 パソコンだ!!


「『検索できる端末』か! これネットワーク繋がってるの!?」


「ネットワーク? えーっと、特殊な魔力の情報網に繋がってるとか聞いたことあるけど。

昔ダンジョンにあった『情報を共有する石版』ってのを改造したアイテムらしいよ。」


 情報を共有する石版?

 セーブポイントか何かか?

 それともゴシップストーン、案内板みたいなやつか……

 まあいい、これは使える。


「やべぇ、俺これ使えるかも! ちょっと触ってていい?」


「マジか。俺は無理だわ難しすぎる。じゃあ久々に図書館来たし、本でも読んでるわ。」


「おう!」


 そう言ってアイヌマは地下へと潜っていった。

 この大量の本から目的の物を探すのに、この端末が使えるんじゃないのかな。

 とにかく、この世界にも個人用電子計算機的なアイテムがあったとは。

 まずはどんな使い方が出来るか。OSは?性能は?表示能力は?

 ああ、理系大学の血が騒ぐ。



◆◆◆



「リクシン、まだ触ってたのか。使い方分かるの?」


「ああ、なんとなく分かってきた。」


 しばらくしてアイヌマが帰ってきた。

 しばらくして、と思ったがすでに外は夕暮れ。


「俺は目的の本も読んだし、帰るわ。」


「俺もこの端末で出来ること分かったし帰るよ。」


 俺達は図書館から去った。


 結論から言うと、これはほぼインターネット端末と言える。

 見れるサイトは1990年代末期の雰囲気で、各企業のホームページなどだった。

 ただ写真や動画も見れるようで、技術レベルがちぐはぐで面白かった。

 しかし学院の端末では流石に危ないサイトには繋げない。


 それなら答えは一つ。



◆◆◆



「すみません、ここに『ミーム』売ってますか?」


 学院から帰宅せず、そのまま駅前の大きなアイテムショップへ。

 「鏡型TV」を買ったあの店だ。

 元の世界のように「電気屋」とかくくりが無いため、デパートみたいで何度来ても面白い。


「はい、ございますよ。」


 元気な店員に誘導される。


「こちらでございます。お客様の使用用途、大きさ、ご予算……」


 接客トークが始まる。

 この流れはショップ店員みたいで元の世界を思い出す。

 しかし値段設定まで90年代のパソコンと同じだ。

 かなり高級品なようで、まだ普及していないんだろうか。

 「海底遺跡産」とかよくわからない表記があるが、スペックを見て最適なものを選ぶ。


 結局購入したのは閉店ギリギリだった。

 「女の子の間で人気の通信アイテム『コンパクト』」とか

 「魔法OKのドッヂボール勝負などが見れる『スポーツ専門チャンネル』」とか

 色々契約させられそうになったのはきっぱり断っといた。

 どこの世界も必死だな。

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